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#大衆食堂
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「とはいうけどよぉ、お浜、珠子に何ができる?」
龍が、真顔で口を挟んでくる。
「確かにそうだねぇ。何もできない女じゃ、どうしようもないよねぇ」
「いや、何もできない女なら……」
あっと、お浜が声をあげ、龍も、意地悪く口角を上げた。
「そう、妾奉公ってもんがあるだろ?」
「だよねぇ、龍!櫻子ちゃんは、冨田の元へやられるどころだったんだ!」
「なっ?そうだろ?櫻子ちゃんは、妾にされそうになって、妹はのんのんとしてるってのは、どういうことだよ?」
お浜と龍の掛け合いに、圭助の顔は蒼白になって行く。
「柳原さん、こいつらの言うことは、確かに理に適ってますが、とにかく、酔っぱらいの戯言ですので」
八代が圭助へ忠告めいた口調で言った。
「……ですが、ですが……」
圭助は、口ごもり、頭を床に擦り付ける勢いで伏した。
「た、珠子は……珠子は……」
怯えきる圭助へ、八代が声をかける。
「柳原さん、どうかご心配なく。鬼キヨの言葉じゃありませんからね。酔っぱらいの戯言です。ここにいると、邪魔が入りますね。私達は、店の方へ移りましょう。あちらも混乱しているはずですから。先々のことを、ハッキリさせるべきでしょうし……」
「では、お父様と八代さんのお食事は、いががいたしましょうか?」
か細い声が流れてきた。
金原の食事だろう、膳をもった櫻子が、廊下に佇んでいる。
「……お浜さん、龍さん、お食事できてますから、どうか奥へ。それから……」
「心配するな、二人の言うことは、単なる、でまかせだ」
金原が、顔を曇らせる櫻子の胸内を読み取ったかのように、声をかけた。
突然現れた櫻子に、お浜も龍も、泡を食った状態で、しどろもどろになりながら、すごすごと、奥へ向かって行く。
「じゃあ、柳原さん、私達も、店へ向かいますか」
八代に誘われて、圭助も、かろうじて落ち着きを取り戻し、その後を追う。
「櫻子さん、社長を頼みましたよ。何かあれば、酒井先生を呼ぶように」
すれ違い様に、八代に言われ、櫻子は、こくんと頷いた。
金原は、静かに横になり、櫻子は、枕元に膳を置いて腰を下ろした。
「……お食事、食べられそうですか?お粥にしてみました。今晩は、念の為に、付き添います。い、一緒に寝る訳じゃ……ないです……」
ああ、と、金原は小さく返事をすると、緊張している櫻子へポツリと言った。
「色々と、迷惑をかけた。そして……知りたいことがあるのだろ?」
夕暮れ時の日は沈みかけ、部屋は、薄暗くなっていた。
床から向けられる金原の視線に、櫻子は、ドキリとした。しかし、碧い瞳は、櫻子のわだかまりを射るように、定まっている。
「……勝代のこと、ハリソンのこと、そして、俺の過去……」
「い、いえ、だ、旦那様!!!お、お食事にしましょう!あ、明かりをつけますね!!」
天井からぶら下がる電灯をつける為に、立ち上がろうとする櫻子の手を金原が掴んだ。
「構わんよ。どうせ、夜になれば、暗闇だ。それよりも、お前の疑心を……取り除かなければな」
おいで、と、金原は、櫻子を誘った。