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「お姉様が見に来て下さらないのなら、私は明日の式典とパレードには出ません」
トワイライトの発言によって、また部屋の空気が固まってしまった。
使用人達は互いに顔を合わせ、ヒソヒソと何かを呟きだし、ルーメンさんも慌てた様子でトワイライトを見た。だが、トワイライトの意思は堅く、もう一度、同じ事を繰り返した。
私はそんな彼女を見て何を言えば良いのか分からなかった。
「と、トワイライト……」
「あんまりじゃないですか。何故、お姉様はそんな風に扱われないといけないのですか。お姉様が何をしたってウンですか。そんな風にお姉様を扱う人達に私は祝福されたくありません」
と、トワイライトはルーメンさんに言った。
ルーメンさんは、私をチラッと見ると、少し考えるような素振りを見せた後、参ったとでも言うように視線を下に落としていた。
私は、何も言えずに黙って見ているしかなかった。
すると、ルーメンさんが静かに口を開いた。どうやら、ルーメンさんは私の扱いについて納得しているわけではなく、どうにかしたいと思っているようだ。
だが、それよりも、トワイライトが明日出席しないと言ったことでどうするべきか悩んでいるようだった。まあ、主役がいないのでは意味がないし、国民の批判も殺到するだろう。私が式典や、パレードに参加するよりもきっと……
このままトワイライトが式典やパレードに出なければ、間違いなく皇帝陛下から叱責を受けるだろう。だが、彼女が出ないと言えば、式典もパレードも中止せざるを得ない。そうすれば、国民からの非難の声が皇宮に押し寄せるだろう。そうならない為にも式典とパレードは予定通り行われるはずだ。それに、また私が本物の聖女を脅して参加しないように言ったとか噂になっても嫌だし。
(トワイライトが庇ってくれるのは嬉しいけど、こういうのはちょっと違う……)
彼女の善意も、優しさも受け止めているし分かっているつもりだ。どれだけ彼女が私のことを思ってくれていて、私の為に動いて言葉を口にするのか。知ってる。でも、彼女は、私の置かれた立場をまだよく知らないのかも知れない。いや、知っていてもどうにかると思っているのかも知れない。自分の言葉は皆に伝わるとでも思っているのかも知れない。
だって彼女はヒロインだから。
純粋無垢で、人を疑わないまさにヒロインで聖女なのだから。
でも、現実が厳しくて辛いと言うことは私が何より知っている。自分の言葉で何ともならないときだってあることを、痛いぐらいに経験してきた。言葉で何かが変わるなら、皆戦争を起こしたり、いがみ合ったりしないだろうから。
「お姉様の出席を許可して下さい。でなければ、私は――――」
「トワイライト」
私が彼女の名前を呼ぶと、トワイライトは恐る恐る私の方を向いた。お姉様? と心配した声色で私の名前を呼ぶ。
私はそんな彼女に微笑みかけると、首を横に振った。そして、彼女の頭を優しく撫でると大丈夫だよと伝えた。彼女は私の言葉の意味が理解できなかったのか不思議そうな表情でこちらを見つめた。
「ルーメンさん、私は大丈夫です。なので、そんな顔しないで下さい」
「聖女様」
「お姉様、でも……!」
「トワイライト。ありがとう。でも、本当に大丈夫だから。アンタがどれだけ私のことを思っていってくれているのかも十分分かってる。私は、アンタの近くでアンタが皆に求められるところ、見たいと思ってる。でも、私は明日の式典にもパレードにも参加しない」
「……」
彼女は暗い顔になり、俯いてしまった。
でも、私は撤回するつもりはなかった。元々、こうなるだろうと予想していたし、トワイライトが口を出しても私は私の考えを曲げるつもりはなかった。彼女はまだ、私と彼女がどれだけ比べられているのか理解していない。しているつもりで、全く理解できていないのだ。
私が参加したところで、いい目を向けられないのは目に見えている。祝福も何もないのだろう。それなら、いない方がいい。
それに、私の為にわざわざ式典やパレードを中止になんてさせたくなかった。トワイライトはヒロインとしてその座についていてもらわなくてはならないからだ。
こう考えるのは自分でも可笑しいと思っているが、物語を極力変えてはいけない気もしていた。私の分かる範囲で、攻略はすすめるし、彼女とも仲良くする。それでいい。
トワイライトはまだ何か言いたそうに私を見てお姉様と私を呼んだが、私は彼女の制止を振り払って、立ち上がる。
「ごめん。今日は食欲ないから部屋に戻る。ルーメンさん、先ほどの事ありがとうございました。あと、さっきのこと、気にしないでください」
「いえ、こちらこそ、本当にすみませんでした」
「じゃあ、おやすみなさい」
私は頭を下げると、足早に部屋を出た。後ろからは待ってと、トワイライトの声が聞えたが、私は扉をバタンと閉めた。
「これで、いい……これでいいから」
自分に何度も呟くように言う。
今更ながら、胸が痛む。でも、仕方がないんだ。これは私が決めたことだから。私が選んだ道なんだから。
私がこの世界に来た時点で、もう既に決まっていたこと。私は誰からも祝福されない偽物聖女。でも、女神の生まれ変わりかも知れないって事を知って、守って貰えないのに命を狙われ続けることを知った。それを、皆に言ったところで到底信じてもらえないだろうけど。
だから、誰も悪くないし、トワイライトも、ルーメンさんも悪くない。
人の考え方はそれぞれだし、定着してしまった聖女の理想像が簡単に崩れるはずもない。
私は、辛い気持ちを抑えながら自室に戻りベッドに飛び込んだ。思えば、今日は色々あって疲れており柔らかいベッドに倒れ込むと、スッと睡魔が襲ってきた。でも、お風呂にも入っていないし、本当はお腹だって空いている。
(だけど、今は眠りたい……)
瞼を閉じると、そのまま深い闇に吸い込まれるようにして意識を手放した。
「んん……」
それからどれだけ経っただろうか、トントンと部屋をノックする音で私は目を覚ました。
外を見ればすっかり日は沈みきっており、窓から見える景色は真っ暗だった。
(こんな時間に一体誰が……)
時計を見ると時刻は夜中の9時を指していた。こんな時間まで寝てしまっていたのかと思うと、私は少し驚きながらも、ゆっくりと体を起こす。
そして、扉を開けようとドアノブに手をかけた瞬間、私はピタリと動きを止める。
もしかしたら、トワイライトかも知れないと思ったからだ。あんな風にちょっと強く言っちゃったから、会わせる顔ないなあと思ったし、明日のために休んで欲しいとも思っていたから、もし彼女なら開けない方が? と私はためらってしまったのだ。
(扉開けて、トワイライトだったとして……今日一緒に寝ようとか言われたらどうしよう)
そんな不安もあったため、私はドア越しに声をかける。
「ど、どちら様でしょか」
と、声をかければ扉の前の誰かはノックをするのをやめた。まさか幽霊? と怖がっていると、その人は私の名前を呼んだ。
「分からないの? 貴方の大親友のリュシオルよ」
そう、声がしたと同時に扉が開きお茶とお菓子を持ったリュシオルが優しく微笑んだ。
こんな時間に彼女が尋ねてくるのは珍しいと思いつつも、私は戸惑いながら彼女に何かようかときけば、彼女は何でそんなことを言うんだとでも言うような傷ついたような表情で肩をすくめた。
「ちょっとお話ししない? お腹空いたでしょ?」
そういった彼女は、いつもより優しい笑顔で私に微笑みかけた。