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と──。


船底が、ガクンと揺れた。


「あー、停泊したかな?」


カイルは、先のドアを望んでいる。


つまり、出入口は、あのドアのみ。ナタリーは、閉じ込められたまま、か、上手くカイルを乗せて、あのドアから、表に出るか、の、二つに一つの選択肢しか持っていないことになる。


キャプテンも、カイルも、陸にナタリーを上げるような口振りだった。


ついでに、カイルは、カイゼル髭のことなど持ち出して、脅してくれたが。


どうあれ、カイルは、ナタリーと、一緒にいるつもりのようだ。


とりあえず、船から出て、陸へ上がったら……、おさらば、できる。


でも……、受けた依頼の計画は、崩れてしまった。ロードルア王国へ、入国し、観光客気分に浸る、フランス女として、シャトーは、ないかしら?などと、お馬鹿なふりをしつつ、近づいて来た男を、手玉に取る。


それが、ロザリーの狙う男、か、どうかは知らないが、おそらく、社交界にて、知らぬ者はいない、男爵やら、子爵やら、中途半端な位を持つ、女ったらし、が、近づいて来ることには、違いない。


と言えば……、すでに、目の前にも一人。


が、この男、爵位など持っておらず、そして、ナタリーと、同業者。


今回の、依頼とは、関係ないはずなのに、依頼の時から密着し、拐かすようなことをして、ナタリーを拘束したということは、カイゼル髭のことなど、嘘っぱちで、単に、ロザリーの動きを見たい、つまり、やっぱり、こいつは、フランス側の人間ではなく、どちらかといえば、カイゼル髭側の人間なのではないだろうか。


「あー、やっと、終わりがやって来た。ハニー今度こそ、二人で、しっかり、ハネムーンを楽しもう!」


相変わらず、よく、弾ける男だと、ある意味ナタリーが、感心していると、カイルは、縛っていたロープを、どこからか取り出した、ナイフで切った。


自由の身になった、ナタリーだが、素直には喜べなかった。男は、ナイフを持っている。


そして、表に出れば、キャプテンという、この船の仕切り屋が、しっかり、後ろにいる。


ナタリーはといえば──。丸腰だった。


絶対的に、負け。お手上げ状態だ。しかし、絶体絶命ではない。


多少、素直にしたがっておき、そして、陸にあがって、カイルを巻けば良い。


カイルに援護が待ち構えている可能性は大、だけど、ここで、あれこれ計画したって、仕方ない。


もしかしたら、ひょっとしたら、で、確実な、逃亡計画性など、練れるわけもなく、こうなれば、とにかく、陸に上がる事が優先だ、と、ナタリーは、自身に言い聞かす。


「あー、助かったわ。けっこう、窮屈だったんだから。カイル?あなた、どうして、私を、色々な目に合わせたの?」


は?と、鳩が豆鉄砲を食らったような、間抜け面を晒しつつ、カイルは、えーと、と、また、言い訳のオンパレードを繰り広げた。


当然、辻褄の合わないことばかりで、ナタリーは、ふと、こいつは、実は本当に、刺激的なハネムーンを目指しているのではなかろうかと、思ってしまうほどだった。


「まあ、いいわ、それよりも、こちらの計画が、台無し。ロザリーは、カンカンでしょうね。いえ、セッティングしていた、相手方、なんとか伯爵夫人なんか、もう、気付け薬、どれ程、使っていることかしら?」


「あー、そうとも、言えるけど、ハニー、思い出してごらん?最初の出会いを」


……最初の?


それは、ナタリーを、誘き出す為の、偽りの依頼だった。


と、いうことは……。


「カイル!それって!もしかして、また!!」


「そう、おそらくね」


いや、おそらくね、じゃなくて。


「じゃあ、私、ロードルア王国へ、行ったら、むしろ、危ないってこと?!」


「そうなるかもね」


と、カイルは、他人事のように言った。


まあ、こいつから、すれば、他人事であるけれど。


うーん、と、考え込むナタリーに、カイルは、続ける。


「すべて、カイゼル髭を、誘き出すためなんだ。おそらく、いや、俺たちの、せいで、計画を失敗している。そして、やつはフランス側に、二重スパイと、バレてしまった」


「あー、でもね、カイル。二重スパイかどうか、なんて、私に関係ないでしょ?そもそもは、何らか邪魔になって、私を消そうとしたんでしょ?」


「なんだけどさあ、取り逃がした、フランス側も、必死な訳で、と、なると、奴に恨みを買っている俺たちを使って、再び、誘きだそうかと……お針子ちゃん達は、考えているんじゃないかなぁー」


──考えているんじゃないかなぁーって?!


「カイル!それは、あなたの、考えじゃないの!!どこに、私を使って誘きだせ、って、根拠、証拠があるの!!」


あー!もう!と、カイルは、不毛の会話に、嫌気が差したのか、やおら、ナタリーを抱きしめると、その唇を奪った。


(ちょっ!!)


ナタリーは、カイルの体を押し退けようとするが、回されている腕は、ナタリーが、拒めば拒むほど、ぐっと、力が込められる。


「これ以上の事を、やりたいところだけど、残念、邪魔が入ったようだ」


はははっと、キャプテンの笑い声が、被った。


「いやー、新婚さんってのは、どこでもかしこでも、やっちゃうもんなんだなぁー。さあ、入港だ。少し風に当たるといい」


蒸し蒸しするところにいるから、ムラムラするんだろ。と、実に下衆な言葉を残し、キャプテンは、看板へ向かった。


「うん、それも、一理あるかも。じゃ、少し風に当たりますか」


では、ハニー。と、カイルは、大袈裟にお辞儀をすると、ナタリーの手を取った。

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