テラーノベル
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ラウワ王城、玉座の間の重厚な扉が開いた。
誰だ?と、目を向ける。
「サクラ様、た、ただいま……も、戻りました……」
辰夫が、夜逃げしたあの巨大トカゲが戻ってきた。
「あ! 辰夫さんおかえりなさい!
すぐに戻るってわかってましたよ!」
辰美が辰夫に笑顔を向ける。
「あー! 辰夫だー! どこ行ってたの!?
お姉ちゃん、辰夫がいなくなってから、
トイレの中まで探してずっと変だったんだよ!」
玉座の隣にいた小さな魔王・エスト様が、
無邪気に指をさして私の醜態を暴露した。
「そ、そうですよ! ほら! サクラさん!
辰夫さんに謝りたいって言ってました、よ……ね……?
ひ、ひぃッ!?」
嬉しそうに視線を私に向けた辰美が、息を飲んだ。
私は満面の笑顔で辰夫を見つめていた。
「あらあら?
どちら様かと思えば?
私から夜逃げした辰夫さんではありませんか。
本日はいかがいたしました?」
私は玉座の上で足を組み、笑顔のまま口を開いた。
その私の隣で、エスト様も空気を読んで(?)腕を組み、
一緒にドヤ顔で辰夫を見下ろしている。
「け、敬語!!……はぁはぁはぁ…」
辰夫は、懐から紙袋を取り出し、
顔に当てて過呼吸を整え始めた。
「くくく……なんてなぁー?
たぁーーーつぅーーーーーぉおおおおおーッ!?
この私から逃げるとはなーッ!!
お前ッ! 覚悟はできt──」
「サ、サクラ殿! お待ちください!
こちらをお持ちしました!」
私の怒号を遮り、
間髪入れずに辰夫が懐から何かを取り出した。
「……ッ!?」
ガバッ! ダッ! ガッ! (もぐもぐもぐ)
今思うと、この時の記憶が無い。
気がつくとなぜか、
私の口の中には『焼きそばパン』があった。
*
「はッ!?
こ、これは焼きそば……パン?
そんにゃ……もにょで……もぐもぐ……
美味しいこれ……私の怒りが……もぐもぐ……
んがっぐっぐっ……
収まるとでも思っているのかあああああーッ!?」
「あ! お姉ちゃんずるい! わたしもわたしも!」
エスト様が、私の手元にある焼きそばパンに飛びついてきた。
「ちょっと! 小娘、私の取り分が減るでしょ!」
「いいじゃん! 魔王の特権だよ!」
私とエスト様で、玉座の上で焼きそばパンの奪い合いが始まった。
「お二人とも!まだまだたくさんありますので……」
辰夫がビクビクしながら袋を差し出してきた。
「えッ? あッ……うん?
君はなんだろう……焼きそばパンマスターなのかな?
……オホン!
た、辰夫!よく戻ってきてくれましたね。
え、えっと、い、今までの私も悪かったかな。
ご、ごごごめんねッ!」
そう言いながら、私はエスト様と自分の分の焼きそばパンを両腕に抱え込んだ。
配下の物は私の物。私の物も私の物なのだ。
「この人ヒロインなんだよね?」
辰美がポツリとつぶやいた。聞こえてるぞ。
「カエデ殿の言った通りだ……」
「ん? カエデ? それ私の友達の名前ね。うん」(もぐもぐもぐ)
私が焼きそばパンを頬張りながら答えると、
玉座の間に、とても聞き覚えのある声が響いた。
「サクラッ!」
声のした方を見ると、
ハンガーとリモコン持ってスリッパを履いたカエデが駆け寄ってきた。
「あらー? カエデ!
ちょうど良かった!購買でジュース買ってきて?
美味しそうなやつな。
またおでん缶を買ってきたら今度こそ許さないからな?
おでん缶なんて秋葉でしか見たことないのに、
購買で買ってくる奇跡とかそういうのは要らないからね?」
「サクラサクラサクラサクラーッ!
会いたかったよぉぉー!」
「えぐえぐえぐ」
(もぐもぐもぐ)
カエデが私に抱きついてきて泣いているが、
早くジュースを買ってきて欲しい。
パンに口の中の水分を奪われているのだ。
「えぐえぐえぐ」
(もぐもぐもぐ)
「ちょ、何よ! 離なさいよ!
それより早くジュースを………
ん?カエデ……え???」
「ちょっと……サクラ……?
あんた、生きてるの……?」
カエデの背後から、もう一人、
黒衣に包帯を巻いた見慣れた(でも異様に痛々しい)姿の女が現れた。
(今度はツバキだ。……ツバキだ。)
私の頭が、理解を拒否した。
「えぐえぐえぐ」
(もぐもぐ……もぐ……?)
……あれ…………?
何かがおかしい。
焼きそばパンのソースの味と再会のパニックで
私は根本的にヤバい事実を見落としていた気がする。
ちょっと整理しよう。
辰夫が戻ってきた。
うん。
これはオッケー。
後でちょっとだけ粘着してから、
靴下とか爪切りの場所を確認しよう。
「えぐえぐえぐ」
(もぐもぐもぐ……)
焼きそばパンがたくさんある。
うん。これもオッケー。
とても美味しい。
「えぐえぐえぐ」
(もぐもぐ…?)
カエデが私の胸でずっとずっと泣いてる。
……うん、なんで?
ていうか、ここ異世界(ラウワの城)だよね?
そしてツバキが、そこに立っている。
…………うん? ……なんで?
(カリカリカリッ!)
『鬼の女王、焼きそばパンが弱点!』
さらに見知らぬ修道服の女が、私の挙動をメモ?
………………うん? …………なんで?
「えぐえぐえぐ」
(もぐ…?)
エスト様が、なぜか「私の親友(たぶん)」に向かって、
必死に杖を向けて威嚇している。
……………………うん? ………………なんで?
私は焼きそばパンを口に運ぶ手を止めた。
「あれ?辰夫が戻って……
カエデ?ツバキも?
なんで二人がこの世界に居て?
変なメモ女がいて?
で、小娘が威嚇してて……
あれ? んんん? あれーーー?」
私は完全にパニックになっていた。
「た! 辰美ぃーーーッ!」
「は、はい!」
辰美は何が起きてるのか分からず傍観していたが、
慌てて駆け寄ってきた。
「私の頬を殴りなさい! 痛くしないように殴りなさい!」
夢か現実か確認が必要だったが、痛くない方法を指示した。
「ええ? いやですよ!
痛い痛くないの問題じゃなくて、
サクラさんは一生根に持つでしょ!?」
駆け寄って来た辰美が、急ブレーキで立ち止まり言った。
「えッ?」
私は辰美を見つめた。
辰美は忠臣だと思っていたのだが、
ここに来てまさかの謀反である。
「うんうん。サクラはしつこいよ。
それはもう、とてもとても」(カエデ)
「小学生の頃にテストの点数でたまたま勝ったことを
つい最近にもネチネチ言ってきたしね」(ツバキ)
「歴史的にも、しつこい女王はだいたい面倒です」(ローザ)
「そうだね。お姉ちゃんはしつこいよ。
表現難しいけど、なんか全部ネットリしてるの。」(エスト様)
「スキル:超粘着ですな……」(辰夫)
「絶対に10年後も『あの時は〜』とか、
昨日のことのように言ってきますよね」(辰美)
「えぇ……?
わ、私はしつこくない! 継続力があるだけよ!」
いきなり全員からディスられた。
私の脳内に、心の師匠であるグレート・ムダ様の言葉がよぎる。
『復讐は何も生まない。だがスッキリはする』
……深い。深すぎるわ……ムダ様。
というわけで、こいつらあとでドラゴン・スクリュー確定。
そして私は、カエデとツバキを交互に確認。
「んー……?」 (ジロジロ)
「な、何よ! サクラ! 私だよ! カエデだよ!」
ふむ……カエデの相変わらずの巨乳にイラッとした。
うん……相変わらずなのよね……やっぱりカエデだよね。
この巨乳の生き物は……。
「ちょ……ガン見しないでよ……」
で、そこの痛々しい包帯女は間違いなくツバキだ。
私の前で、泣き笑いのような顔をしている
カエデとツバキを見つめると、身体が勝手に動いた。
「……夢……じゃ……ない……んだ……」
ようやく、脳が理解した。
死んだはずの私と、死んでいない親友が、
今、目の前で繋がっている。
「え……? なんで……なんで二人がここに居るのよ……?」
私はカエデとツバキを交互に見て、
思わず一歩、二人のほうへ歩み寄ろうとした。
──その時だった。
「ってか、あんた、その頭……角(ツノ)……!?」
ツバキが目を丸くして私の頭を指差した。
「ッ!!?」
その瞬間、私の心臓が嫌な音を立てて跳ねた。
サァッ……と、全身の血の気が引いていくのがわかる。
(いやッ……!!)
(つづく)
◇◇◇
──グレート・ムダ様語録:今週の心の支え──
『復讐は何も生まない。だがスッキリはする』
解説:
「恨みや憎しみは連鎖し、自己を破滅させるだけだ」という道徳的な教えに対する、ムダ様からの完全なアンサー。「生産性がないこと」と「自分の精神衛生が保たれること」は別問題であり、ムダ様は後者を圧倒的に優先する。この言葉に救われ、今日もどこかで誰かが理不尽にドラゴン・スクリューをされている。
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