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白湯
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#しょしんしゃ🔰
李冬🍒♬@フォロバ💯
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戸崎に偶然会った日からの私は、再び彼に会えないものかと思いながら毎日を過ごしていた。けれどその時が訪れることはなく、今日も会えなかったとがっかりする日が続いていた。
彼のアパートは分かっているし、行けばどの部屋かも分かりそうではあるが、突然訪ねるのはさすがに無理だ。名前を聞いたあの日、あるいはその後の再会の時に、なけなしの勇気を振り絞ってでも、彼の連絡先を聞かなかったことが悔やまれた。
彼にはもう会えないのかしらと気持ちを沈ませていたある夜のこと、柚乃が私の部屋にやって来て、心配そうな顔で言った。
「ねぇ、詩乃。もしかして何か悩んでることでもある?どうしてそう思ったのかっていう顔してるね。そんなの当たり前だよ。だって、詩乃、ここ最近、あんまり笑わないんだもの。何かあるんじゃないかって思うわよ。だから、私に話してみない?何か力になれるかもしれないし、そうじゃなくても、少しは気持ちが楽になるかもよ?」
柚乃の気持ちは嬉しかったが、私は曖昧に笑った。先日戸崎に再会したことを話した時の、不快そうな姉の様子を思い出して、この悩みは言えないと思う。
「ありがとう。たいした悩みじゃないから大丈夫だよ」
柚乃は疑わしそうに私を見たが、仕方がないと言いたげに微笑んだ。
「分かった。これ以上は聞かないよ。だけど、何かあればいつでも話してね」
「うん。ありがとう」
柚乃は私が頷いたのを見てから、表情を明るくして話題を変える。
「実はね、見たいと思ってる映画があるの。今度の日曜日、一緒に行かない?そんでもって、詩乃の心を占めている何かを、少しの間だけでも忘れようよ」
「映画かぁ。久しぶりかも」
私は姉の気遣いを嬉しく思いながら、その誘いに乗ることにした。
それから数日後の日曜日、私は柚乃と一緒に映画館にいた。チケットカウンターへ向かおうとしたのを姉に引き留められた。
「私が買ってくるから、詩乃はあっちでフードメニューでも見てて」
柚乃は私に言いおいて、さっさとカウンターへ行ってしまった。
姉の素早さに苦笑しながら、私はフードコーナーに向かった。その手前に張り出されていたメニューリストを眺め始めてしばらくたった時、声をかけられた。聞き覚えのある声だと思いながら首を回し、どきっとする。笑顔の戸崎が立っていたのだ。
「と、戸崎さん?」
ずっと会いたいと思っていた人なのに、嬉しい以上に動揺し、私の表情は固まってしまった。
「詩乃ちゃん、こんにちは。久しぶりだね」
「こ、こんにちは」
私はもじもじしながら挨拶を返し、おずおずと訊ねる。
「戸崎さんも、映画を見に来たんですか?」
「ついさっき、見終わって出てきたとこだよ。詩乃ちゃんは?」
「私はこれからです」
「一人で見に来たの?」
「いえ、姉と二人で……」
「お姉さん?」
戸崎は落ち着かない様子で辺りを見回していたが、柚乃の姿を見つけてぼそりとつぶやく。
「チケット買いに行ってたんだね」
そこに突然見知らぬ男が現れる。
「悪い、お待たせ」
男は戸崎の隣に立ち、興味津々な顔つきで私を見る。
「知り合い?」
「あぁ、まぁね」
男は羨ましそうな声を出す。
「いいなぁ。いつの間に、こんなに可愛い女の子と知り合いになってたのさ。なんで黙ってたんだよ」
「俺も最近知り合いになったばかりなんだよ」
戸崎は苦笑しながら男に答えた。
男はにこにこしながら、私の方に一歩足を踏み出す。
「はじめまして。俺は、こいつの友達で、佐東って言います。神澤大の四年だよ。ね、映画、見終わったんなら、この後お茶でも行かない?」
「い、いえ、映画はこれからなので……」
戸崎が割って入る。
「佐東、やめろよ。彼女、びっくりしてるだろ」
「いやぁ、だって、ぜひお近づきになりたいなと思ってさ」
「そんなんだから、お前、軽いって言われるんだぞ」
友人に呆れ顔を見せた後、戸崎は急にそわそわし始めた。
「お姉さん、チケット買い終わったみたいだ。じゃあ、詩乃ちゃん。映画、楽しんで」
戸崎は佐東の袖を引っ張って、そそくさとその場から去ろうとした。
「えっ、戸崎、どうしたんだよ?」
「いいから、行くぞ」
ところが、急ぎ足で私の傍までやってきた柚乃が、彼の行く手を阻んだ。眉間にしわを寄せて戸崎を見る。
「あなた、あの時の人ですよね。詩乃に何か?」
「あ、いや……」
戸崎は眉尻を下げ、気まずそうな笑みを口元に刻む。
「えぇと、先日は俺の不注意で、詩乃ちゃんに怪我をさせてしまって、本当にすみませんでした。今日は二人で、映画を見に来たんだってね。俺はもう見終わって帰る所なんで、そんなに警戒しないで、安心して二人で楽しんでください」
柚乃の片方の眉がぴくりと動いた。
「言われなくても、詩乃と楽しみます。詩乃、行くよ」
「え、う、うん。あの、戸崎さん、それじゃあ……」
「うん。またね」
彼は私に微笑みかけ、柚乃には軽くお辞儀をしてから、出口に向かって歩いて行った。
その背中を見送っていた私を、柚乃はフードメニューの前まで引っ張っていく。
「詩乃、飲み物とかはもう決めたの?」
「あ、えぇと、まだ」
「じゃあ、早く決めようよ。私はどれにしようかなぁ」
姉の声を聞きながら、私は戸崎たちが去って行ったはずの方向に視線を飛ばした。けれど、彼の姿はすでになかった。もう少し話をしたかったと残念に思う。
「よし、決めた。私はフルーツ入りソーダ水。詩乃は?」
「うぅん……。じゃあ、アイスカフェオレ。今度は私が買ってくるね」
購入したドリンクを手に、私たちはシアターに向かった。
柚乃が不思議そうに私に訊ねてきたのは、席に腰を下ろした直後だった。
「ねぇ、詩乃。いつ、あの人に名前を教えたの?」
「えぇと、この前偶然会った時に、ちょっとね」
「ふぅん……」
柚乃の眉間にしわが寄ったのは、碧斗と同じような理由からだろうと私は察した。
「ニ、三回しか会ったことのない、親しくもない関係だって言うのに、もう『詩乃ちゃん』呼びか。なんか、軽いよねぇ。一緒にいた人も、軽そうな人だったけどさ」
初対面から尾を引く彼への悪印象が、柚乃の中でますます悪い方へと傾いてしまったかもしれない。それ以上彼のことを悪く思われたくなくて、私は彼を擁護するような言葉を口にする。
「でも別に、私、嫌じゃないし」
柚乃は私の顔をじっと見つめる。
「詩乃、あの人のことが好きなの?」
「えっ、まさか。全然そんなんじゃないよ」
慌てて私は首を横に振った。戸崎のことを気に食わないと思っているだろう柚乃に、彼への恋心を今明かせば、即座に強固に反対されてしまうに違いない。
柚乃は私の答えを聞いて、安心したように笑う。
「そうよね。慎重な詩乃が、たった数回会っただけの人を好きになる訳がないものね。やっぱり詩乃にはさ」
言いかけて、柚乃ははっとしたように口をつぐんだ。
「やっぱり私には、何?」
「何でもない、こっちの話」
私の質問は姉にさらりとかわされて終わった。
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