部屋の前で立ち止まると声が聞こえてきた。ルーニオさんが震えた声で叫ぶ。
「シクロロ君、ずっと言っているでしょ!」
なんだろう。なんの話だ?ロロの声は聞こえない。ただ何かルーニオさんが講義している?
「っっ〜!!やめて!」
何かおかしい!ルーニオさんの声が聞こえた瞬間、考える前に身体が動いた。
「ロロ!!」
部屋に入るとルーニオさんの上にまたがるロロが左手を振り上げていた。
ロロを止めないと、このままじゃルーニオさんを傷つけてしまう。そうなったらもうここには居られない。いやだ。もう何も失いたくない。もう二度と、、、
「ロロ!ダメ!!」
止めるにはもう体当たりするしか考えられなかった。ロロの左半身に体当たりをすると思っていたよりもロロが派手に倒れた。
鈍い音が響いた。やばい。絶対にやりすぎた。こんな至近距離から体当たりなんて、、、
「ロロっ大丈」
バッとロロの方をみて体に電気が通ったみたいな、冷水を浴びたようだった。
笑顔
「ルツ。大丈夫?」
笑顔のままロロが俺の頭を撫でた。
なんで、笑ってるんだ?
いつもは綺麗だと思うロロの目が恐ろしくなった。無。何も見えないように深い紅に黒色渦がこちらを見てニタニタと笑っている。
反射的にロロの手を払う。
「・・・ル、ツ?」
払われた手を見て、まだ笑顔のままこちらを見る。笑顔。分からない。さっきまで、ルーニオさんにまたがっていた時の顔はとても怖かった。いや、今の方が、怖い。
「う、」
ルーニオさんがゆっくりと起き上がった。まだ何があったのか分からないみたいだった。
「!ルーニオさん、大丈夫ですか?」
起き上がるルーニオさんの背中に手を添えだ。なるべくロロの方を見ないように。今、ロロがどんな顔をしているのかは分からない。
「あ、ありがとう。」
まだすこし青白い顔でルーニオさんが笑った。安堵の息を吐く。
だが、すぐに安堵は連れ去られた。
「!?」
ロロが俺の腕を掴んだと思ったら軽々と抱き上げられた。驚いた。俺よりも小さい体にこんな力があったなんて。
いや、それよりも、なんで!?
「ロ、ロロ⁉︎」
ニコッと笑顔を浮かべているのにとてつもなく低い声で答える。
「ダメ。」
ロロが走り出した。
ルーニオさんを置いて、部屋から飛び出した。
いつもの会社の廊下。外までは階段もある。俺が走っても5分ぐらいかかる距離をロロは1分もかからず走った。
景色が横にぶれて見えない。
「ロ、ロロ!?どこいってんの!?てか、おろしっうおっ!?」
下ろしてと言いかけた瞬間にロロが急ブレーキをかけた。慣性の法則でぐんっと前のめりになった。が、意外にもロロが強く肩を持ったいたので落ちなかった。
「・・・ロロ?」
ロロの様子がおかしい。いやでも普通なのか?こんなに全力で知らないところまで、人一人抱えて走ったんだ。
「ーーーー。」
ロロが息を切らしながら何か言った。聞き取れないほど小さい声だった。
ロロがゆっくり下ろしてくれた。
どこかの街の路地裏。人通りは少ない。レンガの壁とコンクリート製の壁に挟まれたここは、不思議と安心感があった。
「ごめんなさい。」
ロロがポツリと呟いた。まだ息が荒い。汗もすごい。フラフラだ。今にも倒れそうなほど顔色も悪い。
「ロロ、もういいよ。大丈夫?」
「・・・う、」
小さく唸るとロロがギュッと抱きついてきた。いい場所が見つからない猫みたいに頭をうずめる。そっと手を添えると、微かに震えていた。なぜ、震えているのだろう。きっと走ったせいでも、怒っているわけでもない。
「ロロ、」
ずっと、気になっていた。ずっと知りたかった。でも、聞けなかった。ロロが嫌がるから。
ロロの肩を掴んで胸から引き剥がす。
「あの日、何を、言われたの?」
三年前、
先生が死んだあの日。
あの炎に包まれたあの日。
俺を外に投げて、ロロが先生を助けにいったあの時から、ロロの中で何かが蠢いている。
下を向いているロロから一滴、水滴が落ちて地面で弾けた。それが汗なのか、それとも、涙なのかは分からない。水滴がコンクリートの地面に吸い込まれて消えていった。
静まり返る道の中には何者もいない。
静寂を破る小さな声。
「ルツ。」
「なぁに?」
優しい声を出そうとしたが、幼い声になってしまった。
ロロが俺の肩を掴んだ、小さく震えている。
「ルツ。」
「うん。」
肩を掴む力が微かに強くなった。
「ルツ」
「うん?」
肩を掴む手が確かに震えていた。
「ルツ、」
「どうしたの、ロロ?」
返答はない。確実に肩を掴む力が強くなる。
「ルツ、、ルツ、、、ルツ」
声も震えている。何かおかしい。ロロ、と声に出す前に肩に痛みが走った。
「っ!ロロ、、、」
名前を呼んだ瞬間、肩を掴む力が消えた。
「ロロ?」
急に立ち上がるロロ。
俺はその時初めて知った。
ロロの怒った顔を。いつもの拗ねた顔でも、困った顔でもない。本当の、嫌な顔。
初めて本当のロロの顔を見た、と思った。
「あっ!!ロロ!?」
ロロは何も言わずに走り出した。追いかけようとしたが、もし追いついたとしてどうする?
ロロはきっと怒ってる。俺が嫌な言い方をしたから。ロロにとって先生は、全てだった。
冬の日に買い物に行った時、「ここで待ってなさい。寒かったら店の中に入っていていいからね。」と言われた。ロロは1時間半外で待っていた。その時俺も一緒だったから次の日風邪をひいてしまった。ロロは元気だったけど、
俺は、あの日のことが気になる。
ロロはきっと先生に最後、何か言われた、その言葉を守るためにロロは今苦しんでる。
俺に何が出来る?
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