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「ああ、大丈夫だが。九條、いいよな?」
「葉山さんと音羽さんが良ければ」
「私は全然大丈夫ですよ。寧ろ、もっと九條さんとお話してみたいって思ってます」
「よし、そうと決まれば『善は急げ』だな。うちに行こうぜ」
怜が立ち上がり、『ここは俺が払うから』と伝票を掴み、会計へ向かう。
瑠衣は怜にお礼を述べ、四人は地下駐車場へと向かった。
「それにしても、初対面の人と話すのが苦手だって言ってたお前が、あの二人とは随分と打ち解けていたようだったな」
豊田の怜の自宅へ向かう途中で、侑がステアリングを握りながら、穏やかな様子で瑠衣に話し掛けた。
「響野先生のご友人という事で、もっとお堅い方を想像してたんですが、とても気さくな方々だったので、つい私も……」
「この前食事した葉山圭と双子ではあるが、どちらかというと怜の方がヤンチャな感じではあるな。アイツ、俺の髪型を散々バカにしてたし、腹立たしいヤツだ」
そう言っている割には薄く笑みを見せているので、侑もそんな怜の性格を、よく分かっているのだろう。
「それにしても、葉山の双子は揃って結婚するのか……。感慨深いな……」
「お兄さんカップルも、弟さんカップルも…………とてもお似合いだと思います」
侑の言葉に、こう返答する事しかできない瑠衣。
思えば瑠衣も、年齢的に結婚していてもおかしくはない。
だけど、私は恋愛や結婚なんて無縁なのだろう、と思う。
借金返済のため、仕事とはいえ娼婦として散々男性と身体の関係を結び、師匠でもある侑とも仕事の延長のような身体の関係が続いている。
(こんな穢れた女が結婚とか恋愛とか、夢のまた夢だし、私は響野先生の事を……ただ想っている事しかできない……)
車内を覆っている沈黙に、瑠衣は車窓を流れる景色を見ていると、急に無口になった彼女に、侑が眉根を寄せながら声を掛ける。
「九條? どうした?」
「いえ、何でもないです」
侑にこう言いながら、瑠衣は無理矢理笑みを作る事しかできなかった。