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会場の照明が、白くまぶしいほどに輝いていた。
大型スクリーンには、新作ゲームのタイトルが映し出されている。
――『Garden of Souls(魂の庭)』。
真白は、ステージ袖に立ち、深く息を吸い込んだ。
何度も夢に見た名前。何度も、失っては取り戻した世界。
今、それがようやく“現実の光”の中に立ち上がっている。
観客席には無数の顔。
誰もが期待と歓声に満ち、真白の描いたキャラクターが映るたびにざわめきが起こる。
その中央――金色の髪を持つ青年の姿が、スクリーンに大きく映し出された瞬間、会場の空気が一変した。
まるで、そこに本当に“彼”がいるかのように。
「この作品は……僕にとって、“出会いの記録”なんです」
マイクを通して、自分の声が会場に響く。
言葉を選びながら、真白は穏やかに笑った。
「誰かと心を通わせること。たとえ形を失っても、その想いは残る。
――そんなことを、信じて描きました」
会場の拍手が、まるで風のように広がっていった。
その音の中に、ひとつだけ――懐かしい鼓動のような感覚が混じる。
胸の奥が、静かに熱を帯びた。
ステージを降り、客席の方へ視線を向けたその瞬間。
人の波の向こう、ほんの一瞬――光が揺らいだ。
そこに、立っていた。
金色の髪を持つ青年。
陽光をそのまま纏ったような姿で、穏やかに笑っていた。
観客の誰もが気づかない。けれど真白だけが、その存在を確かに“感じ取った”。
時間が止まったように、世界が静まる。
真白は息を詰め、微かに唇を動かした。
――「アレクシス」
名を呼ぶ声は、届かないはずの距離を超えて響いた。
青年はわずかに首を傾け、優しく微笑んだ。
その瞳には、確かな光が宿っている。
「……約束は、果たされた」
声にならない声が、風のように流れ、真白の頬を撫でた。
心の奥で、何かが静かに弾ける。
もう泣くことはなかった。
涙の代わりに、あたたかな安堵が胸いっぱいに満ちていく。
青年の姿が、光に溶けるように淡くなっていく。
けれど、消えることへの恐怖はもうなかった。
それは別れではなく――永遠に続く再会の予兆。
真白は目を閉じた。
まぶたの裏に、あの日の白い庭が広がる。
花々が風に揺れ、光が舞い、ふたりの笑顔が重なる。
“たとえ世界が変わっても、魂はまた出会う”
“何度でも、君を見つける”
アレクシスの声が、遠い記憶の底からやさしく響く。
そして、それに応えるように、真白も微笑んだ。
――“また会おう”
拍手の音が再び会場を満たす。
真白はステージの端に立ち、スポットライトの下で小さく頭を下げた。
その背後のスクリーンには、ゲームのラストシーン――
白い庭で、ふたりが手を取り合い、微笑み合う姿が映し出されていた。
会場中が息を呑む。
まるで現実と物語の境界が、いま完全に融け合ったかのようだった。
光がゆっくりと、真白の肩に降り注ぐ。
その温もりは、まるで“誰か”の手のようにやさしい。
そして、誰にも聞こえないほどの小さな声で、真白は呟いた。
「君に、会えてよかった」
風が吹き抜けた。
花弁のような紙吹雪が舞い、スポットライトの中できらめく。
その一片が頬に触れた瞬間、真白は確かに感じた。
――もう一人ではない。
物語は終わった。
けれど、終わりは始まりでもある。
アレクシスの名が刻まれた物語が、いま多くの人の心に届いていく。
それは、魂の再生。
そして、“約束の果たされた瞬間”だった。
真白は、光の中でそっと微笑んだ。
観客のざわめきの向こう、消えゆく光の中で――
確かに、あの声が聞こえた気がした。
“――真白、ありがとう”
白い光が、会場全体を包み込む。
そして物語は、静かに幕を閉じた。
だが、その終わりの奥で。
ふたりの魂は、再び巡り始めていた。
光の下で。
永遠の約束のままに。