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パソコンのディスプレイが、青白い光を放っていた。
静かなオフィスの一角。夜更けの空気は冷たく、窓の外では街の灯りが遠く瞬いている。
真白は、キーボードの上に手を置いたまま、長いあいだ動けずにいた。
“また会おう”
――あの朝、胸の奥で聞いた声が、今も微かに残っている。
夢だったのか、それとも本当に魂の記憶なのか。
境界は曖昧なまま、現実と幻想のあわいに滲んでいた。
モニターの画面には、新しいゲームの企画書が開かれている。
真白が最初にこの企画に向き合ったとき、頭の中は真っ白だった。
何を描きたいのか、何を残したいのか――それさえも、見失っていた。
けれど今は違う。
胸の奥に、たしかな輪郭を持つ“誰か”がいる。
その人の声、微笑み、そして約束の言葉。
それが、言葉にできない形で真白を支えていた。
ふと、画面のタイトル欄に目をやる。
カーソルが点滅するその場所に、真白は静かに指を置いた。
そして、ゆっくりと打ち込む。
――ALEXIS
キーを叩くたび、胸の奥で小さな震えが走る。
その名は、ただのキャラクターではない。
誰かを守り、誰かに守られ、時を超えて再びめぐり逢った魂の名。
夢の庭で交わした約束が、こうして新しい形を得て再生していく。
真白は、ふと笑った。
アレクシスが生きていた世界は、もう夢の中のものだ。
けれど、その想いは物語として、言葉として、彼の中に確かに息づいている。
「今度は、僕が君を描く番だね」
小さく呟いた声が、夜の静けさに溶けていく。
モニターの光が真白の横顔を照らし、瞳に淡い輝きを宿した。
胸の奥から、懐かしい声がそっと響く。
“――大丈夫。俺は、ここにいる”
涙ではなく、微笑みが零れた。
この現実の世界で、アレクシスはもう触れられない存在になった。
けれど、魂の記憶は物語の中で再び息を吹き返す。
やがて、窓の外が白み始めた。
夜明けの光が街を包み、淡い朝焼けが空を染めていく。
真白は一息つき、指を動かした。物語の冒頭の一文を打ち始める。
“――白い庭に、ひとりの青年が立っていた。”
その瞬間、心の奥で微かな震えが起こった。
まるで、アレクシスがもう一度そこに立っているかのようだった。
光の粒が画面の向こうで揺れ、真白の指先を導く。
彼の物語は、終わりではなく、始まりへと変わっていた。
記憶の欠片が形を持ち、言葉が世界を紡ぎ始める。
現実という舞台の上で、真白はようやく“再会”を果たしたのだ。
「ありがとう、アレクシス」
静かな声でそう告げると、風がカーテンを揺らした。
それはまるで、誰かが微笑みながら応えてくれたようだった。
――“また会おう”
その声を胸に抱きながら、真白は新しい物語を綴り続けた。
いつか、その物語が誰かの心に届く日を信じて。
光の下で、再びめぐり逢うために。