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第5話 音のない寒原
境界を越えた瞬間
音が消えた
雪が積もる
だが
踏みしめた感触だけが残る
風はある
寒さもある
けれど
耳には何も届かない
チョップは
境界で足を止める
厚い肩
張り詰めた筋肉
息は一定
これ以上
中へは進めない
外で
待つしかない
イチョウは
一人で進む
細い体
布装備が揺れる
動きは軽いはずなのに
歩幅が定まらない
足跡が
すぐに消える
立ち止まる
ここは
何の土地だったか
思い出そうとすると
頭の奥が冷える
自分は
なぜ
ここを知っている
巣立ち
その言葉だけが
輪郭を失っていく
幼い日の景色
離れた瞬間
振り返らなかった理由
すべてが
雪の下に沈む
イチョウは
その場に膝をつく
細い背中が
わずかに震える
外で
チョップは
動かない
視線だけを
境界の内側に向けている
奥で
ドラギがいる
小さな体
短い翼
吐く息が
微かに揺れる
雪と闇の間で
記憶が溶ける未来
息で
変えてしまう未来
ドラギは
まだ
選ばない
寒原は
音を返さない