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「お前!! こんな時に何をバカな事を言ってる!!」
怒りを露わにした侑の声音を無視して、掴んでいた手を引き剥がし、瑠衣は三階の自室へと向かおうとする。
「先生からもらった…………大事なお守り……持ってこな……きゃ……」
「九條っ!!」
侑は強引に瑠衣を引き寄せるが、それでも何かに取り憑かれたように自室へ向かおうとしながら、顔をくしゃくしゃに歪ませ、叫ぶように侑に言い放つ。
「だって!! 先生からもらった楽器は絶対に手放さないって決めたの!!! 私の唯一なの!!! だから……持ってこなきゃ!!」
火の手は容赦なく迫り、階段周辺も、いつ炎の海に呑まれるかも分からない。
瑠衣が更に上へ行こうとすると、三階から煤に塗れた凛華が身体を引き摺るように下りてきた。
「愛音! 上はもうダメだ! 早く逃げな!!」
凛華が鬼気迫るような声を上げ、瑠衣に命令した。
「凛華さん!! 私の楽器!!! 私のお守り!!! 響野先生からもらった楽器だけは絶対に手放さないって……決めたんだからぁあぁっ!!!!」
発狂するように凛華に訴える瑠衣の言葉に、凛華は目を見開く。
「愛音、早く逃げな!! あんたが大事にしているお守り、後でちゃんと届けるから! 私は客室フロアも見回らないとならないんだ。さっさと逃げな!!」
瑠衣に言った後、凛華は何かを感じたのだろう、隣にいる侑を見やると一言だけ伝えた。
「響野様。愛音…………いや、九條瑠衣の事……よろしく……お願い…………致します」
最後の力を振り絞るように、腹の前で両手を重ね、丁寧な一礼をする。
「…………っ……しかしっ」
「私の事はいいから!! 早くお逃げなさい!!!」
凛華はピシャリと言い放ち、烈火の海に包まれた客室フロアへ辿々しく歩いて向かっていった。
「っ!!」
「いやぁぁあぁっ!!! 凛華さん!!! 嫌だ!! 嫌だぁぁあぁぁっ!!!!」
凛華の後を追うように手を伸ばしている瑠衣を、侑が強引に引き寄せた。
「九條! 時間が無い! 逃げるぞ!!」
「凛華さぁぁあっ!!!——」
一目散に階段を駆け下りると、玄関ロビーも火の手が既に回り、バチバチと燃え盛る音だけが響いている。
赤々と燃え続けているクリスマスツリーが、更に恐怖感を煽るが、出口はすぐそこだ。
煤を被りながらも辛うじて外へ脱出した侑と瑠衣は、更に離れた所まで駆け抜けた。
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