テラーノベル
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深夜二時。
街の灯りが少しずつ消えていく頃。
私は、誰もいない図書館へ向かった。
もちろん、本当は閉まっている時間。
だけど、この図書館だけは違う。
眠れない夜だけ、静かに扉が開く。
「こんばんは」
古い木の扉を押すと、優しい声が響いた。
受付には、白いシャツを着た司書が立っている。
「今日は、どんな本を探しに来ましたか」
私は少し考えて答えた。
「眠れる本がほしい」
司書は微笑み、本棚の奥へ消えていく。
しばらくすると、一冊の古びた本を抱えて戻ってきた。
表紙には、何も書かれていない。
ページをめくる。
そこには文字ではなく、星空が広がっていた。
風が吹く音。
遠くで鳴く虫の声。
波が寄せては返す音。
ページをめくるたび、景色が変わる。
満天の星。
雨上がりの夜道。
静かな湖。
誰もいない駅のホーム。
どの景色も、不思議なくらい静かだった。
「この本は、読むものではありません」
司書が小さく言う。
「感じる本です」
私は目を閉じた。
胸の奥で、張りつめていた糸が少しずつほどけていく。
今日あった嫌なこと。
失敗したこと。
言えなかった言葉。
全部が、夜空へ溶けていくようだった。
どれくらい時間が経ったのだろう。
気づくと、本は最後のページだった。
そこには一行だけ、文字が書かれていた。
『今日も、お疲れさまでした。』
その一文を見た瞬間、涙が一粒だけ落ちた。
誰かにそう言ってほしかったのかもしれない。
司書は何も聞かない。
ただ静かに本を受け取り、棚へ戻していく。
「また眠れない夜が来たら、いつでも」
私は小さくうなずいた。
図書館を出ると、東の空が少しだけ明るくなっていた。
振り返る。
さっきまであったはずの図書館は、もうどこにもない。
ただ、小さな街灯だけが夜道を照らしている。
あれは夢だったのか。
それとも、本当にあった出来事なのか。
今でも分からない。
だけど眠れない夜が来るたび、私は少しだけ空を見上げる。
もしかしたら今日も、午前二時になれば、あの図書館の扉が静かに開く気がするから。
#オリジナル
えれめんたる
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コメント
1件
うわあ、めっちゃ良かった……。深夜だけ開く図書館とか、めくるたびに星空や風景が広がる本とか、設定がもう刺さりまくり。最後の「今日も、お疲れさまでした。」で涙腺来たわ。自分も言われたかったんだなって。ファンタジーと優しさがぎゅっと詰まってて、読んだあと心が静かに温かくなる話だった。くしろゅさんの世界観、好きです。続きも読みたい🔥