テラーノベル
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ドアを開けると、特別室周辺は、煙が微かに広がる程度だったが、その先はどうなっているかも分からない。
部屋の中よりも廊下の方が、バチバチと燃えている音が耳に届いている。
「九條。ハンカチを口と鼻に被せるように当てろ」
「……はい」
二人はハンカチを取り出し、鼻から下を覆う。
「いいか? 俺から離れるな」
「…………はい」
二人は焦げた臭いと煙が薄ら漂う中、娼館の外を目指した。
「っ!!」
特別室から抜け出した二人は、廊下の角を曲がった瞬間、戦場かと思うような光景に絶句する。
客室フロアの廊下は既に煙が充満し、所々炎が上がり、行手を阻んでいるのかのようだ。
悲鳴を上げながら一斉に外へと逃げ惑う、他の娼婦と客たち。
パリンッ、ガッシャーンッとガラスの割れる音が至る所で響き、火の粉が宙を舞う。
二人に襲い掛かる熱風と轟音、燃えながらも倒れてくる、多くの焦げた柱。
全方向から二人をこのまま閉じ込めるように、炎の壁は徐々に大きく迫り上がり、嘲笑うかのような火の揺らぎにも構わず、侑と瑠衣は姿勢を低くして外へと目指す。
しかし戦慄を覚えた瑠衣は足が竦み、思うように歩けない。
「九條! しっかりしろ!!」
「はっ……はいっ」
侑が瑠衣の手を取り、後ろを見やると、廊下は瞬く間に燃え広がり、膨大な焔が踊るように燃え盛っている。
「この季節だから火の回りが早いな。逃げるぞ!」
有無を言わさず、瑠衣の手を引き、歩き出す侑。
ようやく階段まで辿り着いた二人が、下りようと一歩踏み出した時、瑠衣が不意に立ち止まった。
「あ……」
「おい! こんな時にどうした!!」
声を荒げる侑に対し、瑠衣は放心状態になったかのように、ポツリと零す。
「楽器…………響野先生からもらった楽器…………取って……こな……きゃ……」
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