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「よし!キヨシ!行っちまいなっ!!!」
威勢の良いお浜の声と共に、障子が勢い良く開かれた。
「櫻子ちゃんと、手に手を取って、新天地へ!って、悪かぁないじゃないか!」
「おお!そうだな、お浜!二人で、旅立つのもいいかもしれねぇ!その前に、今晩、決めといた方がいいんじゃねぇか?!」
何故か、すりこぎ片手に弾けるお浜へ、布団を担いだ龍が、煽るような事を言う。
あー、重いわと、龍は、愚痴りつつ、運んできた布団を床へ置いた。
「櫻子ちゃんが、今晩は一緒に寝るって、前向きなんだ。こりゃあ、お浜、決め時ってもんじゃねぇかぁ?いや?ってことは、布団なんかいらねぇか?」
「何行ってんだよ。形だけでもないといけないだろ?いきなりってのは、櫻子ちゃんが戸惑うだろうしねぇ……」
「なあ、お浜。て、ことは、今晩は俺らも側にいた方がいいのか?櫻子ちゃんが困った時に、やっぱ、誰かいた方がいいだろ?」
「そうだ、だよねぇ!龍!」
こほんと、咳払いが聞こえた。
喜び勇んで飛び上がる寸前の二人を、八代が、冷ややかに眺めつつ、
「柳原さん、どうかお気になさりませんように。酔っぱらいの戯言と流してください」
などと、何者が現れたのかと、呆然としている圭助へ言い含めた。
「いや、ちょっと、八っつさん!」
「や、八代の兄貴、酔っぱらいって?!社長も、なに、こっそり笑ってるんです?!」
「……で、二人して何しに来た?社長と櫻子さんの初夜の心配か?」
「八代!!!」
金原が飛び起きて、同時に、痛てぇ!と、叫んだ。
「なんだよ、キヨシ。元気じゃないか。勝代に刺されたって聞いたから、あたしゃー、びっくりしてさあ……」
とりあえず、勝代を成敗してやろうと、事の次第を知らせに戻った八代に、すりこぎ片手に、くっついて来たのだとお浜は息巻いた。
が、柳原の家には、勝代は居《お》らず。それどころか若い男と逃げたらしいと聞いては、虫酸が走ると、苛立つばかりで……。
「……お浜、結局、何しに来たんだ……」
金原は、喋り続けるお浜を制し、変わらず呆然としている圭助へ、軽く頭を下げる。
「あっ、そうそう、そうだよ。櫻子ちゃんが、お父様は、お食事をどちらで摂られますか、だってさ。良くできた子だよねぇ。そういえば、珠子の食事まで、用意していたよ!!!そうだ、柳原の旦那!!あの、妹、なんで手伝わないんだい!!」
お浜は、圭助へ、すりこぎを差し向け言放った。そして、
「柳原の旦那、もう、ここは金原商店の物なんだ。櫻子ちゃんの手前ってもんもあるだろう!珠子にも、それ相応、しっかり働いてもらうよっ!!」
と、厳しい言葉を投げ掛けた。
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