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32話 なんで今日お金多いの?
昼
ふっくらは丸い体を机に乗せ
短い脚で報酬袋を抱えていた
腹がふよんと揺れ
袋の口から硬貨がころりと光る
ふっくら
「……ねぇ琶」
隣で琶が書類を整えている
大きな体
長い首
重なった鱗
畳まれた翼が背中で静かに重なり
爪先で紙をとん、と揃えている
ふっくら
「今日さ……
お金、多くない?」
琶
「多いな」
ふっくら
「えっ、認めるんだ!?」
琶
「事実だからな」
ふっくらは袋を逆さにして数える
ころころ
ころころ
丸い体の前に硬貨が並び
ふっくらの目が丸くなる
ふっくら
「えっ……
昨日より増えてる……
わたし……働いたっけ……?」
琶
「働いてない」
ふっくら
「言い切った!!
読者の前で言い切った!!!」
琶は書類から目を離さず
淡々と言う
「依頼を達成しただろう」
ふっくら
「達成って何!?
討伐なのに倒してないよ!?
護衛なのに守ってないよ!?
わたし途中でおやつ食べたよ!?!?」
琶
「それでも達成だ」
ふっくらは首をかしげる
かしげすぎて丸い体が傾く
「じゃあ……
なんで増えるの……?」
琶は一瞬だけ
読者のほうを見た気配を出し
「……知らないほうがいい」
ふっくら
「それ絶対知ってるやつ!!
知ってるやつの言い方!!!」
ふっくらは袋を抱えて立ち上がり
琶の周りをぐるぐる回る
丸い体がころころ
短い脚が必死に追いつく
ふっくら
「ねぇねぇねぇ!
教えて!
増える理由!
わたしが努力したから!?
わたしがかわいいから!?
わたしが丸いから!?!」
琶
「最後だけは否定できん」
ふっくら
「ほめてない!!
それほめてないよね!!!」
琶は書類を一枚取り
さらっと読み上げる
【依頼報酬:基本額
追加:一割】
ふっくら
「追加!?
えっ、なにそれ!?
わたし知らない!
追加って何!?」
琶
「依頼を出すと上乗せされる」
ふっくら
「依頼を出すと!?
依頼を受けるとじゃなくて!?
出すと!?
出すだけで!?!?」
琶
「そういう仕組みだ」
ふっくら
「じゃあ……
依頼出した人が損じゃない!?」
琶
「……損とは限らん」
ふっくら
「急に難しい話にした!!
読者も置いてくよ!!!」
ふっくらは袋を抱えたまま
さらに首をかしげる
「えー……じゃあさ……
依頼を出した人、誰……?」
琶は止まる
爪が紙の上で一瞬だけ静止し
部屋の空気がわずかに重くなる
ふっくら
「……え?
いま……重くなった?」
琶
「気のせいだ」
(気のせいではない)
ふっくら
「やだやだやだ!
この感じ!
紙芝居ニュースで出るやつ!
嫌なやつ!」
琶は静かに書類を揃え直し
何事もなかったように言う
「……依頼は依頼主のものだ」
ふっくら
「答えになってない!!!」
琶はふっくらの丸い頭をつつく
「気にするな。
おまえは今日も
お金が増えてうれしい顔をしていればいい」
ふっくら
「えっ、わたしそんな顔してた!?
読者見た!?
見た!?!?」
琶は少しだけ目を細める
「……見ていたな」
ふっくら
「誰が!?
読者!?
それとも……依頼主!?」
琶は答えない
ただ
硬貨がひとつ
机の端でころりと回り
止まる直前
一瞬だけ
“裏側が見えなかった”気がした
ふっくらは気づかず
袋を抱えて笑った
「ま、いっか!
増えたし!」
琶
「その調子だ」
部屋の影が少しだけ伸び
また元に戻った
今日も
ゆるく
お金が増えた