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「何? 言っておかなきゃ……ならない事って……」
魂が抜けたような表情で優子に問い掛けられると、拓人が人差し指を、こめかみに当てた。
「あと一週間したら、俺は立川から離れる。ここでの生活も終わらせる」
「…………え?」
突然の報告に驚いたのか、女は一気に目が覚めたらしい。
クッキリとした瞳が、丸みを帯びている。
「次、どこに行くかは、まだ決めてない。あんたもこれから先、どうするか、身の振りを考えておいてくれ」
拓人は、報酬の入った封筒を引き寄せ、中身を確認した。
二日間の同伴と、夕方から深夜まで時間を延長した分が、上乗せされている。
帯に巻かれた札束が、三つ入っていた。
「おっ……今回は渋沢さんが三百人いるじゃん! 依頼人、太っ腹だなぁ〜」
拓人は態とらしく、おどけた声を上げると、札束を自分の前に置き、女にも配る。
残り一束は、彼が慣れた手つきで札を数え、五十万円を優子に手渡した。
「まぁ、こんだけ金があるんだったら、あんたも余裕で、一人暮らしができるんじゃん?」
「うっ……うん。そう…………だね……」
憂いを滲ませた面差しの女に、またも苛立ちが募る拓人。
ここで優子に鎌を掛けてみようか、と思い付いた彼は、言葉を繋げた。
「ああそうだ。今週の金曜だけど、俺の友人が、この部屋に来る」
恐らく優子は、『俺の友人』イコール『依頼人』とは思ってないだろう。
言いながら、優子の表情をさり気なく一瞥すると、僅かに困惑した顔色に変化させた。
「へぇ…………そうなんだ」
「何か迷惑そうな顔をしてるけど、気のせいか?」
「うっ……うん、気のせいだよ」
女の表情を読み取ろうと、拓人は優子に真っ直ぐな視線を送るが、ぎこちない様子に見えるのは思い過ごしか。
「ゴメン。また眠くなってきたから、二度寝するね」
この場の雰囲気を濁そうとしているのか、女が踵を返してベッドルームに向かう。
「…………ああ」
彼は、女の背中を見送ると、剥き出しに置かれていた札束を手にする。
「金曜日に…………全てがハッキリするはずだ……」
拓人は独りごちると、札束をじっと見つめた後、ローテーブルへ放り投げる。
情事の痕跡を落としに、シャワールームへ入っていった。