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翌日。
冒険者ギルドの掲示板の前で、私は腕を組んでいました。
勇者としてレベル上げが必要です。
いつまでも薬草を摘んでいるわけにはいきません。
魔王を倒すため、元の世界に戻るため、
まずは手頃な相手で経験を積む。RPGの鉄則です。
私は一枚の依頼書を剥ぎ取りました。
【依頼:ゴブリンの討伐】
【場所:西の森】
【報酬:ゴブリン討伐一体につき、銅貨5枚】
【難易度:Fランク(初心者向け)】
「……よし。これです。
今度はちゃんと確認した!Fカップでも受けれる!」
「まただ……
あの人、またFランクとFカップを勘違いしてるぞ……」
「あれが噂の”草さん”か……?」
「シッ! 目を合わせるな!」
ひそひそと他の冒険者の声が聞こえてきましたが、何を言ってるのかわかりませんでした。
ゴブリン。
ファンタジーの基本にして、登竜門。
スライムみたいにぷるぷるしてないし、
人型ならまだ会話が通じるかもしれません。
私は受付のお姉さんに依頼書を差し出しました。
「これをお願いします」
「はい、ゴブリン討伐ですね……って、カエデさん!?」
受付のお姉さんが、なぜか悲鳴に近い声を上げました。
「だ、大丈夫ですか!?
ゴブリンですよ!? 棍棒とか持ってますよ!?
石や草とお話するのとはワケが違いますよ!?」
「大丈夫です。私には『ウィルソン』がいます」
私はポケットの石をポンと叩きました。
お姉さんは一瞬固まり、引きつった笑顔になりました。
「……あ、あの石に……名前を……?」
「はい。ウィルソン840世です。
837、838、839世は任務で散りました」
「散った……?」
「はい。ヴァルハラで待ってます」
お姉さんが両手で顔を覆いました。
「……カエデさん……
あの……大丈夫ですか……?
その……心のケアとか……必要なら……」
「はい。大丈夫ですよ?何かおかしいですか?」
心配性ですね。
私はこれでも勇者 (レベル1)です。
「おかしくないところがないんだよお前は」
またいきなり怒り出しました。このギルドの受付の人怖いよ!
*
西の森。
そこは鬱蒼とした木々に囲まれた、少し薄暗い場所でした。
空気が湿っていて、葉っぱの匂いが濃いです。
あと、なんか怖いです。
カサッ……。
茂みの奥から、緑色の小鬼が姿を現しました。
ゴブリンです。
腰に汚い布を巻き、手には木の棒を持っています。
「ギギッ! ギャギャッ!」
私を見つけるなり、汚い声で威嚇してきました。
(……ひっ)
顔が怖いです。
ゲーム画面と解像度が違います。
毛穴とかキモい!!
(無理です。顔がリアル。やっぱ無理です)
私は即座に、最強の戦闘態勢に入りました。
「発動──《スピリットコール:草》!!」
バサァッ!!
私は一瞬で、道端の茂みと同化しました。
頭にはシダ。背中には苔。肩には知らない蔓。
今の私は誰がどう見ても「元気な植え込み」です!
ゴブリンが足を止めました。
「……?」
キョロキョロと辺りを見回しています。
目の前にいた獲物が消えたんだから当然!
ゴブリンは警戒しながら、私の(草の)目の前まで歩いてきました。
そして、背中を向けて座り込みました。
……チャンスです。
背後 (ゼロ距離)を取ることに成功しました。
私は震える手で、ポケットからウィルソンを取り出しました。
(ごめんね……痛いけど許してね……
これは世界のため……私の晩ごはんのため……!)
私は心の中で謝罪文を読み上げながら、ウィルソンを振りかぶり──
ゴッッ!!!
鈍い音が響きました。
ウィルソンを握りしめた拳で、直接後頭部を殴りました。
投げて外すと怖いので。
現場判断です。勇者ですから。
「ギャッ……!?」
ゴブリンは白目を剥いて、どうと倒れました。
……勝ちました。
完全勝利です。
私は草を払って立ち上がり、ウィルソンを掲げました。
「見ましたか……!
これが勇者の一撃 (石で後頭部殴打)……!」
その瞬間でした。
「今の、全部見た」
背後から、低い声。
(……ひっ)
私はゆっくり振り返りました。
木の陰に、二人の冒険者。
年季の入った装備。
沈黙。
二人の視線は、倒れたゴブリンと、
私の手の石と、そして私の頭の草を、同じリズムで往復しています。
「草になって、待って、座った瞬間に後頭部を殴った」
(殴っただけです! 潰してないです!)
私はとりあえず説明を試みました。大人なので。勇者なので。
「えっと、その……怖かったので……」
二人は、さらに黙りました。
沈黙が深い。沼。
片方が、ぽつり。
「……恐怖で、躊躇なく背後を取る判断力」
「……しかも殺さない。加減してる」
(加減じゃなくて“怖くて手が震えてる”だけです!)
【天の声】
「ベテラン冒険者の脳内メモ:
・擬態(草)
・不意打ち(背後)
・鈍器(石)
・理由(怖かった)
→ 結論:距離を取れ」
私は笑顔を作りました。引きつっていますが、作りました。
「あの……ゴブリン討伐って……
どうやって“数”を証明するんですか?」
「ギルドに提出する証拠がいる」
ベテランが即答しました。
「普通は耳だ。
だが……ゴブリンは死んでないしな……」
ちら、と私の手の石を見る。
次に、倒れたゴブリンを見る。
次に、私を見る。
「棍棒でいい。一本で一体分。
それを持って帰れ。俺が受付に話しておく」
「ありがとうございます!」
優しい。
けど、冒険者さん達が目を見てくれないのが気になりました。
*
その後、私は順調にゴブリンを狩りました。
手順はこうです。
草になる
ゴブリンが近づくのを待つ
「ここ座れそう」と座った瞬間
後頭部にウィルソン(石)
気絶
棍棒を回収
この「お地蔵さん戦法」は無敵でした。
ベテラン冒険者のお二人は、なぜか遠くから見守っています。
応援ではなく監視の距離感。
見守りにも種類があるんですね。
【天の声】
「Fランク新人の動きじゃない。
“安全に処理している”のが逆に怖い」
気づけば、棍棒が五本集まっていました。
(わぁ……私……強い……?)
*
ギルドへ戻った私は、受付に報告しました。
「……えっと、ゴブリンを……気絶させました……五匹……」
「棍棒……五本です……」
「気絶……?」
受付のお姉さんが、書類を持つ手を止めました。
そこへ、後ろから声が飛んできました。
「そいつ、やべーぞ」
振り返ると、例のベテラン冒険者のお二人。
ギルド内が、一瞬静まり返りました。
空気が「やべー話が始まる」空気です。
「何が“やべー”って、まず草になる」
「次に背後を取る」
「石で殴る」
「理由が『怖かった』」
「で、加減して気絶で済ませる」
受付のお姉さんが、頭を抱えました。
*
【天の声】
「ギルド判断:
強いか弱いか不明。
でも関わると心が折れる。
よって“上”へ上げて管理する」
【噂:森の草賢者】
【危険度ランク:C → A(保管推奨)に修正】
(なんで!? 何もしてないのに!?)
受付のお姉さんが、震える手で紙を差し出しました。
「カエデさん……
あなた……Eランクに昇格です……」
「え!? 本当ですか!?」
「はい……おめでとうございます……
……お願いですから……
これからも……その……
“安全”に……頑張ってください……」
受付のお姉さんの目が泳いでいました。
(安全……?)
でも私は嬉しかったです。
昇格です。Eランクです。
私、強くなってます!
ギルドにさっきのベテラン冒険者さん達が居ました。
気になっていたことを質問してみたいと思います。
「あの……ひとつ教えてください」
「なんだ?草さん」
(その名前、不本意!?)
冒険者さんはやっぱり目を見てくれません。
「ゴブリンを五体倒しても、レベルが上がらないんです……足りないんですかね……」
「ふむ。不意打ちで後頭部を狙う。どんな経験を得たんだ?人としてはマイナスだ」
「え……」
(この世界。変なとこだけ真面目!?)
◇◇◇
──その頃、少し西の街では。
「我が咆哮に応えし信者どもよ……暁麦は焔の刻こそ魂震わす焔の契約!!
(つまりパンは焼きたてがうめぇ)」
キューシューからオサカにやって来たという“聖女”が目撃されていました。
(つづく)
◇◇◇
──更新されたカエデのステータス──
【名前】カエデ
【職業】勇者(スタイル:草&不意打ち)
【レベル】1(固定)
【新規スキル】
・鈍器使い Lv.1
└ ウィルソン(石)のクリティカル率補正(本人は怖いので投げない)
・完全擬態(虚無)Lv.1
└ 敵から「背景」として認識される(本人のメンタルは削れる)
【新規称号】
・背後から殴る者
・森の草賢者(勘違い)
【本日の戦果】
・ゴブリン5匹(気絶)
・ベテラン冒険者の安心感(消滅)
・ギルドの胃(損傷)