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第十五章 二つの目覚め
第一話 変わらない君
翌朝、5人は荷物をまとめ早々に宿屋を後にした。
満月まであと七日。
それまでに再び月の一族の隠れ里へ辿り着かなければならない。
時間に余裕があるわけでもなく、この先何が待ち受けているのかも分からない。
自然と5人の空気も重くなっていた。
「ミルハ……あっという間やったなぁ……」
馬を並べながら、シュンタがぽつりと呟く。
「まさか二日目に目的の物が見つかるとは思ってなかったもんな」
ハヤトが苦笑混じりに返す。
「まあ、順調に進んでいるということか」
ジュウタロウも静かに頷いた。
ダイチとジントは何も言わず、ただ前を見ていた。
時折ダイチはチラッとジントを振り返る。
しかしジントは合わぬ目線のまま、ボーッとどこか遠くを見ているようであった。
昨日レオルの手記を読み、『月蝕記』の預言を見た後から。
なんだかジントの心が遠くへ行ってしまったような気がして、ダイチは胸がぎゅっと苦しくなるのを必死に押し込めた。
平坦な道。
緩やかな馬の速度。
すっかりダイチの後ろに乗り慣れたこともあり、ジントは以前のようにダイチの腰へしがみつくように乗ることも少なくなっていた。
なんだか、それすら寂しい。
多くの荷馬車や行商人が行き交う賑やかな朝の街道。
けれどダイチには、そのざわめきがどこか遠くに聞こえていた。
その時だった。
「あ!ちょっと待って!」
シュンタが先頭を行くハヤトを呼び止める。
「ん?どうした?」
「ちょっとそこの露店で気になるもん見つけたんよ!」
「お土産に買ってってええ?」
ジュウタロウが呆れ半分に笑う。
「相変わらずだな」
「ん〜……そうだな。」
ハヤトは振り返り露店を見回す。
「ミルハなんてなかなか訪れる機会もないし、みんなでお土産でも買っていくか!」
ハヤトの提案に5人は街道脇へ馬を止めた。
露店には色とりどりの宝石やアクセサリー、魔石を利用した小さな魔道具まで並んでいる。
「おぉ……綺麗やなぁ……」
思わず声が漏れる。
「ゆっくり見ていってね」
店主の女性がにこやかに声を掛ける。
シュンタは早速赤い宝石の付いたピアスを手に取る。
「これええやん!」
ジュウタロウは小さな透明な石のついたペンダントを見つめる。
「これは……氷晶石か?」
淡く光る石を指先で揺らし、ふっと表情を緩めた。
「妹に似合いそうだな」
ハヤトは硝子細工の棚を眺め、
しばらく悩んだ末、小さな猫と犬の置物を一つずつ選ぶ。
「弟君達にか?」
ジュウタロウが尋ねる。
「ああ。なんとなく二人のイメージに合ってるなと思って」
ハヤトは柔らかく笑った。
ジントは紫色の細かな細工が施されたブローチを手に取る。
「……ばあちゃん、こういうの好きそう」
穏やかに微笑む。
ダイチもまた、姉や弟妹達の顔を思い浮かべながら品物を選んでいた。
「姉ちゃんは派手なん好きやから、このブレスレットかなぁ……」
「シアンはアクセサリーより置物の方がええか……」
「マリンは……このネックレス、目の色と一緒や!」
真剣に悩み続けているうちに、気付けば他の4人は支払いを終え隣の店へ移動していた。
その時だった。
ふと、乳白色に優しく光る石が嵌め込まれた指輪が目に入る。
……月みたいや。
思わず手に取る。
「……ジントに似合いそうやなぁ……」
——って……俺、何考えてんねん!
思わず心の中で自分に突っ込む。
けれどその指輪をはめたジントを想像してしまい、一人で顔が熱くなった。
……いや、さすがに重すぎるやろ……
「ダイチー!そろそろ行くぞー!」
ハヤトの声が飛んでくる。
「あっ!ちょい待ってぇ!」
慌てて支払いを済ませ、ダイチは仲間達の元へ駆けていった。
5人はミルハの門を抜け、二日前に通ったばかりの道を戻り始める。
ラディスまでの一本道。
穏やかな朝日の中で、馬の足音が軽快に響く。
……はぁ……
結局買ってもうた……
サイズも分からんのに……
ダイチは心の中で大きくため息を吐いた。
まぁ、でもいつか、この旅が終わって……昔みたいに、ジントと暮らせる日なんてきたら……
その時、渡せたらええな……
ぼんやりと道の先を見つめながら、
そんなことを考える。
すると後ろから、ふいに耳元で声がした。
「ねぇダイチ」
「っ!?」
思わず肩が跳ねる。
「な、なんや!?」
「何か考え事?」
ジントが少し上目遣いで覗き込んでくる。
「え!?いや、べ、別に……!」
まさか心を読まれたのかと焦るダイチ。
そんな彼を見て、ジントはくすりと笑った。
「ウッソだぁ」
「だってダイチ、考え事してる時って、いつも黙り込んでこっちに力入っちゃうじゃん」
そう言って、ジントはダイチの頬を軽くつつく。
「…………っ!!」
ダイチは慌てて顔を背けた。
顔が熱い。
「そういうとこ、昔から変わんないよねぇ」
呑気な声で笑うジント。
ダイチは軽くため息を吐くと、空を仰ぎながらぽつりと呟く。
「……ジントも、変わらんよなぁ……」
青い瞳は、霧が晴れたように澄んでいた。
なんだか先ほどよりも景色が眩しく見えて、ダイチは思わず目を細める。
目の前に長く伸びる道が、まるで永遠に続いているように思えた。
コメント
5件
悩んだ末に結局指輪を買っちゃうダイチが可愛いですね🤭︎💙

ダイチはいつ指輪渡すのかな«٩(*´ ꒳ `*)۶»ワクワク
わあ、今回のエピ、めっちゃほっこりした…🥺 お土産選びのシーン、みんなの家族想いなところがじわじわくるし、特にダイチがジントに指輪買っちゃうところ、もう完全にバレバレなのに照れてるの尊すぎる…「ジントも変わらんよなぁ」って呟きに、全部の空気が優しくなった気がした。 comiさんの描く日常の一瞬一瞬が、すごく丁寧で温かくて、読みながら自然と涙腺が緩みました。次の展開が待ち遠しい🌙