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イヴィ

これでいいのか?

破壊された金庫から紙の束を出して、イヴィが言った。

リエル

魔術が施されていると思ってましたが

リエル

ディアベルの攻撃で壊れるとは……

イヴィ

あれも例外だろ

ロック

凄かったぜ!!

ディアベル

やけに見張りも少ねェな

ディアベル

こっちまで来るのにも2人しかいなかった

ディアベル

なァ、クランツさん─────

ディアベルの声につられてイヴィ達も振り返る。

……そこに、クランツはいない。

イヴィ

なっ

ロック

クランツさーん!!!!?

地下を調べたが、いるようには思えない。

ロック

く、靴音もしなかったぞ…

リエル

これは……

──そうよ、どっか行っちゃったの、彼

リエル

え…!

イヴィ

お前は……

「お前」じゃないわ

私には、あの方がつけてくださった名前があるのよ

イヴィ

(黒髪、ヴェナフルールの民族衣装…)

イヴィ

まさか────

レーツェル

レーツェル

レーツェル

それが私の名前

クランツ

───レーツェルに遭遇したら逃げろ

クランツ

黒髪に、ヴェナフルールの民族衣装を着た女だ

ロック

レー…ツェル…

イヴィ

(…指示通り動くなら)

イヴィはロック達と目を合わせる。

考えていることは同じだった。

前置きもなく、一斉に出口へ駆け出していく。

レーツェル

そう、残念ね

レーツェル

「エンダー」

レーツェルが聞いたこともない言葉を口に出すと、

イヴィ

……??

視界が、ぼやけて歪んだ。

目眩を起こしたように暗転し─────

全員が、出口から離れたところにいたのだった。

イヴィ

!!

ロック

ワープしたぞ!?

ディアベル

位置がえかァ?

レーツェルも出口の前に移動したようだ。

レーツェル

正解、使い勝手の悪い魔術よ

リエル

…どうして、そんな魔術を

レーツェル

エンダーは、私が開発したのよ

レーツェル

急いでつくったから、細部まではこだわれなかったの

イヴィ

アレンジか…

レーツェル

そうよ

イヴィ

…そんな情報を与えてもいいのか?

イヴィ

不利でしかないだろ

レーツェル

私、お話するのが好きなの

そういうと、上品に微笑む。

レーツェル

でも、あなた達を返すわけにはいかない

レーツェル

その計画書、返してもらうわね

イヴィ

……なら

イヴィ

俺達もお前を潰すだけだ

レーツェル

もう、お前って呼ばれるのは今までで十分なの

レーツェル

その反抗的な態度、いつまで続くかしらね

カリゴ

レーツェル大丈夫かなー?

カリゴ

癪だけど、アイツら強いっちゃ強いし

カリゴ

一対四はキツイんじゃない?

エクレール

彼女なら、安心して任せられる

エクレール

…お前と違ってな

エクレールが冷ややかな目を向けたのは、

拘束されたクランツであった。

クランツ

舐められたものだな……

クランツ

(飛ばされたな、レーツェルの魔術か)

クランツ

(十中八九、ここは本拠点だろう)

クランツ

(視界が暗い、目隠しか…)

手も動かすことができない。

パシッ

カリゴはそのような状態のクランツを軽く叩く。

クランツ

……この拘束なんぞ、俺はいつでも抜け出せる

カリゴ

仮にそうしたら殺すだけだよ!

カリゴ

時間停止の魔術は、対象を認識してないと発動できないらしいね!

カリゴ

それが分かってるから、おじさん逃げないんでしょ??

クランツ

言葉遣いを改めたらどうだ?

カリゴ

なに?説教?

クランツ

あぁ、そうか

クランツ

頭も心も小さいから

クランツ

こんなことも意識できないんだな

クランツ

可哀想に

カリゴ

────は ぁ ? !

クランツ

いい機会だ、教えてやろう

クランツ

小物ほど、挑発に弱いものだ

カリゴ

殺 す !!!!!

鬼の形相でクランツに手を向けるが──

エクレール

よせ─────

オーダー

何の騒ぎだ

カリゴ

あ……

エクレール

…オーダー様

カリゴ

ごっ、ごめんなさい!

オーダー

……客人の目の前だ

カリゴ

気をつけます…

クランツ

(出たな、オーダー)

クランツ

(魔術結社の社長)

クランツ

(大革命を企てる者……)

オーダー

さて

オーダー

手短に行こうか、こちらも時間が無いのでね

オーダー

手短に行かせてもらう

クランツ

……

オーダー

何処から計画書の情報を得た

クランツ

拠点突入前

クランツ

私で、いいのですか

ファーブラ

うん

ファーブラ

君に任せたいな、これは

クランツ

…何故、分かったのですか?

クランツ

計画書なんて、機密情報でしょう

ファーブラ

……

クランツ

しかも、警備が手薄すぎます

クランツ

罠かもしれません

ファーブラ

大丈夫

クランツ

何を、そんなに…

ファーブラ

……私はね

ファーブラ

元、魔術結社の幹部だったんだ

クランツ

……え

クランツ

なっ!

思わず大きな声を出してしまう。

ファーブラ

……

クランツ

すみません、大きな声を……

ファーブラ

今、私達の会話は外には聞こえないから

ファーブラ

普通に話して大丈夫だよ

クランツ

以前から感じていた。

団長は、優しい声をしている。

目が見えないのに、こちらを見て話してくれる。

だが、ふとした瞬間に現れる、

あの、冷徹さ。

それは魔術結社由来のものだったのか。

魔術結社の社員は皆、洗脳されていると聞いた。

簡単に解けるものではないはずだ。

どうやって解いたんだ?

クランツは、ファーブラの顔を見る。

生々しく、痛々しい傷跡が嫌に目に入る。

クランツ

…逃げてきたのですか

ファーブラ

ファーブラ

うん

そう小さく返事をする。

そしてどこか寂しげに微笑んでいた。

ファーブラ

でも、今はそんなこと、どうでもいいんだ

ファーブラ

私達には時間がない

クランツ

…何故ですか

ファーブラ

…大革命が、起こってしまうんだ

それまで言おうと迷っていたのか、何かを決心したような声で言った。

クランツ

大革命…?

何を言っているんだと、一番に思った。

確かに、今の王政は横暴で、乱雑である。

だが、大革命というと、どこか歴史的な言葉に感じてしまうのだ。

クランツ

それは……

クランツ

公表でもしたら、大混乱になるでしょう!?

ファーブラ

そう、だね

心做しか、呼吸が荒く見える。

ファーブラ

…魔術結社のボスは、「オーダー」という男……

ファーブラ

大革命、それが彼の野望だ

ファーブラ

私達は、それを未然に防がなければいけないんだよ

クランツ

そんなことが…

有り得るのだろうか。

だが、それを嘘だとは言えなかった。

そのようなことよりも。

連続して俺の脳に入ってきた真実に、

心が、追いつかなかった。

クランツ

…教えない

この嘘はバレてもいい。

エクレール

そうか、いい度胸だな

オーダー

大方

オーダー

そちらにいるんだろう

オーダー

ファーブラ・トロイマー

オーダー

我が組織の裏切り者が

言葉の割には、声に怒りは混じっていない。

寧ろ余裕すら感じる。

オーダー

エクレール

エクレール

はい

オーダー

ファーブラとの会話内容は覚えているか?

エクレール

すみません、き──

クランツ

「記憶を操作した」

エクレール

む……

クランツ

そうらしいな?

オーダー

そうか、残念だ

少し、間が空く。

オーダー

…大革命

オーダー

それが、俺の目的だ

クランツ

(…これは知っている情報だ)

クランツ

(だが、何故今ここで自白を?)

オーダー

組員達は

オーダー

皆、生まれながらにして魔術を持ってしまったばかりに

オーダー

迫害を受けてきた者たちだ

オーダー

君もそうだろう?

クランツ

……

クランツ

(手の内はバレている、か…)

当たり前だ。

先程あれだけ大胆に行動したのだから。

クランツ

同情は結構だ

オーダー

まさか、俺がするわけないだろ

鼻で笑い、クランツを見下している。

クランツ

迫害されてきた者を集めて

クランツ

いいようにこき使ってるのか?

オーダー

そんなことはしないさ

オーダー

でも、皆は今の世界に不満を抱いているのは間違いない

オーダー

「いつか常識をひっくり返してやりたい」と

オーダー

その機会を今か今かと待ち侘びているんだ

クランツ

…で、その機会を与えるという名目で

クランツ

くだらない洗脳をかけて、私利私欲のために使うんだな

オーダー

……

オーダー

口減らずだな

声が少し低くなったように感じた。

だが、クランツはその凍てついた雰囲気に動じもしない。

カリゴ

まっさかあ!

クランツ

うっ

先程まで黙っていたカリゴに、髪を乱暴に掴まれる。

カリゴ

打つ手がなくなって、そんなことしか言えないの?

クランツ

……

カリゴ

あっはははは!!!!!

カリゴ

あんまり抵抗するようなら───

オーダーとエクレールが、

やや呆れ顔で後方に下がったのが目に見えた。

その瞬間───

クランツ

(………?)

辺りに霧が立ち込める。

カリゴ

あ、今目が見えないんだっけ?

カリゴ

丁度いいから、僕の血鎌の砥石になっちゃえ!

クランツ

(これは、カリゴの魔術か!?)

クランツ

(ならば、何度斬られようが)

クランツ

(突撃するのみ───)

ピリッ

クランツ

静電気と、似たような感覚。

そして、首に手が当てられる。

クランツ

っ!!!?

エクレール

悪いな

バリバリッ

一方、地下室。

全員で攻めにかかるが、

未だ、レーツェルにはかすり傷すらつけられていない。

イヴィ

チッ

イヴィ

慣れねぇな…

ロック

頭がこんがらがってきたぞ!

ディアベル

位置もランダムだしなァ

イヴィ

(…だがアイツも武闘派じゃない)

イヴィ

(埒が明かねぇのは同じ……)

レーツェル

「エンダー」

ロック

まただ!

ロック

構えるぞ!

何度喰らったか分からない魔術がまた、襲いかかる。

イヴィも構えたが────

イヴィ

その入れ替え先の目の前には、レーツェルがいた。

攻撃は簡単に当たるだろう。

イヴィ

(今しかない!)

ナイフで彼女の腕を狙う──────

イヴィ

────は?

ロック

えっ?

リエル

いっ……!?

ディアベル

…!

刹那、イヴィ、ロック、リエル、ディアベルから鮮血が舞う。

我に返って見れば、

イヴィがレーツェルに向かって振りかぶったそのナイフは、

ディアベルの腹部を斬りつけていた。

同様に、ロックはイヴィに蹴りを入れ、

リエルはロックの背中を槍で突き、

ディアベルはその巨大な斧で、

リエルの腕を切断しかけていた。

イヴィ

っは!

イヴィ

ガハッ

イヴィは勢いで後方へ吹き飛ぶ。

ロック

い゛っ…

リエル

そ、そんな……

ロック

う……でも、大丈夫だぜ!

ロック

プロテクター、入れてるからな!

…そのおかげで大事には至らなかったものの、

イヴィ達は突然の出来事に頭が追いつかなかった。

ディアベル

っぶねェ……

珍しく、ディアベルの頬を冷や汗が伝う。

寸前のところで止めたが、それでもリエルの腕には血が滲んでいる。

リエル

…心配しないでください

リエル

私には、再生能力があるので……

そして、イヴィの方に目を向ける。

リエル

吹き飛んだのは、イヴィですよね?

ロック

…ごめん……

イヴィ

いや…

イヴィ

…お前の仕業だろ?

レーツェル

……ふふふ

レーツェル

私がそこまで単純だと思って?

イヴィ

ワープ=入れ替え

イヴィ

その認識が間違ってたってことか?

レーツェル

あら、やるわね

レーツェル

そうよ

レーツェル

いつから入れ替えだと勘違いしていたの?

レーツェル

私の魔術はワープ

レーツェル

対象は身体だけじゃないわ

レーツェル

その五感や意思も、ワープの対象よ

ロック

ならさっき、近くにいたのは……

イヴィ

イヴィ

(俺と似てる視点だったのか)

レーツェル

あれは視覚をワープさせたの

レーツェル

今まで散々焦らしてきたんだから

レーツェル

チャンスには敏感になっているはずでしょう?

レーツェル

違和感だって考える隙がないくらいにね

ロック

な、何でもありだな!?

レーツェル

だけど、凄いわ

レーツェル

ほとんどの方がこれで全滅してしまうのよ

レーツェル

しかも寸前気づいて止めるだなんて…

そう言い、ディアベルを見る。

ディアベルは、ただ呆然と、斧についた血を見ていた。

その目は大きく見開かれている。

レーツェル

魔術結社はね、人の秘密を調べるのが得意なの

レーツェル

あなたは、自分の手でお友達を傷つけることを酷く怖がるそうね?

ディアベル

……

ロック

えええええ???!

リエル

…何が言いたいんです

レーツェル

あら、ご存知ないの?

レーツェル

彼はね、人狼の血を引いているのよ

イヴィ

人、狼…?

思わず、復唱してしまった。

この世界には様々な種族がいる。

エルフ、魚人、獣人……各々住んでいる地域も異なる。

人狼は、「ヴァルク帝国」の民族だ。

ほとんどが狼の見た目だが、偶に人型の人狼も生まれるらしい。

アイツの祖先が人狼なのか?

イヴィ

…それとこれとに、何の関係があるんだ?

レーツェル

あら、習わなかったの?

リエル

…まさか

ロック

っイヴィ!後ろだ!!!

イヴィ

後───

イヴィ

ぐあ゛っ…

それは一瞬の出来事で、

俺は、また後方に飛ばされていた。

手を動かすと、ハラハラと石壁が崩れ落ちる。

…壁に、めり込んでいるようだ。

イヴィ

(な、にが……)

イヴィ

───!!

イヴィ

ロック、右へ避けろ!!!

バキッ

ロック

うおっ!!!?

まるで木の枝を折るように、石柱が粉々に砕け散った。

煙と暗闇の中で、揺らぐ影がある。

イヴィ

お前────

イヴィ

ディアベル……か…?

ディアベル

グルルルル……

そこには、ディアベルが立っていた。

だが、それはいつも見ていた、生意気な顔ではない。

髪色と同じ金色の毛並みや鋭く尖った黒く光る爪は、

完全な獣ではないものの、まさに「人狼」と呼ぶのには十分だった。

レーツェル

…私の目的は、あなた達を地下に誘導して

レーツェル

ディアベルを暴れさせること

レーツェル

そしてここで誰かを負傷させることよ

レーツェル

ご機嫌よう

レーツェル

生きていたら、会いましょう

リエル

待っ────

バキッ

ロック

リエル!!!

リエル

……ご心配なく…

リエル

それより……

辺りを見渡すが、もうレーツェルはいない。

イヴィ

(…ここは狭すぎだ)

イヴィ

(敢えて警備を薄くしたのも、違うことに注意を向けるためか?)

イヴィ

(ここで足止めを食らってる場合じゃねぇ…)

イヴィ

(あのおっさんは無事なのか???)

リエル

ディアベル!!

リエル

落ち着いて!!!頼みますから!

イヴィ

(もっと広い所へ……いや、駄目だ)

イヴィ

(被害が広がる…!)

イヴィ

この中で、やるしかないのか…

その時、イヴィの顔を風が通り過ぎた。

と思っていたら、鋭い爪に唖然とした表情が写る。

イヴィ

あ───

(避け─────)

ロック

イヴィ!!!!

間一髪で、ロックがイヴィを突き飛ばす。

ビッ……

冷たい風は、頬をほんの少しだけ掠める。

その冷たさが、じんじんと疼く熱さに変わる。

生暖かい液体が、顎から垂れた。

イヴィ

(掠っただけでこれかよ…!?)

イヴィ

…すまねぇ、大丈夫か

ロック

俺は平気だぜ!

イヴィ

(お前も、何であの速さを見切れるんだよ…)

ディアベル

ガアアッ

ロック

っと……!?

ロック

ディアベル!どうしたんだよ!?

ディアベルは攻撃を続けている。

その眼には、理性など宿っていなかった。

ロック

リエル!

リエル

は、はい?

ロック

リエルは、俺達よりディアベルといた時間が長いだろ!?

ロック

人狼化の条件は分からないか!?

その猛攻を各自躱しながら、精一杯彼を傷つけないようにいなしている。

リエル

条件……

リエル

あっ

リエル

心当たりが、一つ!

リエル

皆さん、私の後ろへ!

イヴィ

は?大丈夫なのか?

ロック

何か策があるんだな!?

リエル

ええ、早く!

隙を見つけ、イヴィ、ロックが彼女の後方に回った。

当然の如く、ディアベルはリエルを空色の眼で捉え─────

鋭い爪を、振り下ろした。

…その頃。

一人の女が寂れた街並みを、ヒールの高い靴で歩いていた。

レーツェル

(あちらは、もう済んだかしら)

レーツェル

(可哀想だけれど、私達は公平さを持ち合わせていない)

レーツェル

(利用できるものは、何でも利用するの)

かつて、利用されたように。

ヴェナフルール王国。

薔薇が咲きほこる、気高く美しい国。

母は、私の鼓膜が腐り落ちるほどそう語っていた。

ヴェナフルール王室の人々は皆、それは綺麗な赤い髪であるらしい。

そのせいか、あの日天蓋ベッドで産まれた、

くすんで、炭のような黒髪の私は、

「隠し子」としてその記録が抹消された。

何処に行っても目立つ、ボサボサの髪。

幼い頃にいれられた、「下人」の刺青は、

今も呪いとして、私を蝕んでいる。

レーツェル

(……余計なこと、考えちゃった)

レーツェル

(…早く、戻りましょうか)

レーツェル

(あの計画は、何としてでも成功しなければならないもの)

荒んだ家々に背を向けた所だった。

───聞いていた話と違うな

レーツェル

っ!!!?

目を見開き、声の主を確認する。

どうやら、心が無いわけではないらしい

レーツェル

な、どう……して…

レーツェル

飛ばしたのよ…?

レーツェル

遙か遠くにある本拠地に…

レーツェル

(カリゴと、エクレール…)

レーツェル

(それに、)

レーツェル

オーダー様の、いる部屋に……!!

クランツ

…あぁ、そういう名前があったのか

クランツ

資料には本名が書かれてあったのだがね

レーツェル

っ……やめなさい

レーツェル

皆、誇りを持って名乗っているのよ…

クランツ

それは失礼

クランツ

それぞれ事情があるんだな

レーツェル

…それより、何どうして………

レーツェル

…あなたの魔術は、視界がないと使えないじゃない

クランツ

俺は死にたくないんでね

クランツ

それは嘘だ

レーツェル

クランツ

俺の魔術は、「時間停止」じゃない

少し前の事。

エクレール

悪いな

バリバリバリバリッ

耳を劈くような雷鳴が轟く。

視界が慣れると、床に平伏していたのは……

エクレールだった。

カリゴ

え……は?

カリゴ

エクレール?

呼び掛けには応答しない。気絶しているようだ。

カリゴ

それより何で、お前!

カリゴ

さっきエクレールの魔術使ったでしょ!?

オーダー

……さてはお前

クランツ

……あぁ、嘘だ

オーダー

小癪な……

クランツ

死にたくないんでね

クランツ

少なくとも、あんな王様の指示で

カリゴ

時間停止は嘘だったってこと?!

カリゴ

教えろよ!

クランツ

さあな

クランツ

ない脳で考えてみろ

クランツ

クソガキが

カリゴ

っテメェガチで!!!!

エクレール

っ駄目だ、カリ────

巨大な血鎌が、クランツ目掛けて襲ってくる。

ドシュッ…

カリゴ

あ…?

その刃は何故か、カリゴに深く突き刺さっていた。

カリゴ

な、ん…で……

オーダー

「ハイレン」

カリゴ

あ…オーダー様……

オーダー

……

カリゴ

ごっ

カリゴ

ごめんなさい……

オーダー

…お前の魔術は

オーダー

「反射」

オーダー

そうだろう?

クランツ

…さあな

クランツ

(……って言っても、じきに暴かれるか)

クランツ

…そうだよ

クランツ

正しくは「レフレクト」

クランツ

俺に、魔術は効かない

クランツ

しかもそっくりそのまま相手に返すオマケ付きさ

エクレール

先程の挑発も、策の一つだったのか?

クランツ

そうだな

クランツ

引っかかりやすくて助かるよ

カリゴ

っ……この…

カリゴ

だって、僕見たよ

カリゴ

潜入前、時間停止使ってたでしょ!

クランツ

お前みたいな、自分本位のお子様は知らないと思うが

カリゴ

はぁ?!

エクレール

よせ

半ば呆れながら、カリゴを静止する。

クランツ

こちらはこちらで、大人のやり方というものがある

クランツ

襲撃者の魔術を予め予測しておいた

エクレール

…そうか

エクレール

ならば、物理で押し切るだけだ

クランツ

(先程、カリゴに叩かれた時か?)

クランツ

(対処法を見つけるのが早いな)

クランツ

ここで戦い続けてもいいが

クランツ

生憎、俺もクソガキ共を残してきてしまってね

オーダー

だが、どう脱出するつもりだ

腕時計に目をやる。

クランツ

…こうやるんだよ

そして───────

その場から、消え去る。

エクレール

なっ!?

カリゴ

…今の、テレポートだよね?

カリゴ

思えば、何でアイツ、レーツェルのテレポートは反射しなかったの?

オーダー

恐らく、魔術は常時発動しているものではないのだろう

エクレール

何でもありだな…

カリゴ

それより、マズイよ!

カリゴ

アイツをいい具合に傷つけて、レーツェルと交代するつもりだったのに!

カリゴ

時間通りにいかなくて、五体満足でいっちゃった!

エクレール

レーツェル

反射……ですって?

レーツェル

…さっきはわざと受けていたのね

クランツ

……そうだ

クランツ

あぁ、そういえば

クランツ

クソガキ共をこちらに残してきてしまったんだが、どうなったんだ

レーツェル

(酷い言われようね)

レーツェル

残念ながら、今は肉塊の山じゃないかしら

クランツ

なっ…

レーツェル

ディアベルという、

レーツェル

人狼の血を引く子がいたでしょう

クランツ

あぁ、だが

クランツ

アイツは人の血を摂取しない限り、暴走はしないはずだが?

レーツェル

私、物質もワープできるのよ

クランツ

……

クランツ

まさか……!

レーツェル

そう、お友達の血を、彼の中に送り込んだわ

レーツェル

お陰で簡単に暴れてくれた

クランツ

そんなことが…有り得るのか?

レーツェル

魔術に出来ないことなんてないの

レーツェル

オーダー様が、教えてくれたのよ

そう言いながら、レーツェルは自分の手に計画書をワープさせる。

クランツ

クランツ

それは!

レーツェル

これは回収していくわね

レーツェル

私達は、ウォルフ軍に致命傷を与えることが出来ればそれでいいのよ

クランツ

待て、逃げるな…!

クランツの魔術は反射。

それは、魔術を受けないと発動できないものだ。

つまり、この状況において、

クランツは、彼女に何もできないのだ。

物理で押し切ることができても、結局は彼女にワープされて終わり。

そして、計画書を入手する命令は、王から出されたもの。

失敗でもすれば、連隊で責任を取らざるを得ない。

レーツェル

言い訳は、いつか地獄で聞いてあげるわ

レーツェル

それじゃあ、ご機嫌よ──────

─────「待ちなァ!!」

刹那、雷鳴の如く轟音が鳴る。

見れば、地面が深くえぐれていた。

彼女の腹部から、鮮血が舞う。

レーツェル

っ!!!!!

レーツェル

な、何───

逃げようだなんて

ヒュッ

レーツェル

っ!!

今度は風のように速い突きが飛んでくる。

リエル

……そうはさせませんよ、魔術結社

レーツェル

ごふっ……

ロック

あ!

ロック

クランツさん!

ロック

よかった!無事だったんすね!

クランツ

お前ら……

イヴィ

ったく

イヴィ

アイツに殺られんのだけは勘弁だ

そして、雷鳴を轟かせた者が口を開く。

ディアベル

何か知らねェけど、気づいたら縄でグルグルよ

レーツェル

!!!?

ディアベル

鉄臭ェし…

ディアベル

お前の仕業だよなァ

レーツェル

っ「エン─────」

ディアベル

同じ手には乗らねぇよ

ガチャッ

レーツェル

手、錠……

クランツ

魔術の使い手界隈では有名なものだ

クランツ

それは魔力を封じる手錠

クランツ

お前らが最も嫌う道具だろう

レーツェル

……はぁ

レーツェル

…分かったわ

両手を上げ、観念したように言う。

レーツェル

好きになさい

イヴィ

(出血が酷い…長くは持たないな)

クランツ

…これは頂いていくよ

その手から、計画書を取り上げる。

ロック

伝書鳩に届けてもらうか?

イヴィ

……それだと、また奪還されるかもしれない

クランツ

団長に報告書でも書いておけ

ロック

あれ、王様じゃなくていいのか?

イヴィ

クランツ

今、一番信頼できるのが団長だ

ロック

な、なるほど

イヴィ

(引っかかるな)

イヴィ

(何故、明らかに罠と分かるタイミングで俺達を送り込んだ?)

イヴィ

(そもそも、魔術結社が場所を漏らしたとは思えない)

ディアベル

イヴィ

イヴィ

ディアベル

イーヴーィー

イヴィ

うあっ!?

ディアベルがイヴィの目の前に迫っていた。

イヴィ

近ぇよ!

ディアベル

癖なもんでェ

イヴィ

(イヌ科……???)

イヴィ

(いや、俺の知る限り狼は懐かねぇよ)

などと、自分で自分にツッコミを入れてしまった。

少しは気が紛れたものの、まだモヤが残っている。

イヴィ

で、何だよ

そういえば、ディアベルの腹を傷つけたことを、まだ謝っていなかった。

イヴィ

イヴィ

…その

ディアベル

お?

イヴィ

腹……すまねぇ…

ディアベル

へ?

イヴィ

はぁ?

思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまった。

まさか、覚えていないのか?

イヴィ

(嘘だろ、いや、コイツのことだから)

イヴィ

(また俺を弄んでいるに違いない…)

イヴィは改めてディアベルの表情を見るが、

本当に覚えていないようだった。

ディアベル

あァ、まじだ、血がついてる

ディアベル

悪ィ悪ィ

ディアベル

その辺曖昧でよォ

ロック

レーツェルの魔術で嵌められて

ロック

同士討ちしかけたんだぜ!

イヴィ

無事だったからこそ適当に言うがな…

リエル

その時に、イヴィがあなたの腹部を切りつけたんですよ

リエル

…どうせ、傷口は塞がっているんでしょ?

ディアベル

あァ、跡もないみたいだ

ディアベル

残念だったなァ、イヴィ

イヴィ

ディアベル

日頃の仕返しができる絶好のチャンスだったのによォ

イヴィ

っテメェ……

クランツ

口が悪い

イヴィ

…お前もさっき「クソガキ」って───

クランツ

魔術の影響だろう

イヴィ

はああ?

レーツェル

……幾ら何でも、幻想の世界にワープさせるなんてことは不可能よ

イヴィ

(訂正されたし…)

レーツェル

そんなことより、手をかけるな早くしてくれないかしら

「…もう痛いのは嫌なのよ」

そうか細く、だがハッキリと言った。

クランツ

クランツ

帰るぞ、丁度迎えも来た

ロック

おう!

イヴィ

……

レーツェルとイヴィの目が合う。

レーツェル

何、かしら…

イヴィ

…お前ら

イヴィ

シュバルツって知ってるよな?

レーツェル

…えぇ、ジェネ・オブリオ王国の…国王よね

レーツェル

この国は頻繁に王…支配者が入れ替わるって

レーツェル

ヴェナフルールでもよく聞いていたわ

イヴィ

支配者か…嫌な響だな

レーツェル

その方が……ど、うかされたの?

イヴィ

あくまで俺の考えなんだが

一呼吸置いて、決心したように言う。

イヴィ

…シュバルツが、お前らと繋がってんじゃないか?

レーツェルとイヴィの空間を、静寂が支配した。

空気中の成分が棘となり、彼らの首元まで迫る。

そのように感じてしまう程の緊迫感だ。

レーツェル

理由を……聞き、ましょうか

イヴィ

まず

イヴィ

明らかに罠だと思った

イヴィ

警備も手薄、魔術もかけられていない金庫

イヴィ

そんな場所に、しかも言ってしまえば、貴重なウォルフを送り込む命令を下したこと

イヴィ

経路はどんなであれ、地頭はいいはずだ

イヴィ

王とも言える人がそんな馬鹿をしでかすとは思えない

イヴィ

…そして、お前の奇襲

イヴィ

その魔術なら、俺達を殺すことだって簡単だ

イヴィ

なのに致命傷を与えただけ

イヴィ

(前、ネーベル街で接敵した時から)

イヴィ

(警戒はされているはずなのに…)

レーツェル

……

レーツェル

私達の目的は

イヴィ

レーツェル

あなた達に致命傷を与え、クランツを戦闘不能にすること

レーツェル

その方が、騎士団…ウォルフ軍への希望や信頼、期待も崩れるから

レーツェル

後もう一つは

レーツェル

「時 間 稼 ぎ」

イヴィ

!!!!!!

この時、直感した。

戻らなければ。

伝えなければ。

命令に、背かなければ。

「未 来 は 無 い」と─

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