テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

渋谷大

どっちに非がって、言われても

渋谷大

座主様とタケ、どっちかに非があるもんですか?

突然の質疑に困惑しつつ、なんとか回答する

しかしその言葉に、狐面の男はあからさまに肩を落とした

狐面の男

他人行儀なんだなぁ君は!

狐面の男

若君の想いはまだ実りそうにないか

狐面の男

ベタ惚れな様子なのに、哀れなもんだ

渋谷大

……それって他人にどうこう言われるようなことじゃ

狐面の男

そうかな?

狐面の男

共感の修行にきたって話を聞いたんだが

狐面の男

今のままじゃ君

狐面の男

どっちにも共感できないまま終わるよ

渋谷大

はぁ!?

狐面の男

それにずいぶんカタい

狐面の男

他人のテリトリーは緊張するかい?

渋谷大

……アンタ、なんなんだ

ズカズカと内心に踏み込むような物言いに、渋谷の歯が軋む

まるで威嚇するようなその表情に

狐面の男が嬉しそうに手を叩いた

狐面の男

お、やっと感情が出た!

狐面の男

そっちのほうがよっぽどいい

狐面の男

さっきまで借りてきた猫……いや

狐面の男

毛色的に、借りてきたユキヒョウだった

狐面の男

かなりお行儀よくしてたね

狐面の男

座主様は悪い天狗じゃないんだが

狐面の男

人に物を教えるのが下手でいけない

ニヤニヤとした口元を不愉快そうに睨みつつ

この男への対応を決めかね、無言を貫く

それを面の奥の瞳がおかしそうに見つめると

男は井桁に軽く腰を下ろした

狐面の男

ひとつだけアドバイスをあげよう

狐面の男

他人に共感しようとするなら

狐面の男

公平であろうとは思わないことだ

渋谷大

――な、んで

狐面の男

マイナス感情の共感なら特にな

狐面の男

偏見の目で見ろ

狐面の男

現実は最悪な選択肢で始まると思え

狐面の男

そうすりゃ分かるさ

渋谷大

……

機嫌よさげなその口ぶりは気に入らないまでも

本当にただのアドバイスらしいと知り、眉間を寄せる

渋谷大

アンタ、本気でなんなんだ

再度問うと、男は飄々と肩をすくめた

狐面の男

ただの男だよ

狐面の男

噂の人間を覗きに来ただけだ

渋谷大

そのわりに、色々知ってそうだけど?

狐面の男

そう思うのは、君がなにも知らないからだよ

ケタケタと笑い飛ばしてくる姿が腹立たしい

しかしそのタイミングで複数の怪異が話し声が聞こえると

男はなにかに気付いた様子で立ち上がった

狐面の男

おっと、もう行かないと

狐面の男

じゃあな若君の想い人

狐面の男

あんまりうちの若を焦らしてくれるなよ

渋谷大

おい、ちょっと……!

引き止めようとしても、振り返りもせず去って行く

伸ばしかけた手を所在なさげにさまよわせ

渋谷は困ったように頭を掻いた

午前中から襲いかかる精神疲労にうなだれ

肺を絞るようなため息を吐く

渋谷大

……さすがは天狗の屋敷

渋谷大

得体の知れない奴が多いこって

渋谷大

しっかし

渋谷大

――偏見の目で見ろ、かぁ

思いがけない助言に、考え込む

確かに共感すべき対象が友人と、その父親ということで

少なからず踏み込む深度を遠慮していた部分もあり

二人の中立であろうとしていた部分もあった

渋谷大

……親子仲を取り持つのを意識しすぎて

渋谷大

あんまり踏み込んだ想像してなかったんだな

渋谷大

マジでタケに共感しようと思うなら

渋谷大

1回、座主様を嫌う必要があるって事か

かつて自分が本田に注意された案件を思い出す

製薬会社で奴隷のように使い捨てられ

反魂を願い、弟の体を利用しようとした少年霊

彼の身の上話を聞いたとき、確かに自分は

 

公平な目など 持とうともしていなかった

 

渋谷大

そういうこと、だよなぁ

渋谷大

……つまり周囲から情報もらうより

渋谷大

タケにくっついてるのが正解か

渋谷大

んんんー

渋谷大

狙って共感するって、むずかしいな……!

色摩猛

あー……

色摩猛

あの、大ちゃん?

渋谷大

んー?

色摩猛

しゅ、修行は?

渋谷大

今まさにいろいろ頑張ってます

色摩猛

そ、そだね

色摩猛

一緒にストレッチは頑張ってるね

渋谷大

お前体やわらかいなー

色摩猛

俺は仕事が仕事だもん

色摩猛

大ちゃんのやわらかさのがビビるわ

色摩猛

つか、親父どのなに言ったの……

渋谷大

座主様だけじゃないけど

渋谷大

頭使えって

色摩猛

つ、使った結果がこれ?

渋谷大

迷惑か?

色摩猛

迷惑ではないです全然!!

色摩猛

でも昨日のこと、怒ってたりとか

渋谷大

怒るようなことあったか?

色摩猛

え、だって俺、あの

色摩猛

鼻チューとかしたし、あの

渋谷大

昼間と違う修行できて

渋谷大

すごい助かってるけど……

色摩猛

そ、それだけ?

渋谷大

だって、なにしてもいいって言っただろ?

渋谷大

今日も頼むな

色摩猛

それはもちろんだけど

色摩猛

……大ちゃんはなんか、許容範囲広いね

渋谷大

許容範囲?

色摩猛

自分の発言に責任持ってる感じがあるし

色摩猛

他人を許せる部分がデカい気がする

色摩猛

俺なんか全然だもん

色摩猛

されたらイヤなことばっかり

渋谷大

そんなに?

色摩猛

だってヤだよー

色摩猛

親が好きな子と話すのとか

色摩猛

なに言われてるかわかんないもん

色摩猛

昨日だってホントはあそこにいたかった

渋谷大

……なんかあったんだな

色摩猛

うん、まぁ

苦々しくも努めて明るく笑おうとするその顔に

ひとつの感情が胸を占めた

渋谷大

そっか

ストレッチを終えてあぐらをかいた色摩に傍寄り

隣に座って頭を引き寄せる

色摩猛

だ、大ちゃ……!?

渋谷大

なんか、ごめんな

色摩猛

なにが!?

渋谷大

頑張っていろいろ考えようとしすぎてたけど

渋谷大

やっと、ちょっと分かったかもしんない

渋谷大

座主様が言ったやり方とは違うけど

渋谷大

自分なりにやり方が掴めた気がする

色摩猛

それより待ってこの体勢は待って

色摩猛

俺の心臓がもたない!

渋谷大

だから、今から座主様んとこ行ってくる

渋谷大

昼飯かねて経過報告って言われてるんだ

渋谷大

普段どこにいるかな

色摩猛

大ちゃんさ、許容範囲がデカいのはいいけどさ

色摩猛

他人との距離が近いと期待しちゃう奴が

色摩猛

て……親父どの?

渋谷大

うん

渋谷大

ちょっと話さなきゃと思うし

色摩猛

大ちゃんが親父どのと飯食うとかめっちゃヤだけど

色摩猛

……この時間なら東の離れにいると思う

渋谷大

そか、ありがと

渋谷大

行ってくる

色摩猛

……行って、らっしゃい

色摩猛

……

色摩猛

んんぁあああああ

色摩猛

めっちゃ翻弄されてんなぁ俺……!

渋谷大

座主様、いらっしゃいますか

座主

ん?おぉ、お前か

座主

入っていいぞ

渋谷大

失礼します

座主

もうそろそろ昼時だな

座主

進展があったか?

渋谷大

はい

渋谷大

その経過報告の前に、とりあえず一言いいですか

座主

うん?

座主

かまわんが、なんだ

 

渋谷大

親子仲、取り持つのは無理です

座主

……

座主

え?

すがすがしいまでの笑顔で言い放たれた言葉に

座主の表情がかたまる

それをまるで知らないフリで、渋谷は笑顔を浮かべ続けた

カタヅケ屋霊異記【完結】

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

1,112

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚