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”黒の間”のテーブルの1つが、低く光った。
爽香と弥生は視線を交わす。
爽香の表情は変わらない。
弥生は唇をわずかに強張らせていた。
2人は、テーブルを挟んで向かい合う椅子に座る。
次の瞬間、椅子の左右から金属製のベルトが伸びた。
胸元。
腰。
両手首。
冷たい金属が2人を固定していく。
橋村弥生
金本爽香
橋村弥生
爽香の声は冷静だった。
弥生を安心させたのか、余計に追い詰めたのか――
弥生にもわからなかった。
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2人の前に、黒い光を帯びた半透明のパネルが浮かび、それぞれ問題文が表示された。
ただし、内容は相手にも、他の生徒たちにも見えない。
この試練は、2人だけの秘密を、2人だけに突きつける形で始まった。
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直後、2人の頭上約1メートルに、直径50センチほどの半球状の装置が現れ、黒い空間に固定された。
装置の奥には金属製のボウガンがあり、矢先が2人の頭頂部へ向いていた。
時間を過ぎれば、矢が脳天を貫く。
2人の表情が凍りついた。
パネルの端に、2桁の数字が浮かぶ。
60。
59。
58。
弥生のパネルに表示された、“爽香に関する問題”はこうだった。
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橋村弥生
弥生の顔が引きつった。
爽香が大事にしているぬいぐるみ。
本人が話さなければ、知りようがない。
少なくとも、学校での爽香からは想像しにくかった。
冷静で。
大人びていて。
同世代をどこか見下している。
そんな爽香が、幼い頃からぬいぐるみを大事にしているだけでも意外だった。
橋村弥生
赤は勝利の色。
爽香は、テニスの試合や、絶対に勝たなければならない勝負の前に、赤いミサンガを右腕につけると書いていた。
赤は、爽香にとって特別な色。
勝つために、自分を強くする色。
橋村弥生
一方、爽香のパネルにも、“弥生に関する問題”が表示されていた。
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金本爽香
爽香は目を細めた。
弥生は普段、評論や古典、海外文学の話を好む。
表向きは、真面目な読書家だった。
けれど以前、爽香は見ていた。
弥生の鞄の中。
堅い本に紛れ、1冊だけBL小説が入っていた。
弥生は慌てて鞄を閉じた。
あの反応は、偶然持っていた本に対するものではない。
隠したい。
でも、読みたい。
そういう種類の好きだった。
金本爽香
爽香は、極度の緊張の中でも冷静だった。
過去の記憶。
相手の反応。
隠し方。
それらを組み合わせ、答えを導いていく。
理解。
その言葉が、別の意味を持ち始めていた。
相手を思いやることではない。
弱みを。
秘密を。
どこまで見抜いているか。
それを問われている。
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弥生は唇を噛んだ。
橋村弥生
ほとんど同時に、爽香も答える。
金本爽香
2人の声が、黒い部屋に響いた。
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生徒たちの間に、ざわめきが広がる。
24時間体制。
その言葉は、試練そのものより気味が悪かった。
学校にいる時だけでも、この部屋に来てからだけでもない。
日常。
部屋。
携帯端末。
読んだ本。
誰にも見せていない表情。
すべてが、どこかに記録されている。
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爽香と弥生は、同時に息を止めた。
パネルの文字が切り替わる。
爽香――
正解。
弥生――
正解。
橋村弥生
金本爽香
2人の口から、同時に息が漏れた。
助かったという安堵が、まず身体を満たす。
けれど、別の感情が忍び込んできた。
相手の隠していたものを知った。
自分の隠していたものも知られた。
優越感。
罪悪感。
羞恥と不快感。
理解し合えたから助かった。
そう言えば聞こえはいい。
だが実際には、互いの何かを暴いたから生き残ったのだ。
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カチッ。
身体を固定していたベルトが外れた。
2人は椅子から立ち上がる。
弥生の足は、少し震えていた。
爽香は気づいたが、何も言わなかった。
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黒い部屋の壁が、音もなく開いた。
その向こうには、動く床が続いている。
爽香は、残された生徒たちを一瞥した。
金本爽香
その言葉は、祈りというより勝ち誇った宣言に近かった。
橋村弥生
弥生の声には、申し訳なさが滲んでいた。
自分たちだけが、この先の試練を飛び越えられる――
その事実が、弥生の肩に重くのしかかっていた。
爽香は迷わず動く床へ進み、弥生も後を追った。
壁が閉じる。
2人の姿が、“黒の間”から消えた。
残された生徒たちの間に、感情が広がる。
羨望。
嫉妬。
不満。
焦り。
そして、自分も立候補すればよかったという後悔。
菜々美は、閉じた壁を見つめていた。
生島菜々美
そう思った自分に、少し嫌悪感を覚える。
爽香と弥生は助かった。
けれど、あれは本当に“理解”だったのだろうか。
相手の秘密を知ること。
隠したい部分を当てること。
弱さを、正しく言い当てること。
それは、相手を理解していると言えるのだろうか。
新倉穂乃花
穂乃花が小さく呼ぶ。
菜々美は頷いた。
2人で立候補しなくてよかった。
けれど、少しだけ考えてしまった。
もし立候補していたら。
もし正解していたら。
もし第8試練まで行けていたら。
そんな考えが、黒い部屋の暗さに紛れ、胸の奥へ沈んでいった。
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2つ目の黒いテーブルが、ゆっくり光を帯びた。
コメント
1件
ああ、この試練、重かったですね。強制された「理解」って、相手の弱みを暴くことでしか成り立たないのが皮肉で……。爽香が弥生のBL小説を知ってる場面、あの「隠したいけど読みたい」って心理を言い当てたのがすごくリアルでした。システムが24時間監視してるって設定も、この世界の不気味さを深めてる。2人が助かった安堵と、互いの秘密を知った罪悪感の両方が描かれてて、読んでるこっちの胸も締め付けられました。菜々美の「理解って何だろう」という問い、この先の鍵になりそうですね。
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りんご
904
19
朽華 歌仙
78