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5話 「夏休み、暑さで起きたとき」
自分は冷やし中華を頬張りながら、少年の名前を考えていた。
黒髪赤目で、10歳ぐらいに見える少年。もしかしたらこの先長い付き合いになるかもしれないから、この際ちゃんとした名前をつけてあげるべきではないか。
「ウーン、夏休み、暑さで起きたときに突然現れた少年…」
「…異常だよ」
何か聞こえたが、無視する。
「夏の…とき……夏野、とき…トキ!決めた、夏野トキにしよう」
「適当すぎるだろ」
何か聞こえたが、無視する。
我ながらなかなかいい名前を思いついたと思う。
「今日からお前は、夏野トキだ。改めてよろしくな」
少年こと、夏野トキに向かい、笑顔で握手をした。目が合うと、その目は”…ダサ”と言っているように感じたが、気のせいだろう。
名前の決まった事で、自分は上機嫌で食事に戻った。
2人から変な視線を感じたが、無視した。
3人は食事を終えて店を出る。店の外は嫌になるほど蒸し暑い。
トキは涼しい顔をして自分の隣に立っている。ふとその目線を辿ると、先程の三つ編みの女性の店員が、白のポロシャツにジーンズといった私服姿で歩いていた。今日はこの時間に上がりなんだろう。
「何見てんの?」
昴が不思議そうに言った。
「ほらあの人、さっきの店員さん」
「ああほんとだ…って、そんなのどうでもいいだろ」
「はは、たしかに」
なんだか可笑しくて笑ったが、女性の背後に現れた黒い影が視界に入ってきて、凍りつく。
こんなに暑いのに、長袖の黒いパーカーを着込んだ不審人物。
「あの人、動きがへ…ん 」
その直後。────男は女性へと瞬時にに距離をつめ、女性と揉み合いになった。
自分と昴は既に現場へ向かって駆け出していて、止めに入った。先に動いていた自分が、男を羽交い締めにする。続いて昴が援護に入り、なんとか二人で男をアスファルトに抑えつけた。
「誰か、警察!」
昴は男の頭と腕を掴みながら、周囲に助けを求める。
よかった、不審者を捉えた、そう安堵した束の間、赤い瞳が視界に写った。いつの間にトキはそこにいたんだろう。鮮烈な赤い目の先には、地面に座り込む先の女性。
赤。
真っ白なポロシャツは、染みた赤を鮮明にしている。
「…え 」
大事になるまえに、助けることが出来たと思っていた。
後ろから駆けつけた自分たちには、男が刃物を持っていたことに気がつけなかった。
「…っ」
恐怖、混乱。
自分は、尚抵抗して暴れようとする男を、上に乗りかかって必死に地面へ抑え付けている。
言葉を失って、昴の方を見る。昴も自分と同様に固まっていた。
いつの間にか周囲には人だかりができていて、女性には救護の人、こちらにも犯人の男の拘束を手伝ってくれる人たちがつく。
騒がしいはずなのに、静かに感じる 。
ただひたすら太陽の光が眩しくて、暑い。
人混みの中にいるトキ。その目はただ静かにあの女性を見据えていた。
警察と救急車が到着して、少しほっとする。
それから、自分の手が震えている事に気がつく。
警察は男を捕らえた後 、自分たちの方へ来て”…事情聴取に御協力お願いします。どうか署まで同行…”とかなんだとか言って、半ば強制的にパトカーへ押し込んで来た。乗る直前、トキが置いてけぼりになってしまう事に気が付き、その姿を探す。
トキはまだ先程の場所にいて、救急車を見ていた。もう発車していて、ちょうど見えなくなる所だった。
「…どうかしましたか?お乗りください」
警察の声にはっとする。
「あの、もう一人一緒に」
そこまで言って、自分は驚きで目を見開く。
いつの間にか 警察のすぐ後ろ立っている、トキ。
赤い目が自分を見ている。
驚いたせいか、心臓がうるさく鳴っていて冷や汗が背中を濡らす。なんだかとても嫌な予感がした。
「その子も一緒に連れ行ってもいいですか?こいつの、えっと、知り合いで」
先にパトカーに乗っていた昴の声に警察官が頷く。
自分と昴の間にトキを座らせ、パトカーは走り出した。
…あの女性は無事だろうか。どうか、そうであってほしい。彼女の事は何も知らないが、レストランでの印象はとても良かったから、きっといい人なんだと思う。
「はぁ…しばらく、赤がトラウマになりそう」
誰に聞かせる訳でもなくこぼした自分の声が聞こえてしまったのか、昴の手が慰めるかのように自分の背中をとん、と叩いた。
「…トキにもしばらくサングラスでも付けて貰おうかな」
あの事件のせいで、赤い目がどうしても恐ろしく感じてしまって。
「なんで?何の関係もないだろ?」
昴は心底意味がわからないという声音で言った。
「え、だってトキの目って赤いじゃん。俺、今赤を見るのだめ…」
「大丈夫か?やっぱりまだ混乱してるよな 」
「してない」
昴の見当違いな返答に、自分は少し苛立ちを覚えた。
「…裕貴はこいつの目が赤く見えるんだろ」
「どう見てもそうじゃん」
「ほらな。どう見たって目、赤くないよ」
「…は?」
どう見たって目、赤くないよ。その言葉が頭の中で何度も反響する。
おかしい。
最初からトキの目は赤い色をしていた。絶対に見間違えるはずがない。
今だって。
バッ、と隣に座るトキに顔を向ける。
────赤い目は真っ直ぐに自分を捉えていた。
〜おまけ〜
キャラ紹介①
※消す可能性あり
【朝野裕貴】
19歳。大学1年生。身長177cm。家族構成は、父母兄2姉1の6人家族。両親は海外、兄と姉は既に家を出ている。
のんびりした性格で危機感がない自由人。末っ子気質。またかなりめんどくさがり屋。
ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございます。
どうか見届けて頂けると幸いです。
玖(キュウ)
355
ruruha
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コメント
1件
第5話読み終わったよ〜!!😭💕 まず冷やし中華食べながら名前考えるシーン、めっちゃ和んだのに…事件が一気にシリアスになって心臓バクバクしたよ💦 トキの赤い目が昴には見えないって伏線、ゾッとした…!続きが気になりすぎる!!✨