出会いは去年の春
看護師さん
看護師さん
アメリカの大学病院では珍しい日本人の看護師さんが新しい患者さんを連れてきた
ふんわりとしたきれいな長い黒髪に切れ目に白い肌
そしてすらっとしたきれいな女の子
名前は藤岡春乃ちゃん
彼女は車いすに乗ってやってきた
あたしは生まれつき心臓が悪い
生まれてから入退院を繰り返して
移植しなければ助からない
という事実をつきつけられ、7歳で渡米してここにいる
体の調子がいいときは病院内の学校に行き、勉強にはぐくんできた
周りは小さい子が多くて友達がいなかった
それに友達を作ってもみんなすぐにいなくなってしまう
そんな現実が嫌でここにいるのが長くなればなるほど、人とかかわったり未来に希望を持たなくなっていた
そんな時に、春乃はやってきた
同世代の子が転院してくることはたまにあったけど、話すことはあまりなかった
仲良くなっても先に逝ってしまうから
ここにきて、最初はお母さんが言っていたみたいに早く治して日本に帰ろうと思っていたけど
そんなのすぐに消え去り人生をあきらめていたのに
どういうわけか私だけずっと体調がよくいつの間にか16歳になっていた
いまさら友達の作り方なんてわからない
だから、同じ部屋に同世代の子が来たことも気に留めず、いつものように好きな曲を聴きながら外を眺めていた
春乃
だけど、そんなあたしに彼女は話しかけた
お母さんやそのお友達のみんな意外のと話す久しぶりの日本語
それだけでうれしかった
あゆみ
春乃
春乃
春乃
ふーん、と思いそこで会話はそこで終わると思ったけど
春乃
人懐っこそうな笑顔を浮かべて彼女はまた、あたしに話を振った
あゆみ
春乃
春乃
悲しそうにうつむく彼女にこの子もか…と思ってしまう自分が嫌になる
春乃
あゆみ
あゆみ
あゆみ
あゆみ
春乃
それにしてもこんな風に会話したのはいつだろう
お母さんとお父さんはあたしの入院費のためにも日本に戻りお母さんは高校の先生として、仕事復帰してお父さんはもともと日本に残っていて月に一度の出張で
アメリカに来るときに週末を利用して会いに来てくれてた
そんなあたしが寂しくならないようにと高校の子機のお母さんたちのお友達もきてくれ
そんなことも春乃に話した
なんでかは自分でもわからなかった
だけど、春乃にはすんなりと自分の事を話せたんだ
春乃と話してわかったことは、日本で住んでいたところが近いらしく
奇跡的に同じ市内だったこと
中学になってすぐ付き合いだした彼氏がいること
彼氏の名前が雄太ということ
そして彼氏や友達にも病気の事は何も言わずに日本を離れたこと
春乃には彼氏や友達がいたから、日本から離れるのがつらかったんだろうななんて同情してしまう
春乃
あゆみ
突然の春乃の発言に驚きを隠せない
春乃
春乃
春乃
あゆみ
あたしは何も言えなかった。そのつらさはわかるから
半端なことを言われてもこまるって知ってたから
それからというもの
あたしと春乃はお互いの事をたくさん話した
あたしにとって初めての友達だった
初めて友達と呼べることができたのだ
あんなに生きることをあきらめていたあたしが、初めて
‘‘生きたい‘‘と思うようになっていた
ずっとこの子と一緒に…
…だけど現実は甘くなくて
あたしの思うとは反対に春乃の体調は悪くなる一方で
春乃は個室となってしまった
それからは春乃とあたしの調子がいいときに、春乃の病室まで足を運んで
時間が許す限り、たくさんの事を話した
面会がダメな日は手紙も書いた
どんな時も明るく前向きで、あたしとは正反対な春乃が大好きだった
だから二人で退院して…それができないならまた同じ病室で笑い合えるように
そんなことを願いながら、毎日神様に祈った
そんな時、転機が訪れたんだ
ドナーが見つかった
ドナーは春乃ではなくあたしへ使われることになった
あたしはここまで元気に過ごしてこれたのだから
あたしよりも春乃の体に使った方がいいんじゃないの?
なんて思ってもあたしのはつげんでどうにかなる問題でもない
ただ、移植しようか迷った
今までも何回か移植のチャンスはあった
ただ、正常に動かなかったら…
拒絶反応を出しながら…
手術への恐怖心。 移植への恐怖心があって
いつまでも決断できずにいたの
こんなあたしを励ましてくれたのは、誰でもなく春乃だった
春乃とはずいぶん会えていない
手紙のやり取りが増えていた
‘‘あゆみなら大丈夫。‘‘ あゆみの人生、まだまだこれからだよ
助かる道が他にないなら迷うことなんてない。 未来は自分で手に入れるんだよ。
何度も何度も励まされた
そこには春乃の強い
‘‘いきて‘‘
というメッセージが込められていた
両親もドナーに喜んでいたのもあり、あたしは移植することになった
そのことをすぐに手紙で春乃に報告
‘‘あゆみ、がんばって。生きて‘‘
返事の手紙はそれだけしか書いてなかった
その時、あたしは改めて
春乃の体調は刻々と悪くなってきていると思った
あたしはそれから移植手術を行った
術後は痛みやだるさ、発熱などはあったものの
拒否反応などはなく、第一関門を突破した
それからも春乃との手紙は続くものの
お互いの体の事もあって短文になることが続いた
術後三か月ほどたち、あたしのリハビリも進み
あたしは久しぶりに長い長い今までの近況報告を書いた手紙を出した
だけど
春乃からの返事はなかった…
コメント
2件
初見です! 素晴らしかったです......!✨ なんだろ...もう、感動しました ありがとうございました!笑