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アツシが席を立つ。運動部が部活まえに少し休憩だと言って教室でしゃべってたり、女子たちが内緒で持ってきた雑誌にはしゃいでるなかを帰宅部のアツシが素通りするのはいつものことだ。
だけど、今日はトモコも一緒に立ち上がりアツシの後ろについている。
そのカッターシャツのすそをつまんで歩いている。
教室が静寂に包まれて……アツシたちが出た途端にざわめきが戻った。元よりも大きなざわめきが。
(なんでピッタリ付いてくるんだああああ)
心の中でさけんでも、ふりほどけないアツシはトモコよりも気が弱い。
「あの、与那国さんが前に……」
「道案内、しますので……」
「そう、そうだよね……うん……」
場所も知らないトモコの家に行くのに、アツシが前を行く。そんな不自然な立ち位置なのに何も言えない。
道すがら、トモコはアツシにポツポツと話した。
服はこれしかないこと、教科書も前の学校のものしかないこと。
買ってくれる親もいないこと。
そのいずれにもアツシは気の利いた返事も出来ずに、ただただ頷くばかりだった。
「ここが……与那国さんの……」
「うん……人を連れてきたのは、はじめて」
それはどこにでもある橋の下。上の道路からはかげになって見えない、暗いところに段ボールで囲われた小屋より小さいもの。
「ホーム……」
アツシはそれ以上なにも言えなかった。
「わたし、ホームレスなんだ」
そんなアツシの珍しい気遣いはトモコ自身の言葉で無駄になった。
「でも、そんな──」
このご時世、アツシも親に買ってもらったスマホで色んな情報を手にしている。
少なくとも今の時代に子どもひとりがこんなところに住んで学校に通っているのは不自然だ。
市とか学校でも大人たちがどうにかするはずなんだと。
「アツシくんだから。アツシくんだから……入り口は狭いけど、中に入ろう……」
「えあ……うん」
ホームレスだという転校生。そのトモコが案内してくれて「アツシくんだから」と言ってくれている。
その中はきっとアツシの家の玄関ほどの広さもないかも知れない。
そんな狭いところに女子と。
アツシはいつもの気弱さとは別の理由も手伝って、なし崩し的に入り口をくぐった。
果たしてその中は、その先は──。
「なにが起こったの……?」
「あの……ようこそ、異世界難民救済センターへ」
アツシの疑問に答えたのは、相変わらずの黒いセーラー服に身を包んだトモコだったが、その場所はすでに見覚えのない晴天広がる大地であった。