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_『あの夏が飽和する。』曲パロ
full カンザキイオリ
…自己解釈や改変が入ります
_『昨日人を殺したんだ』
君はそう言っていた。
空き教室。毎週金曜日は市から来た教育委員会?か、何か。PTA?保護者?
よく分からないけど、ジジイに課題を教えてもらう日がある。
…六時十五分。いつもの時間。
「ありがとうございました〜」
「ッスー」
適当な挨拶をして手を振り、帰る。
「…なあ、信じてくれる?」
黛河はそう言って急に神妙そうな顔をする。
「何が」
短い返事を返す。どうせくだらないことだろうと。
『昨日人を殺したんだ』
…なにかのジョークか?また映画を見たのか?すぐに彼は影響される。
「…嘘だろ。」
『殺したのは隣の席のいつもいじめてくるアイツ』
妙に真剣な表情をしているから俺は信じた。これは、マジだと。
『もう嫌になって肩を突き飛ばして、打ち所が悪かったんだ』
屋上か?…今はそんなのどうでもいいが。
『もうここにはいられないと思うし、どっか遠い所で死んで来るよ。』
そんな君に僕は言った。
「それじゃ僕も連れてって」
『いいのか?』
「君と死ねるなら本望だ」
『…いつものとこで。』
彼は俺を止めようともしなかった。 きっともう安堵していたんだろう。
分からない。諦めも混ざっていたような。
家へ帰り、財布を持って、ナイフを持って、携帯ゲームもカバンにつめて、
いらないものは全部壊していこう。
ガコン!と壊すものの音が響いたり、ぶつかる音が響く。
パンパンに入ったゲームとお菓子。
あの写真も、あの日記も
今となっちゃもういらないものだ。ただの紙切れでしかない。
いつものところへ集合し、宛先もなく走った。
…黛河と、凜の君と僕の旅だ。
そして僕らは逃げ出した。
この狭い世界から。
あの空を目指して無我夢中で走った。
どうせすぐ未来はなくなるというのに。
この瞬間がいちばん青春していたと思う。
隣の黛河は心做しか少し楽しそうに見えた。
それを見て、俺も嬉しくなった。
好きな人の笑顔って、こんなに明るくなれるんだなと。
家族にさようならも伝えずに僕は二人だけで死ぬんだ。
俺たちはいつもの場所があった。大好きな、「奏涼山」。涼しくて、虫や動物の鳴き声が合奏のように聞こえたから奏涼山って言う名前。
そこの頂上から見る景色は絶景だ。
そこで自分たちは死ぬ。
死ぬと決めたなら死ぬ。もうこの世に価値など無くなったから。
「…黛河は何も悪くないよ」
「なんも悪くないから。」
『…うん』
「…人殺しなんてそこらじゅう湧いてるだろ。蚊とか。」
『それ人間じゃねえだろw』
やっぱり楽しいな。不安なのは黛河の筈なのに。俺に泣き顔すら見せずにニコニコってしてる。強がらなくていいのに。
◆二章 『愛されないまま』
結局俺らは誰にも愛されたことなかった。
「俺って愛されてた?」
『愛されてたろ。』
「黛河こそ」
『そんなことねーよw』
2人ともどっちもどっちだ。愛を感じれなかっただけかもしれない。
そんな嫌な共通点で俺らは信じ合ってきた。そこには絶対固い絆があって、その絆はひきさけなくて、多分俺たちだけのものだった。
無我夢中で走ってる時。
黛河の手を握ると、微かな震えもなく、決意の籠った目があるだけだった。
俺は見て思った。
「やっぱ黛河はかっこいいな」
『なんか言ったか?』
危ない危ない。声に出ていたみたいだ。
奏涼山から数メートル歩いたところに線路がある。
彼の手をぎゅっと握りしめて線路を歩く。
『あー怖ぇ〜』
声が震えていた。
決意に満ちていたのに、いざとなったら怖いのだろう。
俺たちは親の財布から金を盗んで、二人で逃げて、どこにでも行けると思っていた。
今更死ぬことより怖いものなど何も無かった。どうせ死ぬからと好きなことしてやろうと、好きなだけバカやった。
走り過ぎて切れた息も、額から流れる汗も、どこで落ちたかは分からないが落ちた眼鏡もすべて…
「今となっちゃどうでもいいんだ。」
「あぶれ者の小さな逃避行の旅だ」
歩く度に軋むような音がする古い線路。
静かな空気の中俺は口を開く。
「なあ、もしさ、これがスパイダーマンとかアイアンマンとかアンパンマンとか。」
「いつか夢見た優しくて、誰にでも好かれるヒーローだったら俺たちの犯した許されないことも笑って許して救ってくれるのかな 」
『何バカ言ってんだ。そんなもんねえよ。現実見ろ』
「ひえーこわっ!」
シアワセの四文字なんてなかったこと、今までの人生で思い知ったろ。…今この瞬間以外は。自分は何も悪くねえと、誰もがきっと思ってる。
みんなが誰かに押付けたいと思ってる。
ミーンミーン
いつもセミは元気だ
どうせ一週間の命なのに
必死で縋り付いて生きてる。俺達もそうだろう。満杯に入れてきた水筒の水ももうすぐ無くなる。入れてきたジュースは背中のカバンに埋もれてる。
視界が揺れ出してきた。危ない!ここで死んじゃダメだ。
「おい!」
…ピーピーと、スマホの通知と後ろから迫り来る大人たちの怒号なんかに
ギャハハと笑い声を上げて俺たちはふざけあった。
そろそろ奏涼山の頂上だ。
『やっと着いたな!』
「疲れたー!」
と、休ませる暇もなく俺はナイフを手に取る。
「殺したのは君だ」
「でも俺は君のことが好きだ」
「愛してる」
「君が今までそばにいなかったら、俺はとっくに死んでた。」
「だからもういいよ」
「皆許してるよ」
「死ぬのは俺一人でいいの」
そして俺は首を切った。すぐに神経は途切れ、なんの感覚もなくなった。整備もされていない草むらに大きな体が倒れ込む。
『…』
まるで何かの映画のワンシーンだ
『死ななきゃ行けないのは俺だろ!!!』
『ふざけんな!!何してんだよ!! 』
『ああああああああぁぁぁ!!!』
『俺も好きだ!愛してるから生きてくれよ!!!!!』
そんな言葉通じることもなく、
ただ凛は涙を流してゆっくりと目を閉じる。
『ああああああああぁぁぁ!!!!!』
叫び声と嗚咽混じりの泣き声が山中に響き渡る。重たい鞄と、もう時期冷たくなる凛の体を抱きしめる。
そうか、これは夢だ。そうだよな!可笑しい。凛は生きてる。そうだよ。そうだと言ってくれよ。
白昼夢を見ているんだ。俺は。
ガサガサッと、警察や大人たちが集まり、俺の事を凛から引き剥がすように離す。
『やめろおおおおおお!!!!』
『俺から凛を!!!凛を取らなッ…!!!!』
あくまで夜遅くだ。口を大きな手でがっと塞がれ、両手首に手錠をかけられる。
気付けば俺は重たいカバンを背負って小さな車両に乗せられていた。
俺が全て悪いのに。
なんで無意味な彼が死ななければいけなかったのだ。
自分を責め続けた。 その間は食事も喉に通らず、鍛えたはずの筋肉は衰え、痩せこけて行った。
君をずっと探していた。
まだ、奏涼山の中でさまよっているのかもしれないと思って。
なのに君だけがどこにもいなくって。
大嫌いな家族もクラスのあいつも居るのに
大好きな凛だけが見つからなくって。
あの日を思い出してはまた自分を責めそうになる。
彼はきっと生きたかった。死にたい俺が生きていて意味は無いのに。
今はこのクソみたいな世の中に反抗しながら生きるしかないのだと知った。
君に言いたいことがある。
「凛は何も悪くないから」
「凛は全て正しかったから」
君の笑顔が脳裏に浮かぶ度に、君の無邪気さを振り返る度に頭の中は凛だけで飽和する。
「凛は何も悪くないよ」
「凛は何も悪くは無いから」
「もういいよ投げ出してしまおう?」
そう言って欲しかったのだろう、なぁ?
_終わり_