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37 - カラダの関係、お許し下さい![綾乃の実家編]Pt.2

♥

28

2021年08月12日

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綾乃

お、お父さんっ…!

おっ……おとう…さま…!!(←顔面蒼白)

綾乃の父

……お前たち、一体何をしている?

綾乃の母

あ、あなたっ…これは違うのっ!

綾乃の母

…そうっ!イケメンとおいしいご飯を賭けた親子の戦いなのよっ…!

綾乃の父

…なにぃ?イケメン…だと?

あ……っ(笑)

綾乃の父がチラリと葵に目をやると、葵は目を泳がせた

綾乃の父

……ふん

綾乃の父

話には聞いていたが、キミがうちの綾乃とねぇ…

は、はい……(; ̄ェ ̄)

綾乃の父

………

綾乃の父

…チッ、まったく!今ドキの若モンはチャラチャラしおって…

(まったく予想通りのお言葉、ありがとうございます…)

あ、あの!

初めまして、綾乃さんとお付き合いさせていただいております、桐矢葵と申します!(ペコリ)

先ほどはお見苦しい所をお見せしてしまい、大変失礼致しました!

綾乃

(よっしゃ!頑張れ葵っ…!♡)

綾乃の父

桐矢葵…ねぇ…

綾乃の父

……ふんっ

綾乃の父

…顔だけじゃなくて名前まで男か女かわかったもんじゃないっ…ブツブツ…

ピクッ

綾乃

…ちょっと!お父さん?!

綾乃

いくら何でもそんな言い方ないでしょ?!

綾乃の父

いいか綾乃っ!男ってもんはなぁ、外で汗水垂らして仕事して日焼けで真っ黒になってこそ一人前の漢(おとこ)だ!!

綾乃の父

それに比べてなんだぁ?この男の肌の白さといい、色気だけを追求したような顔といいっ…!

ピクピクッ

綾乃

時代錯誤もいいとこよ!!

綾乃

彼のこと見た目だけで勝手に判断するなんてっ!私が許さないんだか───

いえいえそんな、お父様のおっしゃる通りでございます!

綾乃

葵っ…!

そんな男らしさのカガミのようなお父様にぜひとも嗜んでいただきたく、ほんの手土産をお持ちした次第です

綾乃の父

…手土産?

紙のボトル袋から一升瓶を取り出すと、葵はそれを差し出した

綾乃の父

こっ…これはっ…!!

綾乃の父

幻の日本酒、「撃美(うび)」じゃないか……!!

(ニヤリ)

綾乃の父

き、キミ!!一体これをどこで手に入れたんだ?!

綾乃の父

こんな、普通の手段では入手困難な代物をなぜ…!!

いやぁ、お父様にお喜びいただけるためならば、たとえ火の中水の中…ですよ♡

(綾乃からお父さんがこれを追い求めてるって聞いて、知り合いの日本酒マニアから相場の5倍の価格で譲り受けたとは言えない…)

綾乃の母

まぁぁ!あなた、よかったわねぇ!♡

綾乃の母

長年追い求めてた「撃美」ですもの、これじゃあマ○オさんになってもらう他ないわよねぇっ?!♡(←意地でもマ○オ化を狙う母)

綾乃の父

くっ…!!

綾乃の父

…ふ、ふんっ!!こんな物で俺を釣った気になってもらっちゃあ困るってもんよ…!!

(な、なにぃぃぃい?!)

綾乃の父

おいっ!メシはまだかっ!!

綾乃の母

はいはい、とっくに出来てますよ

父の元へと、異国の料理たちを運ぶ

綾乃の父

…な、なんだこの見たこともない料理は…っ

綾乃の父

まさかお前…また雑誌で見かけただけの料理をレシピも見ず、何も考えずに作ったんじゃあ…!!

綾乃の母

いいから食べてみて下さいよっ!

綾乃の父

こ、この鯛の周りに貝が入ってるのはなんだっ?!

綾乃の母

それは「アカァーパッッタ」ですよお父さんっ!♡

綾乃の父

「赤いバッタ」……?まったく、また意味がわからん物を作りおって…

綾乃の父

…いいだろう、お前のゲテモノ料理にも胃袋はもうとっくに慣れているからな…

…パクッ

綾乃の父

───っ?!!

綾乃の母

…どうですか?お父さん♡

綾乃の父

うっ…

綾乃の父

美味いっ…!!

綾乃の父

貝とニンニクの旨味をたっぷり吸ったこの、柔らかくてとろけるような鯛の身…!!

綾乃の父

そして油を多めに使っているというのにまったくくどくない、爽やかで上品な味わい…!!

綾乃の父

こ、この家でこんなにもまともな…いや、美味い物を口にしたのは結婚して以来初めてだ…!!

綾乃の父

ほ、本当にお前がこれを作ったというのか…?

綾乃の母

いやぁね、お父さんったら♡

綾乃の母

この味を私にレクチャーしてくれたのは、そこにいる葵くんなんですよっ!♡

………(; ̄ェ ̄)

綾乃の父

なっ、なにぃ…?!

綾乃

お父さん、葵ってね、こう見えてすっごく料理上手なんだからっ!(←急に鼻高々)

綾乃

メシマズ嫁と長年連れ添ってるお父さんにとっては夢みたいでしょぉ〜?♡

綾乃の母

そうそう!葵くんにマ○オさんになっていただけたらお父さんだって、毎日こんなに美味しい物を口にできるんですよぉ?♡(←マ○オから離れられない母)

綾乃の父

くぅっ…!!

(おっ、これは懐柔できそうか…?!)

あの、もしお父様の好みやリクエストがあれば、ぜひなんなりとお申し付け下さい

大抵の物でしたら何でもご用意して差し上げられるかと思いますので…

綾乃の父

ぬぅっ…!!(←夢と希望に満ち、そして救いを求める目)

綾乃

(こ、これはさすがのお父さんも認めざるを得ないんじゃないかしら…笑)

綾乃の父

………ふん!!

綾乃

……え

綾乃の父

お、男のくせに、こんなに料理が上手いなどとはけしからんっ!!

……はい?(笑)

綾乃の父

男というものはなぁ!そもそも台所に立つべきでないのだ!!

綾乃の父

綾乃という女がいながら自ら炊事番をするなど、娘への冒涜に等しい行為だ!!

(その娘があんたの奥さんのメシマズをしっかり受け継いでるからなんだけどな…)

綾乃

(…ダメだコリャ)

綾乃の母

ちょっとお父さんっ!

綾乃の母

葵くんはね、普通の人よりも料理のセンスだってピカイチなのよ?!

綾乃の母

さすが、センスを求められる仕事をしているだけあるんだからぁ!

綾乃の父

仕事…だと?

綾乃の父

…一体なんの仕事をしているんだ

(どうせ、外で働いて日焼けして真っ黒になるような仕事じゃなきゃ「屁」みたいな扱い受けるんだろうな…笑)

…デザイナーです

綾乃の父

…デザイナーだと?

ええ、一言にデザイナーと言っても仕事の内容は多岐に渡りますけど…

主にWebサイトのデザインだったり、企業様の宣伝ポスターや商品パッケージなんかも手掛けてます

お父様のお仕事である造園業にも、ガーデンデザイナーとして僕たちデザイナーが携わっていたりするんですよ

一般の戸建ての庭はもちろん、公共空間の景観作りにもデザイナーの力は必須です

最近では「和風モダン」なんていう、日本の和と欧米モダンが融合したスタイルもデザイン手法として広く浸透していますから

綾乃の父

和風…モダン?

実は僕も、最近ガーデニングデザインの資格を取得したばかりでして…

なので、もしも今後、お父様のお仕事にもお力添えができる機会があれば───

綾乃の父

ふんっ!生意気な…

綾乃の父

俺はな、造園といえば伝統的な純和風の日本庭園しか取り扱わないんだ

綾乃の父

デザイナーだか、モダン焼きだかなんだか知らないが、そんなものはまったくもって必要ない!!

(さいでっか…てかモダン焼き…)

綾乃の父

ふん、そんなチャラチャラした仕事をしているから暇を持て余し、綾乃の代わりにいそいそと料理など嗜んでいられるんだろう

(……イラッ)

綾乃の父

いいか!男というものはだなぁ!

(イライラ…)

綾乃の父

汗水垂らして働いてきて、家に帰れば台所になど立たず、熱燗か冷酒を嗜むと決まっているんだ!!

綾乃の父

まぁキミのような容姿だと、嗜むどころかお酌役の方がよっぽどお似合いだろうがなぁっ、ハッハッハ!!

…ぷちっ(←何かが切れた音)

ガタンッ!

突然席を立ち上がった葵がスーツの上着を脱ぎ捨て、ネクタイをほどき始めた…

綾乃

あ、葵っ…?!(ヤバッ、怒っちゃった?!)

綾乃の父

な、なんだ…やる気かっ?!

綾乃の母

だ、ダメよっ!喧嘩は良くないわっ!!

奈々

葵くん、落ち着いてっ!!

葵はシャツの袖を捲り上げ、手土産に持ってきた日本酒の一升瓶を手にすると…

父の目の前のテーブルにドンッ!と叩き置いた

綾乃の父

……!!

そうですか……よーくわかりましたよ、お父様…

黙って聞いてりゃあ、人のこと好き勝手言ってバカにしやがって…

その昭和で時代がストップしたままのガッチガチに凝り固まった石頭と一緒にっ、肝臓までガッチガチにしてやろうか…!

綾乃の父

ど、どういう意味だ、それは…!!

世間知らずの偏屈ジジィにっ、今ドキの若モンの酒の強さを教えてやるって言ってるんですよ!!

綾乃の父

せ、世間知らずの偏屈ジジィだとぉぉ?!

「男というものはなぁ!」…っていちいち説教じみた常套文句ばっか並べちゃってさぁ…

マジでだっさー!(笑)今ドキもうどこにも通用しませんよ?そんな古臭い説教なんて♡(ニッコリ)

綾乃の父

な、な、な…っなんだとぉぉ?!

綾乃の父

き、貴様っ!ついに本性を現しおったなぁあ?!

時代遅れの偏屈ジジィに好き勝手言われてヘコヘコ頭下げるほど、生憎人間出来ておりませんので♡

綾乃の父

くっ…!いいだろう…のぞむところだ!

男同士、サシで飲み比べ…といきましょうか

綾乃の父

ふんっ!小便漏らしても知らんぞ…?

綾乃

(た、大変なことになっちゃった…)

綾乃

(でもちょっと面白そうかも…笑)

綾乃の母

あ、あなた…将来のマ○オさんなんだからお手柔らかに頼みますよっ!!

奈々

(本性を現した葵くん……「美人攻め推し」の私にとっては、コッチの方が好きかも…!////)

一升瓶のキャップを開封し、お猪口にトクトクと注いで父に差し出した

まぁまぁ、お一つどうぞ♡お父様っ♡

綾乃の父

ぐぬぅ…っ!

綾乃の父

き、貴様に酒をつがれて「お父様」などと呼ばれる義理はないっ!!

あれぇぇ?じゃ、いいんですかぁ?この「撃美」、返してもらっても♡

綾乃の父

そ、そんなことは許さんぞっ!!

綾乃の父

一度貰った物はもう返せんだろうがっ!

じゃーぁ大人しく飲めばいいじゃないですかぁ

それとも、スタートラインで早くも戦わずして負けを認めるんですかぁ?(ニヤリ)

綾乃の父

ぐぅっ…!!

飲まないなら、お先にいただいちゃおっかなーっ♪

お猪口に入った日本酒を一口で飲み干した

……っかァァーーッ!♡♡

さすがは幻の日本酒ですねぇっ!艶やかな飲み口はもちろん、辛口なのにどこか繊細で芳醇な味わい…!

綾乃の父

……ご、ごっくん。

綾乃の父

な、なんって奴なんだ貴様は…っ

綾乃の父

このっ礼儀知らずめっ…!

…あぁん?それはお父様だってお互い様なんだから、言いっこなしでしょー?

娘の彼氏だからって、理不尽に難癖つけては文句ばっかタラタラタラタラ…

そーゆうの、なんて言うか知ってますぅ?

綾乃の父

な、何が言いたいっ…

…嫉妬っていうんですよ……お父様ぁ…(ニヤリ)

綾乃の父

……っ!!

「男とはこうであるべきだ!」とか散々カッコつけてたわりに案外嫉妬深いんですねぇ♡(←人のこと言えない)

嫉妬のあまり俺みたいな若モン相手に敵意剥き出しにしちゃうなんて…かっこわるぅぅ♡(←人のこと言えないパート2)

綾乃の父

きっ……貴様ぁ…!!

綾乃の父

…おいっ!綾乃っ!!

綾乃

は、はい…(笑)

綾乃の父

お、お前…お前という奴はっ!なんでこんな性悪で顔だけが取り柄の男なんかと付き合っているんだ!!

綾乃

そ、それは…そのぉ…っ(笑)

綾乃の父

そんなにこの男の顔が好きなのか?!どうなんだっ!!

綾乃

も、もちろん顔だけなんかじゃっ───

そうなんですよ、綾乃って俺のこの顔に…

ほんっと、ベタ惚れすぎて困ってるんですよねぇ…♡(ニヤリ)

綾乃の父

………!!

綾乃

ちょっ…ちょっと葵っ?!

綾乃の父

け、けしからん奴めっ…!

綾乃の父

俺の娘をたぶらかした男が!気安く「綾乃」なんて呼ぶことは断じて許さん!!

自分の女を呼び捨てにして何が悪いってんだよっ!…この偏屈ジジィが!!

綾乃の父

開き直りよって…!このぉ……っ!!

ようやくお猪口を手に取ると、父は一気にそれを飲み干した

綾乃の父

……かァァーっ!!…美味いっ!

お、なかなかいい飲みっぷりですねぇ!

やっと戦う気になったんですね?♡

綾乃の父

…ふん、貴様のような色気づいたガキなんぞ、俺の足元にも及ばんがな…

…1時間後

ほとんどカラになった一升瓶とともに、テーブルに頭から転がったのは父だった…。

綾乃の父

もっ…もう飲めんっ…

綾乃の父

き、貴様の肝臓は…一体どうなっているんだ…!!

はんっ、だらしないっすねー

頭ガチガチのわりに肝臓は豆腐以上にヤワヤワじゃーん

頑固ジジィの名が聞いて呆れるって、まさにこのことですねぇ♡お・と・う・さ・まっ♡

綾乃の父

くぅぅ……っ!!

綾乃

も、もうそのぐらいでいいでしょ?2人ともっ!

綾乃の母

そうそう、マ○オさんの肝臓まで不健康になってもらっちゃ困るんですからねっ!(←いい加減しつこい)

奈々

(あんなに強いお酒、お父さんと同じくらい飲んでも顔色一つ変えないなんて……やっぱり「美人攻め」…っ////)←もはや行き着く先が謎

綾乃の父

こ、こんなチャラチャラした小僧に完敗してしまうとは…っなんたる不覚…!!

綾乃

ま、まぁ…もういいじゃないっ、お父さん

綾乃

完敗はしちゃったけど、乾杯はできたでしょ?

綾乃の父

……っ

綾乃

ほら、お父さんって昔からよく口にしてたじゃない?

綾乃

「娘だけじゃなくて、息子も欲しかった」って…

綾乃

「息子と男同士、水入らずで酒を酌み交わすのが夢だった」ってよくつぶやいてたでしょ?

綾乃

だからね、キッカケがどうであれ、今夜はその夢が実現する第一歩だったのよ、きっと…

綾乃の父

綾乃…っ

………

綾乃

だから、もういがみ合いはおしまいっ!

綾乃

頭ガチガチのお父さんも、ムキになって悪ノリしてる葵もっ!

綾乃

こうしてせっかくお酒だって酌み交わせたんだから…仲良くしてよっ!

綾乃の父

………

………(¬_¬)

綾乃

…わかった?!

綾乃の父

……ふん

綾乃の父

綾乃…お前には、娘を持つ父親の気持ちなどまだわからなくて当然だ…

綾乃の父

小さいうちから可愛くて仕方なかった子が、いつのまにやら大人になり、やがて好きな男の元へと行ってしまうのを見送る父親の気持ちなど…な

綾乃

お父さん…っ

綾乃の母

あなた…っ

綾乃の父

…少し、外で酔いを覚ましてくるとするよ

綾乃

ど、どこに行くの?

綾乃の父

近所の銭湯にでも歩いて行って、スッキリしたい気分なんだ…

そう言い残すと、父は少し寂しげな背中を向けて、部屋を出て行くのだった…。

………

綾乃の父

……ふぅ…

綾乃の父

(桐矢葵…か…)

綾乃の父

ふっ…初めから俺だって、綾乃が惚れるのも無理はないことぐらいわかっていたさ…

ガラララ…ッ

うぅゥゥゥさぶっ…!!

…あれっ?お父様じゃありませんかぁ!

綾乃の父

なっ…き、貴様、なぜここに…っ?!

お湯に浸かった父の隣へと入ると、葵は気持ちよさそうに足を伸ばす

くあ〜っ♡あったまるぅぅ♡

奇遇ですねぇっ!俺もひとっ風呂浴びに出てきたんですけど、まさかお父様もここに来てたとは思いませんでしたよぉ!♡(←実は後をつけた奴)

綾乃の父

い、一体なんのつもりだっ…!

まぁまぁ、男同士そろそろ仲良く背中でも流し合いませんか?

お互いに、「綾乃」っていう大切な存在がいるのは俺とお義父さんの、唯一の共通点でしょう?

それなら話が早いじゃないですか

綾乃の父

……っ

綾乃の父

造園と日本酒一筋で生きてきたこの俺が、酒だけでなく貴様ごときに呑まれてしまうとはな…

………

綾乃の父

娘のことを思うと…父親というものはこうも脆くて、バカな生き物だよ、まったく

…そういうものなんですか?

綾乃の父

…ああ

綾乃の父

貴様もいつか、娘を持ったら嫌でも理解する時が来る…

……そうかも…しれないですね

綾乃の父

この歳になっても、あの子が幼かった頃の記憶というものは薄れないものなんだよ

綾乃の父

仕事から帰れば、玄関で出迎えてくれた綾乃と奈々の二人をよく両腕に吊り下げて遊んでやったもんだ…

綾乃の父

そういえば…その時に、綾乃が俺の腕にぶら下がった拍子に肘を脱臼してしまったことがあってなぁ

えっ、そうなんですか?

綾乃の父

急に大泣きしだしたもんだから慌てて接骨院まで車を走らせて…

綾乃の父

いざ医者に肘の骨をはめてもらうと嘘のようにピタッと泣き止んで、病院中を走り回るから心配して損したんだ

綾乃の父

ハハッ、今となってはもう遠い記憶だ…

………

…お義父さん、そろそろ洗い場の方に行きませんか?

綾乃の父

ん?…もう出るのか?

…ほらっ、飲酒後の長湯は体にも良くないですよ?

洗い場へ行くと、葵は父の後ろへ椅子を置き、腰かけた

綾乃の父

お、おいっ…何を…

お背中を流して差し上げますっ♡

綾乃の父

そ、そんなことしなくていいっ!!

いいからいいから、遠慮なさらずに♡

石鹸で泡立てたタオルを父の背中に当て、こすり始める

綾乃の父

す、好きにするがいいっ…////

少し照れ臭そうな父の背中をこすりながら、葵はその少し丸くなった大きな背中を見つめた

……「お父さん」の背中って…こんな感触なんですね

綾乃の父

……え?

俺…物心ついた頃には父親がいなかったんで、こんな風に背中を流したりするのも生まれて初めてなんですよ

綾乃の父

……亡くなってるのか?

いえ、俺が生まれる前に両親が離婚したんです

だから俺、「お父さん」の顔も写真でしか見たことがないんですよね(笑)

綾乃の父

……そうだったのか

まだ綾乃さんにも話してないことなんですけど…

母はバリバリのキャリアウーマンで、日本と海外を行き来するほど忙しい身だったので…俺と一つ上の兄貴はいつも二人で留守番させられてて…

そんな母には、いつも言い聞かせられて育ちました

「お父さんもいなくてお母さんも仕事で忙しいんだから、あなたは今のうちから誰にも頼らず一人で何でもできるようになりなさい」…って

綾乃の父

………

だから…小さいうちから料理だって、掃除だって、大人になれば仕事だって…一人で生きていくために何でもできるように努力もしてきました

でも……それでも時々、やっぱり誰かに支えて欲しくなる時ってあるんですよね

俺のこんな見た目だけに捉われるんじゃなくて、ちゃんと俺自身を見て知って、好きだって思ってもらえる人に…

…それが、綾乃さんだったんです

綾乃の父

……っ

お義父さん、俺…

綾乃さんのこと、この世界の誰よりも愛してます

彼女無しではもう…生きていけません

俺は…お義父さんが言うみたいにただの色気づいたガキンチョかもしれないし、外で日焼けして真っ黒になるような仕事もしてませんけど…

それでも、大切な家族をこの手で抱きしめて、何があっても守り抜いてみせると誓います

綾乃の父

綾乃の父

……そうか

綾乃の父

よく……わかったよ、キミの気持ちは

綾乃の父

……ありがとう

………

それと、これは俺の個人的な感情なんですけど…

綾乃の父

……なんだ?

いつか生まれてくる自分の子供にも、お義父さんのような「家族を守り抜いてきた父親」の大きな背中を見て育って欲しい…

その夢が叶うまで…

お義父さんの背中を俺が見つめていてもいいですか?

綾乃の父

………

しばらくの間の後、父の背中が小刻みに震えているのに気がつく

……あれ、お義父さん…こする力、強すぎます?

綾乃の父

ち、違うっ…

綾乃の父

何でも…ないっ…!!

言葉にならない涙を拭う父の後ろ姿を見つめ、フッと葵は微笑んだ

つづく。

カラダの関係は、お試し期間後に。

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コメント

4

ユーザー

めちゃくちゃ良かったです!次も楽しみです!

ユーザー

わぉ……葵くんかっこいっ♡

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