テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第28話:波を読む目
開幕戦からわずか一時間後。
黄波地区代表は控室で次戦の準備を進めていた。
拓真はユニフォームの袖を捲り、前腕に軽くマッサージをかける。
その腕の上には、緊張で浮き立つ血管がはっきり見えた。
相手は紫波地区。
紫波は混合色を多用し、相手の波を乱す戦法を得意とする。
「やっかいな奴らだぞ」
監督役の教官・志藤が、細い目をさらに細めて言った。
灰色の髪を後ろに流し、黒縁メガネの奥で波色を見極めている。
アリーナに立つと、紫波代表の二人が現れた。
一人は背丈の低い青年・洲中、短めの銀髪に紫のメッシュが入っている。
もう一人は長い黒髪を三つ編みにした女性・高城。
彼らの波は紫を基調に、時折青や赤が混じり、不規則にゆらめいていた。
開始の合図と同時に、洲中が前へ出る。
紫波が周囲に広がり、まるで視界に薄い靄がかかったようになる。
——これが相手の乱波か。
拓真は一瞬波が見えなくなったが、目を細めて集中した。
橙や赤のはっきりした輪郭ではなく、紫波の中に“濃く膨らむ部分”を探す。
昨日の翠川との練習で得た感覚——波の芯を探る目。
「……そこだ!」
拓真は緑寄りの波で芯を捉え、すぐさま橙に変化させる。
芯を突かれた白洲の波が一瞬乱れ、高城との連携が外れた。
すかさず、後方の陸が絶香圏を展開。
波の乱れが加速し、二人の足元の光が揺れる。
拓真は一気に距離を詰め、核に両手を触れた。
緑から橙、そして赤へ——衝撃が走り、核が粉々に崩れた。
「黄波地区、二連勝!」というアナウンスに、会場が沸く。
控室に戻ると、志藤が珍しく笑みを見せた。
「波の芯を読めるようになったな。あれができれば、乱波相手でも崩せる」
拓真はタオルで汗を拭いながら、小さく息を吐いた。
——まだ先は長い。でも、もう“偶然勝てた”なんて言わせない。