テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「廉。俺も、お前にこんな頼み事をするのは、筋違いだという事も重々承知している。だが、お前しかいないんだ。頼む……!!」
スマートフォンを通して、重苦しい雰囲気に包まれていくのを感じながらも、拓人は祈る気持ちで廉を説得した。
『…………分かった。胸に留めておく』
しばしの沈黙の後、廉が落ち着いた口調で返事をくれた。
「…………本当に…………すまない……」
彼は、謝罪の言葉とともに、廉に頭を下げる代わりに、瞳を数秒ほど閉じた。
『彼女は…………元気なのか? 一緒にいるんだろ?』
「ああ。元気だ」
『…………そうか。帰り、気を付けろよ』
スマートフォンの向こう側で、友人が、フッと笑みを零したように聞こえたのは、拓人の思い過ごしなのか。
「ああ。じゃあ……な。…………また……連絡するよ」
通話終了のアイコンをタップすると、拓人は大仕事をしたかのように、ハァッとため息をしながら前髪を掻き上げる。
ヘッドレストにスマートフォンを雑に置き、優子の寝顔を見やった。
「寝顔……意外と可愛いじゃん……」
拓人はガウンを脱ぎ捨て、ベッドに滑り込むと、柔らかな肢体を抱き寄せながら、眠りに堕ちていった。
翌朝、ホテルの部屋に差し込む、柔らかな陽光で目覚めた拓人。
身体を起こすと、優子が身じろぎさせながら、ゆっくりと瞳を開いていく。
「…………おはよう。起きたか?」
「おっ……おはよう。っていうか、アンタと朝に挨拶するなんて、初めてじゃない?」
「ああ…………そうだったな……」
女の背中を支えながら抱き起こすと、拓人は、そのまま抱き寄せる。
互いに一糸纏わぬ姿で眠ったせいか、優子の素肌が触れ合い、彼は、体温に心地良さを感じた。
「さて、関西もある程度回ったし、今日はどこに行きたい?」
拓人が、床に堕ちている服や下着を拾い上げると、女は、寝起きのせいなのか、ボーッとした面差しで、デュべの上に投げ散らかったままの目隠しとロープを凝視していた。
「私……」
前髪を気だるそうに掻き上げる女の姿が、部屋に差し込む柔らかな光に反射し、その姿が綺麗だ、と彼は思う。
「そろそろ…………東京に帰りたい」
優子の意外な言葉に、彼は一瞬瞠目させたが、手を伸ばして女の頭を、そっと撫でた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!