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実のところ、倉田には自分たちに霊能力ができた時から天狗様のお世話係として2人とのパイプ役にもなっていた。子供だった2人は倉田に何度も怒られてはいた。
怒られると言うものの今のような不気味さのあるものであって子供ながらに怖かったと言うのも覚えている。だが彼のおかげで霊能能力をうまくコントロールしたり手強い霊から身を守って貰えたりアドバイスをもらったりしていた。
久しぶりに倉田の洗礼を受けたところでいよいよ天狗様の小屋にたどり着いた。
「今日は機嫌が良さそうだから……あ、そのショコラを渡せば喜ぶでしょう。甘いものには目がない、さらに都会のものにはね。今のこの世はネットひとつですぐ手に入るけど天狗様はそういうのが嫌なんですよ、私もですが……こうやってここまで登ってきて手渡しをする、それがいいんです……すぐ手に入っちゃダメです」
と小屋のドアを開けると甘い匂いがする。
「ういっすー! 虹雨、きたか! ……お前は由貴か」
大柄の鼻の大きな男がいる、由貴よりも倉田よりもでかい男だ。その男の手には小さい丸いチョコ、足元には無数の箱が置いてあった。
「……天狗様……! 何をしてらっしゃるのですか!」
倉田にそう言われるとその男、天狗様と言われる男は箱を蹴り上げて隠したつもりだったがチョコが散らばり、拍子に柱に小指をぶつけて痛がってのたうち回っている。
散らばったチョコは虹雨達が持ってきたブランドのものやハイブランドの関東で出回っているものである。倉田をはじめ坊主達がそれらを取り、片付けている。もはやドリフのコントのようだ。
「……なんで持ってるんや」
「虹雨が前に持ってきてからすっごく気になっちゃってー頼んじゃった」
「そうやったなぁ、前持ってきたやつのお店の新作やん。そんなに気に入ってるならそっちがよかったか。今日は違うやつ持ってきた」
「ほ、欲しい!!」
と虹雨が渡そうとするとすかさず倉田が間に入って奪い去った。天狗様の静止を振り切って外に出て天高くチョコを投げつけ、カラス達がやってきて全部喰らっていった。
「なにをする倉田! 別にいいだろ、チョコの一つや二つ」
「確かに一つや二つはいいですよ。でもそんなにこっそり持ってたら一つや二つじゃないでしょ。あんなに食べて、あれも食べたら虫歯になります」
「虫歯にならん! ちゃんと歯磨きしとる!」
ここからしばらく倉田と天狗様のやりとりが続く。虹雨も由貴も坊主もいつもの事だ、と坊主も一緒に座って2人を見ることにした。
「こないだも歯が痛いって言ってここに歯医者さん呼んだら親知らず生えてて奥歯と親知らずの間に虫歯が出来ていて歯茎も腫れて膿んで……なのに抜きたくない、抜かないって」
「だって痛いんじゃもん、前右の奥の二つの親知らず抜いたのにまた抜くなんて嫌じゃ」
「子供じゃないんだからっ。それに今回はレントゲン撮らなくちゃ手術も工事、いいや改修工事よりもひどくなるってあなたが大暴れするから」
「それはいくらなんでも誇大表現じゃっ」
「言っとくとですね、ここまで歯医者さんを派遣するのにいくらかかってると思ってるんですか。医師だけでなくて看護師、器具、それら器具や薬品を運ぶ運送費……」
「あと出張費じゃろ」
「わかってるくせに! 親知らず抜かない限りチョコは当面禁止です!」
天狗様はうずくまって泣いている。
「相変わらずやん、天狗様」
「やろ、安心したか。帰ろか」
と虹雨と由貴が帰ろうとすると
「あほ、帰るな」
と倉田に止められる2人だった。
天狗様は涙を拭い、高座に座ってその前に虹雨はリラックスして胡座、と由貴が正座をしている。
倉田と坊主2人は天狗様のすぐ横に正座して座る。とても異様な光景である。
そもそも天狗様の容姿は人間ではあるが体が大きく鼻もでかい。
感情が昂ぶると全身赤くなる。天狗だからと言っても絵本や本に載っているような真っ赤な天狗とは違う。
そしてそんな天狗さまにお付きの背の高い男と坊主2人、黒尽くめの虹雨とカジュアルな由貴。
「まぁあれから色々あって、地元に残ってた虹雨も奮闘してくれて保たれたものの」
「奮闘やなくて働かされてたん、ほぼ無休で」
虹雨のげっそり具合から過酷さがわかる。
「なにゆうとる。お歳暮とかお中元とかお供えの残りとかお清めの塩とかやったろ」
「ああ、俺の給料はほぼ実家の居酒屋で働いた分やわ。そっちからはもらっとらんぞ……っ」
と言う虹雨に、倉田の視線が痛い。黙った。天狗様は大きな咳払いをした。
「でもこうして由貴と戻ってきてくれたってことはまた手伝ってくれるってことやな! 嬉しいぞー」
由貴は苦笑いする。そりゃ安月給で虹雨が辛い思いして子供の頃のように悪霊退治をしていたら割に合わない。子供の頃は好奇心旺盛で楽しくやっていたようなものだが、社会人になり賃金をもらって働くようになってからは前と同じではダメである。
「本当自分本位ですね、死ぬところを天狗様が助けてやったんですよ。しかも乞いた由貴の方がやる気もないなんて。それにまた死のうとしたなんて……都合良すぎです」
倉田は立ち上がろうとしたが天狗様が宥めた。
「はい、都合良すぎですね。僕もわかってます」
「また彷徨って野垂れ死ぬ気ですか。大人しく天狗様の元で働いていればいいのです、あなたたちは」
天狗様は倉田のその言葉にウンウンとうなずく。どっちが偉い人間なのだろうか、と思うのだが。
「まあまあ。……でも東京の方である程度子供の頃の感覚は思い出したろ、ぜひ古巣に戻ってまた頑張って欲しい」
「はい、頑張ります……」
由貴はなんだかんだで優しい天狗様に鼓舞され、頑張らなくてはと思った。
#衝撃のラスト
山根利広
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コメント
1件
天狗様のチョコ好きが思った以上に重症で笑った😂✨ 倉田さんの「虫歯になる!」って説教、でもチョコ取り上げたら泣いちゃう天狗様のギャップが可愛すぎる〜!最後の由貴くんの「頑張ります」にじんわりした。あのやりとりの後の優しさが沁みるよ…!次も楽しみにしてるね⋆♡