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第27話:雨国崩落
配信の幕開け
「こんばんは、“はごろもまごころ”だよ!」
まひろは、モカスウェットに薄緑のチェックのハーフパンツ。前髪を少し寝癖のまま垂らし、膝を抱えて無垢な瞳をカメラに向ける。
「ねぇミウおねえちゃん……“雨国”ってほんとに強い国なのかな。ニュースでは“もう昔みたいな力はない”って言ってたよ」
ミウは、ワインレッドのブラウスにベージュのタイトスカート。髪を後ろで束ね、イヤリングを揺らしながらふんわり微笑んだ。
「え〜♡ 国って大きすぎて、いつのまにか疲れちゃうものなんだよねぇ。声がバラバラになると、支えられなくなるんだよ」
コメント欄には「雨国もう終わり?」「大和国が代わりに守るべき」「自由って弱いんだな」と次々に流れていった。
フェイクの仕掛け
暗い部屋で、緑のフーディを羽織った**Z(ゼイド)**がモニターに向かっていた。
「雨国の象徴を壊せば、国は自ら崩れる」
AIで生成された映像には、雨国の議会で議員が殴り合う様子。実際には別の国の映像を加工したものだった。
別のモニターには「雨国兵士が旗を捨てる」フェイク動画。数百万回再生され、SNSで拡散されていた。
さらにZはフレーミングを仕掛ける。
「市民が望んだ平和」を強調したニュースの隣に、「政府は腐敗」「選挙は不正」と断片的な記事を並べる。
バラバラの情報は一つの物語に収束し、国民の頭の中で「雨国はもう崩れている」という“真実”に変わっていった。
崩れる街並み
雨国の都市。
デモ行進には「自由を返せ」と「政府は大和国を見習え」のプラカードが混在していた。
学生は灰のフード付きパーカーで顔を隠し、労働者はスーツ姿のまま怒りを叫ぶ。
警官隊も次第に人数が減り、街の警備は形骸化していった。
テレビ局は毎日のように「分裂」「混乱」の見出しを打ち、やがて電波すらZの加工ニュースに乗っ取られる。
無垢とふんわり同意
夜の配信。
まひろはモカのスウェットの袖をぎゅっと握り、無垢な声でつぶやく。
「ぼく……ただ“雨国はほんとに強いのかな”って思っただけなのに……国そのものがなくなっちゃいそうだよ」
ミウはイヤリングを指でつまみ、ふんわり微笑んだ。
「え〜♡ でも、崩れるってことは……次に立つ国があるってことだよねぇ。
その場所に“大和国”が名前を刻めば、未来はもっと安定するんだよ♡」
コメント欄は「大和国が次の中心!」「崩れるのは必然」「雨国は過去」と盛り上がった。
結末
暗いモニターの前でZは低く笑った。
「自由? 強さ? そんなものは編集で崩れる。
崩落とは戦争じゃない。フェイクとフレーミングが国を瓦解させるんだ」
映像には、赤く染められた地図に「雨国」の部分がじわじわと消え、その上から「Yamato State」の文字が浮かび上がった。
無垢な問いとふんわり同意、その裏で“雨国”はフェイクの波に飲み込まれ、世界の地図から静かに消えていった。