テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
341
28
瑞希 流星♟也中
451
#コメディ時々暗闇
奏音•*¨*•.¸¸♬︎💙
1,204
コメント
2件
春を何かにたとえてる… .ᐣ
母が亡くなった日から、
この家は静かになった。
前まで当たり前みたいに聞こえていた 笑い声も、
「おかえり」も、
朝ご飯の匂いも、
全部消えた。
中学2年生の榊知夏は、冷えたリビングで一人マグカップを握る。
時刻は朝六時。
父はもう仕事へ行ったあとだった。
テーブルには置き手紙。
"弁当、冷蔵庫"
それだけ。
昔から父は口数が少ない。
母が亡くなってからは、もっと。
悲しくないわけじゃない。
苦しくないわけじゃない。
でもきっと、
どうやって家族に接したらいいのか 分からないだけ。
知夏は静かに冷蔵庫を開ける。
綺麗に詰められた弁当。
少し焦げた卵焼きに、思わず小さく 笑った。
不器用。
本当に、それしか言葉が出ない。
榊 遥斗 サカキ ハルト
後ろから声が飛ぶ。
振り返ると、
小学4年生の弟、遥斗が眠そうに 立っていた。
髪はボサボサ、
制服のシャツも曲がってる。
榊 知夏 サカキ チナツ
榊 遥斗 サカキ ハルト
榊 知夏 サカキ チナツ
知夏が直してやると、
遥斗は全く気にした様子なく笑った。
榊 遥斗 サカキ ハルト
母が亡くなってからも、
遥斗は変わらなかった。
友達と走り回って、
ゲームをして、
怒られてもすぐ笑って。
最初はそれが少し嫌だった。
なんで平気なの。
なんでそんな普通なの。
私はこんなに苦しいのに。
そう思ってしまった日もある。
でも、ある夜。
知夏がこっそり泣いていると、
廊下の向こうで遥斗の声が聞こえた。
榊 遥斗 サカキ ハルト
震えた声。
押し殺した泣き声。
その瞬間、
知夏は気づいてしまった。
遥斗だって、ちゃんと苦しんでいた。
ただ、泣き方が違うだけだった。
父
ある日の夜。
珍しく父がリビングに座っていた。
疲れた顔。
少し伸びた髪。
父は視線をそらしたまま言う。
父
知夏は一瞬、言葉に詰まる。
"無理してない"なんて嘘だった。
母がいなくなってから、ずっと我慢してきた。
父を困らせないように、
遥斗の前ではちゃんとしていようって。
だから、
「大丈夫」
と言おうとした。
でも、
榊 知夏 サカキ チナツ
気づけば、そんな言葉が零れていた。
父は静かに顔を上げる。
知夏の目から涙が落ちた。
榊 知夏 サカキ チナツ
ずっと言えなかった。
寂しいって。
苦しいって。
誰かに甘えたいって。
父は少し黙って、
それから不器用に知夏の頭を撫でた。
ぎこちなくて、
下手くそで、
全然慣れてない手。
でも、その温もりだけで涙が止まらなく なる。
父
父の声が震えていた。
父
知夏は首を横に振る。
違う。
ちゃんとできてないのは、みんな同じだ。
母を失った穴なんて、簡単に埋まる はずない。
それでも、
苦しみながら、
迷いながら、
この家族はちゃんと"家族"を続けている。
リビングの扉が勢いよく開いた。
榊 遥斗 サカキ ハルト
遥斗だ。
空気を全部壊すみたいな声に、
知夏は思わず吹き出した。
父も小さく笑う。
春はまだ遠い。
でもきっと、
こんなふうに少しずつ
この家にもまた、
温かい時間が戻ってくるのだと思った。