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お母さんが死に、悲しみと己の無力感で嘆いていると―――
私の周りにいた盗賊達は光の輪によって無力化された。
「一体なにが起こってるの・・・?」
私はそう呟いた。
その後すぐに知らない少年が来た。
歳は多分私と同じくらいの黒髪の少年がだった。
少年は横たわっている私のお母さんの前に来て、魔法を使用しているようだった。
そして、少年はこう言った。
「やはり、もうダメか・・・。」
この人が私のお母さんを生き返らせようとしているのは分かった。
だけど、なぜここまで、赤の他人のために必死になれるのか分からなかった。
ルイーズさんも様子を見に来た。
「ススム、他の負傷者の傷も治してやってくれないか?」
「まだ、救える命はある!」
ルイーズさんの言葉もあり、他の負傷者の方のところに行った。
ルイーズさんは私のことを慰めてくれた。
「私がこの村の守り手なのに、留守にしてすまなかった―――」
「君のお母さんにはなんて謝ればいいのか分からない。」
「許してくれとは言わないがせめてこの村の為に命を捧げさせてくれ。」
ルイーズさんはそう云ってくれた。
この人は本当に後悔している。
それはすごく伝わる。
別にルイーズさんのせいじゃない―――
それは分かっている。
でも、ずっと胸の奥からこんな言葉が響く。
何でこんなことになってしまったの―――?
私達が何か悪いことをしたって云うの―――?
できることなら夢であってほしい―――
こんな現実はおかしい―――
お母さんを返してって―――
「いえ・・・ルイーズさんのせいではありません。」
「だからどうか自分を責めないでください。」
私は疲れと悲しみから小さい声でそう答えた。
あの少年はすぐに生き残った村人全ての傷を癒し、拘束した山賊を村の中央に集めた。
村長と何やらやり取りをしているようだった。
そして、生き残った私たちにこう言った。
「この山賊たちをどうします?」
「いや、どうしたいですか―――?」
私は正直迷ったが、とてもじゃないが山賊たちを許すことなんてできない。
少年はこう続けた。
「殺すことは簡単です。」
「それとも他の町に連れて行って、牢獄に閉じ込めてもらいますか?」
「断言してもいい。」
「こういう奴等は、牢獄から出てもいずれ罪のない人を殺しますよ。」
その言葉で私はこの手で山賊たちに後悔させて、殺したいと思ってしまった。
「ひっ…やめてくれ。助けてくれ―――」
山賊たちは力任せに光の輪の拘束から抜けようと抵抗しているが、その拘束から逃れることは叶わなかった。
私は、母親を殺した三人の山賊の所に行き、ルイーズさんに貸してもらったナイフで一人の心臓を刺した。
その男は血を吐き、苦しみながら絶命した。
「おい、嬢ちゃん冗談だろ。」
「頼むよ嬢ちゃん―――、アンタの母親を殺したのは悪かった!!」
「俺たちもうこれから誰からも物を奪ったりしない。」
「人も殺さないし、傷つけない。だから命だけは助けてくれ―――」
さっきの少年の言葉を思い出す。
こんな山賊の言っていることよりも村人を善意によって助けてくれた少年の方がはるかに信用できる。
「あなたたちはこれまで、そう言って命乞いをしてきた人たちを見逃したことがあるの?」
「ないですよね―――?」
「だから私は貴方たちの命を奪う!!」
「その人たちの為にも―――」
血まみれのナイフを山賊たちに向けた。
そして、残り二人の山賊たちの胸にもナイフを刺し、同様に殺した。
他の村人も自分と同じように山賊たちを殺していた。
三人の村人殺した後に自分は途方もない虚無感と虚しさだけが残った。
でも後悔はしていない。
こんなことをしてもお母さんは返ってこないのに―――
そんなことは頭では分かっている。
そして、よろよろと私は歩き出した。
そうしたら、あの少年が見えた。
ほんの何てことはない好奇心だった。
その少年に話しかけようと思った。
「ねぇ、なんでお母さんは死んだの?」
そんな問いかけをしてしまったのだ。
自分でもよくわからない。
その少年にだって分かる筈がないのにだ。
だがその少年はちょっと考えてこう答えた。
「それはこの世界が不条理だからだ。」
「力がない者は力がある者に簡単に奪われる。」
「この不条理に抗うために必要なのは、力と強い信念だとオレは思う。」
「だが、誰しもがそんな世の中を望んでいるわけでもない。」
「平和を望む者が力のある者であれば、この世界はもっと平和になる―――」
「逆も然りだ。」
「もし君がこの世界に自分のような家族を理不尽に殺されるやつを生み出したくないなら、君自身が強くなればいい。」
「力のある者の語り掛けにしかこの世界は答えてはくれない。」
「ただ・・・君の母親は最後まで君のことを守っていた。」
「それは、彼女の”強さ”であったとオレは思うよ。」
そんな言葉を私に言ってその少年はその場を去っていった。
私は少し考え、そうだったのかと―――
全ては私が弱かったのがいけないとそう思ってしまった。
あの時だって、私がもっと抵抗していたら、山賊にお母さんが殺されるのを止めることができたかもしれない。
私はその両膝を付き泣き叫んでしまった。
今のこの涙は悲しみではなく、その時の後悔からの涙である。