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眠狂四郎
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時は少し進み、バッターは曲がりくねった坑道の中を、歩いていた。
彼の歩く後には、葬り去られた亡霊の残骸が静かに横たわっている。
亡霊との初戦を行った場所から何度か曲がり角を行くと、広い空間に出た。そこでは、ヘルメットをかぶった一人の者がピッケルを片手に立っていた。
者は、バッターを見ると、焦ったようにピッケルを持ち替え、バッターに言った。
「は…働いてますよ…。ちゃんと成果を出してますよ…」
バッターは無視して、広間から伸びている道を進んでいくと、十字路に出た。
右手へ進むと梯子が掛けられており、さらに地下へ降りられるようになっていた。そこを降り、先に進むと、ドアがあった。ドアは反対側から鍵がかけられており、開かないようだ。
バッターはもと来た道を戻り、広間から見てまっすぐの道を進んだ。
道の先はブロックにより進めなくなっていたが、その代わりに地上へ抜けられる梯子をバッターは発見した。
梯子を上ると、緑色の大地が目に飛び込んできた。
遠くに見える駅らしきものの看板には、ペンテルと書かれている。
バッターが駅を眺めていると、右側の通路からエルセンが歩いてきた。
エルセンはバッターを確認すると、大仰に肩を揺らした。
「え…えっ? あなた煙鉱山から来たんですか?」
エルセンは、梯子とバッターを交互に見ながらそう言った。
「そうだ」
バッターはそれだけ言い、エルセンを見つめた。
ヘルメットが付いていない。どうやら、鉱夫ではないようだ。
「で…でも…でも…あそこは亡霊でいっぱいのはずなのに…」
「ああ」
バッターがそう返すと、エルセンははっと息を呑み、怯えたような表情で尋ねた。
「あなた、まさか亡霊?」
「違う」
バッターは即答した。
「じゃあ誰なんです? クイーンが派遣した方ですか? それともデーダンさんが?」
「どちらでもない」
バッターはやはり無機質にそう答えた。
「で…でも…でも…どっちにしろ、あなたは亡霊との戦い方をご存じなんですよね? あ…あなたは連中をやっつけられるんですか?」
「ああ」
バッターが答えると、エルセンは嬉しそうに言った。
「わあ。それは…それは素晴らしい…。ぼ…僕らの…あー…大畜舎にも亡霊たちがいるんです」
「畜舎?」
「あー。ええと。はい」
そこまで言うと、エルセンは背後の工場へ視線を向けてから、バッターに言った。
「あー…ここはゾーン1の東側、ペンテルのメタル工場です。ここでは、家畜を真っ二つにして、その死体から丸い石を取り出すのが僕らの仕事です」
エルセンは、言いながら自分の背後を指さして見せた。
そこでは、別のエルセンたちが縦に切られた牛の死体に手を突っ込み、メタルを取っている。
次にエルセンは自分の右側を指さした。
指の先には策があり、その中に牛がいる。成熟した個体から順にメタルを抜かれているのだろう。
「品質の低いメタルはすべて処分されて、僕らが歩いている地面になります。残りのメタルは精製されて、道具や他のオブジェクトを作るのに使われます。精製されたメタルの一部は木箱に詰めて他のゾーンに送られ、向こうでも道具や地面になっているはずです…」
エルセンは言い終えると、地面を見た。
「4つのエレメントのうち最初の一つ…とても重要なエレメントです」
エルセンは地面を見ながらぶるりと身を震わせた。
「だって、もしメタルがなかったら僕らが歩ける場所はありません。きっと、みんな沈んで溺れ死んでしまいます」
言い終えるとエルセンは顔を上げ、自身がやって来た通路の奥を指さしながら言った。
「あそこです…さっき言った通り、亡霊たちはあの大きな畜舎にいます…」
怯えるエルセンにバッターは冷徹に答えた。
「先に鉱山を浄化しなければ」
「あー…そうですね。でも、畜舎は鉱山ほど大きくないですし…それと、その…よければ、こっちの方を先に気にかけてくれませんか。クイーンの監査官が、もうすぐこちらに到着しそうなんです…」
エルセンは後ろにある駅をちらちらと見ながら怯えたような顔をした。
「その…お願いです、畜舎の方を先に引き受けてくれませんか?」
「…」
バッターは、数秒の沈黙の後に小さく口を開いた。
「分かった」
「ああ! ああ! よかった! ありがとうございます、本当にありがとうございます! 見れば分かりますけど、畜舎は全然大きくありません。きっとすぐに片付きますよ」
エルセンは再び畜舎の方を指さしながら言った。
バッターは、エルセンが来た道を行った。
畜舎の入り口はすぐに見つかった。入り口の横にも柵があり、中には当然牛が数頭いる。
バッターは牛や畜舎の周りにいるエルセンには目もくれず、入り口から中に入って周囲をぐるりと見回した。
すると、正面の部屋に亡霊が一体、佇んでいた。
バッターは亡霊を視界に収めるや、一気に距離を詰め、その亡霊のどでかい頭にバットの一撃をくれてやった。
「粛清の時だ。哀れな亡霊よ」
バッターは静かにそう言い放ち、再びバットを構えた。
…だが、ここからの展開を話すのは、少々蛇足であり、言ってしまえば、見飽きた光景でもあろう。
バッターが亡霊を殴り、アドオンが体当たりをする。亡霊の抵抗なんて意に介さず、一方的に打ち倒し、そして勝利する。それだけだ。
入り口の方に戻る途中で、バッターは右にも通路があることを発見した。
ちらりとそちらを覗けば、亡霊が二体。メタルの塊の傍に陣取って漂っている。
バッターは再びバットを持ち直すと、部屋に突入した。
先ほどと同じようにアドオンと協力し、亡霊を葬り去ると、バッターはまた部屋を見回した。
二体の亡霊を倒した部屋の右上と左上には、それぞれ部屋があり、バッターはまず右上から浄化することにした。
案の定と言うべきか。そこにも亡霊がいた。
バッターはそいつを速やかに浄化し、左上の部屋へ移動した。
左上の部屋には亡霊はおらず、地下に続いている階段があった。
地下に下りると、大量のメタルの塊が置いてあり、その向こう側に一体の亡霊がいた。
バッターはメタルを押しのけながら無理矢理に進み、亡霊の顔面にバットを叩き込み、浄化した。
地下から出て上階をもう一巡したが、亡霊の姿はどこにもなかった。畜舎は浄化された。
バッターはバットを下げ、畜舎から出ようとした――その時、何者かが近寄ってくる音が聞こえ、反射的に姿を隠した。
こっそりと顔を出して外をうかがうと、そこには二人の人物がいた。
一人は、先ほどバッターに畜舎の浄化を依頼したであろうエルセン。
そしてもう一人は、今までに見かけたことのない人物だった。
足元まである白衣を着ており、その下には黒のスラックスを履いている。上半身には何も着ておらず、彼の完成された肉体が露わになっていた。
顔。といえば、彼の顔は今まで見てきた猫とも、エルセンとも全く似通っていない。
すらりとした縦長の頭には、シマウマの歯のような歯がむき出しになっている。両方の口元は縦に裂け、その上には爛々と輝く双眸が鎮座していた。
「あ…そのっ…ほっ…本当に…そのっ…」
エルセンはがたがたと怯えながら彼を少し見上げ、蚊の鳴くような声を上げた。
「黙れ。このシミッタレたマヌケ野郎が」
彼はエルセンを見下しながら、仁王立ちでそう言った。
その凶悪な瞳がエルセンを鷲掴みにする。エルセンはひゅっと言った。
「そ、そんな…! い…いえ………。はいっ…」
うつむきながらぼそぼそと喋るエルセンを見てから、彼はため息を吐き、それから畜舎を親指で指しながら言った。
「で、ヤツがココに入ってからどれくらいだ?」
「わ、わかりません…」
情けない声で言うエルセンを、はん、と鼻で笑い、彼は再び口を開く。
「だろうな。お前には何も分かりゃしねえんだ。まァ見当はついてたがな」
エルセンは彼を弱弱しく見上げながらも、おずおずと口を開いた。
「か…彼は、ぼ…亡霊たち…退治するって…」
彼はそう言うエルセンをやはり見下しながら言う。
「で、どうしてヤツは自分がくっだらねえ亡霊どもをブッ飛ばせると思ってやがるんだ?」
エルセンはぽかんとした顔で、彼を見上げた。
彼は、滑稽そうに笑いながら、話を続ける。
「その野郎は、テメエの方がお前よりスゲエと思ってやがるのさ! テメエの事を、クイーンよりもスゲエと思い上がってる!」
「い、いや…そんなことは…」
エルセンは小さく言うが、彼は不機嫌そうに顔をしかめると、エルセンの頭をがしがしと揺らしながら言った。
「黙れ。お前にゃ何も聞いてねェんだよ」
彼は頭から手を離すと、エルセンの頭を見下ろしながらため息交じりに言った。
「お前、自分が他の連中よりも賢いと思ってんだろ? だがな。俺からしたらお前らどいつもこいつも一緒なんだよ。そろって鳥頭ばっかりだ。…まあ、ンな事ァはどうでもいい」
彼は入り口を指しながら、見せつけるように笑って言った。
「どうせ、そのカン違い野郎はユーレイどもに消されちまうのさ」
「あ…え…?? 野球服の彼が…失敗するとお考えで…???」
「ッたりめェだろ。ユーレイどもと戦えるやつなんざ、クイーンの従者以外にいやしねェんだ。俺の言うことをもっと聞いてりゃ、お前もそこまでのクソッタレ野郎じゃなかっただろうによ」
彼はエルセンをあざ笑いながら、畜舎に背を向けた。
エルセンが必死に彼を引き留めようと、声を荒げる。
「で、でも! そしたら誰が…誰が亡霊たちを退治するっていうんです?」
「俺ならできただろうがな」
彼はエルセンが伸ばしてきた手をあっさりと振り払った。
「だが、お前にゃ助けてやる価値もねえ。悪ィがテメエのケツはテメエで拭くこった」
「あ…あ…そんな…あんまりです……お、お願いです…お願いです……!」
「テメエが泣き叫ぼうが無駄だ。俺ァ行くぜ。アルマに戻る。少なくともあそこの連中は礼儀ってもんが分かってるからな。お前みてェにいちいち口答えしやしねえ」
「おっ……お願いです………行かないで…」
「あばよ」
彼はそう言ったが、エルセンはもう一度、彼の正面に立ち、彼を引き留めようとした。
しかし、彼は冷徹な目でエルセンを見下しながら、一言だけ言った。
「失せろ」
けれども、エルセンは退かない。
必死に彼を引き留めながら、魂の奥底から叫んだ。
「行かないでください…! やめて…そんな…」
デーダンは、泣き縋るエルセンを気怠そうに見下ろしながら言った。
「こいつァ命令だ。クビにされたくねェんなら、とっとと目の前から消えやがれ」
その言葉にエルセンは震えあがり、恐る恐る彼の前から退いた。
肩をがたがた震わせながら今にも泣き崩れそうなエルセンに一瞥すらくれず、彼は歩き去った。
コメント
1件
読了しました。バッターが淡々と亡霊を浄化していく流れは安定してて、逆に不気味な静けさを感じました。その後に現れたデーダンというキャラの圧がすごくて、エルセンが怯えながらも必死に食い下がる場面は胸が痛かったです。「クイーンの従者しかユーレイと戦えない」という台詞が気になりますね…バッターは何者なんだろう。容赦ない世界観に引き込まれました。続きが楽しみです。