テラーノベル
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あれから三週間。純の世界は、静かに、少しずつ、確実に色を失っていった。
最初は一日おきだった。
権兵衛が純を見るまでの数秒の“間”。
光子郎の、名前を思い出すまでの小さな“沈黙”。
それが今では──
“毎日”になっていた。
『ん……あぁ、純か』
『わ、びっくりした……そこにいたのか』
そんな言葉を聞くたびに、胸の奥で何かが音もなく崩れていった。
屋敷に行けば、今日も光子郎は少しの間、純の存在を認識できず、
権兵衛は振り返るたびに『うわっ!』と驚く。
最初は笑おうとした。
“しょうがないよね”って、自分の心を守ろうとした
でも三週間も続けば…
(……もう、いいや)
心はとうに擦り切れていた。
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さらに追い打ちをかけたのは、病院だった。
定期検査。
いつものように担当医の部屋に入った瞬間──
『ん……失礼、どちらの方で?』
(!!?)
一瞬、本気でわからないという表情だった
すぐに思い出したように顔を上げたが、
「あ、あぁ……八重桜さんでしたか……失礼しました」
その“思い出すまでの時間”が、
純の中の何かを静かに冷たくした。
(ああ……もうなんでもいいや)
全てどうでもよくなっていた
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病室を出て受付に行くとナースから『あれ?』っていう顔をされた
でももうどうでもいい
「あーはいはい、また忘れらているんでしょ?… 」
呟いたその言葉に、自分でさえ感情を乗せられなかった。
屋敷で忘れられ、通りで久しぶりの ハウスに会っても“誰?”と言われ、
病院ですら担当医が自分の顔を覚えていない。
(またか…)
生きているのに、存在が薄れていく。
その現実に、涙すら出なくなっていた。
もう怒りも、悲しみも、期待もわかない。
(こんなに消えるって……思ってなかったな……)
純は外へ出た。
夕陽が街を染め、遠くで笑い声が聞こえる。
その全てが、自分と関係のない世界の音に聞こえた。
足を止め、誰にも届かない声で、ぽつりと言う。
「……僕、ほんとに……消えるんだな」
風が吹き抜け、純の声をあっという間にさらっていった。
──まるで、この世界が純の存在を、
最初から無かったものとして扱い始めているかのように
コメント
6件
はい、もうこれ泣く確定 これで泣かねぇやつ絶対居ない説。 今回も神作だったよ〜!!!✨ なんでそんなノベル小説上手いの!? 純くん…♡♡♡とかしちゃうのかな…🥲