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「あ、あのぉギランさん」
「どうした?何かわからないことがあるのか?」
「いや、そういうわけでは」
「なら、話している暇あるなら手を動かせ」
ギランさんから言い渡された罰は溜まりに溜まった書類整理であった。
このカンタール侯爵家の仕事が溜まった結果らしい。
いや、旦那様なしで進めていいのかと思ったが、どうやらある程度の裁量はもらっているらしい。また、旦那様でないとできない仕事もあるらしく、どの書類はダメとか、この書類なら進められるだの、色々聞きながら進めた。
旦那様しかできない仕事は分かりやすく整理するところまでやらされた。
いや、これ俺関わっていいのかと聞こうとしたが、黙ってやれと言われているので聞けずじまい。
実質一人でしている。
後ろから腕を組み書類作業を見守るギランさん。
威圧半端ない。
間違いがあったらその場で指摘してくるので、慎重になる。
そのおかげでどうにかこなせるようになった。
基本が理解できれば応用が効くし、カンタール侯爵家で長く勤めているから理解するのに時間はかからなかった。
ほぼ徹夜で仕事している。
飯と風呂の時間も切り詰められ、睡眠時間は4時間。
それ以外は一日中缶詰状態。
いや、これになんの意味があるんだよ。
ここで何かを言うと怒らせる可能性があるので黙って従う。
それが幼い頃のアイリス様の責任をとった時に学んだことだ。
理不尽すぎるが今更だ。
そんなこんなで作業を黙々とこなす。
ここ数日何度かアイリス様が差し入れを持ってきてくれたがギランさんが追い返していた。
まぁ、差し入れだけは貰ってくれたが。
アイリス様に会いたい。
多分この量終わらせなきゃいけないだろう。
一心不乱に机と向き合った。
その甲斐あって書類整理を始めて5日で終わらせることができた。
「お……終わりました」
「ふむ……及第点といったところか。充分だろう」
いや、鬼ですかあなた。
俺初めてですよ。あんなバカみたいな大量の書類、5日で終わらせたの褒めてくださいよ。
いや、ギランさんからしたら褒め言葉だったのかな。
「やはり効果的面だな」
「何がです?」
一人でボソボソ呟いている言葉が耳に入りきいてしまう。
いや、一人で納得しないでほしいわ。
「なんでもない。私はしばらく外す。ゆっくり休んでいなさい」
「……はい」
ギランさんは一言残し、一度部屋を出る。
俺はそれを確認するとソファに背もたれを腕を左右に伸ばす。
「どっと疲れが来たな」
安心したら緊張が解けてしまう。
結構ギリギリだったらしい。
確かに睡眠時間はないし、ずっと緊張していたし。
その緊張の糸が切れてしまい……俺は意識が途切れてしまった。
「……ん?」
次に意識が覚醒したのは後頭部に温もりを感じたからだった。
ゆっくりと意識を覚醒させ状況整理をしようと思う。
……あれ、なんで視界が暗いんだ。
寝ぼけてるのか?それとも夢か?
いや、夢ではなさそうだな。
誰かに視界を遮られているんだ。
とにかく視界をクリアにしようかな。
多分後頭部の温もりやらを考えたら人だろう。なぜこのようなことを来ているか不明だったが、一気に外させてもらおう。
俺は一度力を抜く。
ゆっくり呼吸し、狸寝入りをする。
「ふぅぅ」
すると、視界の上あたりから深呼吸が聞こえ目を抑えていた力が一瞬弛む。
その隙をついて一気に視界に載っているものをどかす。
「え……」
「なんだ、アイリス様でしたか。おはようございます」
視界がクリアになると顔が少し紅色のアイリス様。
しかも体勢から推察するにこれが膝枕というものなのだろう。
想像の10倍は居心地いいものだ。
わざわざ気遣ってここまでしてくれるとは、役得だな。
「……ねぇ、それだけ?もっと他に言うことないの?」
……アイリス様、不機嫌だ。
俺の言動が気に入らないらしい。眉間に皺がよっている。
「眉間に皺寄ってますよ。将来小皺になりーーひはい…ひあいです」
「……ねえ、ふざけているの?クラウス、その失礼な口を引きちぎってもいいかしら?」
あ、これマジなやつだ。
目が笑ってねぇ。
頬が痛い。めっちゃ痛いわ。
「もう、せっかく勇気出したのに」
ボソッと言ったつもりでもアイリス様、聞こえてますよ。
「冗談ですって。膝枕最高です」
「……そ、わかってるならいいのよ」
嬉しさ隠せてないですよアイリス様。
口角上がってますし体がプルプル震えてる。
嬉しそうなんだなぁ。
俺思ったこと口にしただけなのに。
それからはしばらく俺もアイリス様も無言であった。アイリス様は俺の規則正しいペースで撫でてくれている。
窓から春風が吹き込む中、俺とアイリス様は時折、目が合うも気恥ずかしくなりすぐに逸らしてしまう。
そんな居心地が良く、気恥ずかしくてもアイリス様と一緒に過ごしているとわかるだけでも楽しいと思えてしまう。
そう、確認できた後だった。
不意に俺は伝えなきゃいけないことを思い出す。
アイリス様に言う機会なくて、ずっと保留だったこと。
「……聞かせてくれる?」
アイリス様は表情を引き締めそう言う。何を、と言い返すのは無粋だろう。
「俺、やっぱアイリス様と釣り合わなさそうです」
「……そう…なの」
表情が少し顔に出る。わかっててやっていることなので、タチが悪い。
それでも、俺は言わなければいけない。
「俺はただの執事、あなたは侯爵令嬢。立場が違いすぎます」
「……」
アイリス様の瞳が潤う。
俺はそんなアイリス様からこぼれ落ちた一雫を顔から落ちる前に自分の右手で拭い「でも」と続ける。
アイリス様の右頬に一度触れる。
そして、雰囲気の違うひと言を投下する。
「アイリス様……愛しています」
「……え?」
キョトンとした顔をする。
あ、かわいい。やっぱ普通に伝えることは難しいらしい。