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それから半年が経ち、クリスマスイブがやってきた。


先週、栞が直也とオンラインで話した際、帰国予定は一月の下旬くらいになりそうだと言っていた。

もうすぐ会える……そう思うと、栞は胸が熱くなる。あと少しの辛抱だ。


その日、栞はロサンゼルス発成田行きの便に乗っていた。

直也の大学が空港に近ければ、会いに行けたかもしれないが、交通の便が悪い場所にあるため、会いに行くことができなかった。

直也は留学中、二度日本に帰国したが、最後に会ったのはもう半年以上も前のことだ。

だから、栞は直也に会いたい気持ちが募っていた。


搭乗手続きが始まり、乗客たちが次々と機内に入ってきた。

栞は先輩クルーと共に笑顔で迎え、慣れた手つきでテキパキと動いていた。

国際線の業務にもすっかり慣れた栞は、効率よくフライトの準備を進めていく。

離陸後、飛行機が安定飛行に入ると、栞は今日担当するビジネスクラスの食事の準備に取り掛かった。


作業を進めていると、突然誰かが栞の肩を軽く叩いた。

振り返ると、先輩クルーの山根(やまね)が立っていた。


「鈴木さん、悪いんだけど、エコノミーと交代してくれない?」

「え? 構いませんが、何かあったのですか?」

「ううん、大したことじゃないんだけど、私がこっちに移らせてもらうわ」

「わかりました」


栞は何か事情があるのだろうと察し、その場を山根に引き継いでエコノミーへ向かった。

エコノミーの担当には、同期の森田(もりた)がいた。

森田は栞の姿を見て、驚いた様子で尋ねた。


「どうしてこっちに?」

「山根先輩に代わってって言われたの」

「えっ? そうなの? なんでだろうね?」

「うん、よく分からないけど、何か理由があるのかも」


栞はそう答えながら、エコノミークラスでの食事準備に取り掛かった。

そして、先輩クルーの合図を受けると、端の席から食事の提供を始める。


エコノミーの座席は、日本人が半分以上を占め、残りは日本へ旅行に行くアメリカ人の姿が目立っていた。

栞は優しい笑みを浮かべ、順調にサービスを進めていった。

そして、最後の列に到達した瞬間、栞は言葉を失った。

なぜなら、そこには直也が座っていたからだ。


「えっ、どうして……?」


栞は震える声で尋ねた。


「少しでも早く帰りたいって大学に頼んだら、帰国を早めてもらえたんだ」


直也は微笑みながら答える。

その瞬間、栞はハッとし気付いた。


「あっ! だから、この前、私の搭乗シフトを聞いたのね!」

「そういうこと! でも急だったから、エコノミーしか取れなかったよ」


直也はハハッと笑いながら続けた。


「でも、栞の働いている姿を見られて良かったよ。CAが板についてきたね。すごく頑張ってるじゃないか!」


直也に褒められた途端、栞の瞳がみるみる潤んできた。


(ダメよ栞! 仕事中なんだから、泣いたらダメ!)


栞は必死に自分に言い聞かせたが、それでも涙が溢れ、視界が滲んでしまった。


その時、直也が突然立ち上がり、通路に出てきた。

彼は片膝を床について跪くと、ポケットから何かを取り出して栞の前に差し出した。

直也が手にしていたのは、黒いベルベッドのリングケースだった。

彼はそれを開けると、真剣な表情でこう言った。



「Will you marry me?」



リングケースの中に美しいダイヤのリングが輝いているのを見て、栞は驚きのあまり言葉を失い、両手を口に当てたまま動けなくなってしまった。


周囲にいた乗客たちは二人の様子に気づき、固唾を飲んで見守っている。

周りの視線を痛いほど感じながら、栞は固まったまま直也を見つめていた。

その時、直也はもう一度優しい声で言った。


「栞……返事は?」

「イッ、イエスッ!」


その瞬間、機内に歓声が沸き上がった。盛大な拍手や声援、ピューピューという指笛が鳴り響き、乗客たちから祝福の喝采が贈られる。

通路の向こう側では、同僚たちが笑顔で拍手をしていた。先ほど「担当を代わって」と言った先輩の山根も、微笑みながら拍手をしている。

そこで初めて、栞は急に担当が変更になった理由を悟った。


直也は栞からイエスの返事をもらい、ホッとした様子で立ち上がると、栞の左手薬指にエンゲージリングをはめた。

サイズはピッタリだった。

直也は満足そうに頷くと、栞をギュッと抱き締める。

その瞬間、栞は懐かしい直也の匂いを全身で感じた。

ずっと逢いたかった人、ずっと触れたかった人が、今、目の前にいる。

その感動に酔いしれながら、栞は直也の背中に両手を回し、力いっぱい抱き締めた。


(もう離れない、もう離さない……)


二人が固く抱き合う中、周囲では祝福の拍手がいつまでも鳴り響いていた。

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