テラーノベル
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母が亡くなった日から、
この家は静かになった。
前まで当たり前みたいに聞こえていた 笑い声も、
「おかえり」も、
朝ご飯の匂いも、
全部消えた。
中学2年生の榊知夏は、冷えたリビングで一人マグカップを握る。
時刻は朝六時。
父はもう仕事へ行ったあとだった。
テーブルには置き手紙。
"弁当、冷蔵庫"
それだけ。
昔から父は口数が少ない。
母が亡くなってからは、もっと。
悲しくないわけじゃない。
苦しくないわけじゃない。
でもきっと、
どうやって家族に接したらいいのか 分からないだけ。
知夏は静かに冷蔵庫を開ける。
綺麗に詰められた弁当。
少し焦げた卵焼きに、思わず小さく 笑った。
不器用。
本当に、それしか言葉が出ない。
榊 遥斗 サカキ ハルト
後ろから声が飛ぶ。
振り返ると、
小学4年生の弟、遥斗が眠そうに 立っていた。
髪はボサボサ、
制服のシャツも曲がってる。
榊 知夏 サカキ チナツ
榊 遥斗 サカキ ハルト
榊 知夏 サカキ チナツ
知夏が直してやると、
遥斗は全く気にした様子なく笑った。
榊 遥斗 サカキ ハルト
母が亡くなってからも、
遥斗は変わらなかった。
友達と走り回って、
ゲームをして、
怒られてもすぐ笑って。
最初はそれが少し嫌だった。
なんで平気なの。
なんでそんな普通なの。
私はこんなに苦しいのに。
そう思ってしまった日もある。
でも、ある夜。
知夏がこっそり泣いていると、
廊下の向こうで遥斗の声が聞こえた。
榊 遥斗 サカキ ハルト
震えた声。
押し殺した泣き声。
その瞬間、
知夏は気づいてしまった。
遥斗だって、ちゃんと苦しんでいた。
ただ、泣き方が違うだけだった。
父
ある日の夜。
珍しく父がリビングに座っていた。
疲れた顔。
少し伸びた髪。
父は視線をそらしたまま言う。
父
知夏は一瞬、言葉に詰まる。
"無理してない"なんて嘘だった。
母がいなくなってから、ずっと我慢してきた。
父を困らせないように、
遥斗の前ではちゃんとしていようって。
だから、
「大丈夫」
と言おうとした。
でも、
榊 知夏 サカキ チナツ
気づけば、そんな言葉が零れていた。
父は静かに顔を上げる。
知夏の目から涙が落ちた。
榊 知夏 サカキ チナツ
ずっと言えなかった。
寂しいって。
苦しいって。
誰かに甘えたいって。
父は少し黙って、
それから不器用に知夏の頭を撫でた。
ぎこちなくて、
下手くそで、
全然慣れてない手。
でも、その温もりだけで涙が止まらなく なる。
父
父の声が震えていた。
父
知夏は首を横に振る。
違う。
ちゃんとできてないのは、みんな同じだ。
母を失った穴なんて、簡単に埋まる はずない。
それでも、
苦しみながら、
迷いながら、
この家族はちゃんと"家族"を続けている。
リビングの扉が勢いよく開いた。
榊 遥斗 サカキ ハルト
遥斗だ。
空気を全部壊すみたいな声に、
知夏は思わず吹き出した。
父も小さく笑う。
春はまだ遠い。
でもきっと、
こんなふうに少しずつ
この家にもまた、
温かい時間が戻ってくるのだと思った。
#ご本人様とは一切関係ありません
コメント
2件
春を何かにたとえてる… .ᐣ