ここで終わらせる
僕はそう誓った
犯人は明らかになったのだ
……あとは
あとは 目の前の男に証明するだけである
頭の中で情報を整理し 僕は口を開いた
加賀春樹
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
死因はナイフを額に突き立てられたことによる失血死…つまり即死です。
凶器となったナイフは、柄にある「K・S」というイニシャルからも分かる通り、新城賢太郎さんのものです。この事実については、"新城さん自身が証言"しましたね?
新城秋穂
新城賢太郎
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
新城賢太郎
加賀春樹
新城家は元々、裕福な家系であったらしいですが、聡太郎さんは家柄に甘えることなく土方の仕事に就いていました。しかし、聡太郎さんの祖父が亡くなると、自身の手元に先祖代々伝わる財宝の数々が舞い込んできた。それも国宝級の陶器類が数百点です。
その頃から、聡太郎さんの人柄も変わってしまった。財宝に執着し、他者を異常なまでに警戒するようになってしまった。しかし、それもそのはずで、財宝の価値は1000億円以上にのぼると、聡太郎さんは自称していたんです。それなら、誰もが人間不信に陥ってしまうほど警戒してもおかしくはない。
加賀春樹
……が、やはり現在も具体的な価値は家人ですら把握できていません。それは、僕が初めてこの邸宅に来た時点で、遺産についての話し合いを家族総出でしていたことからもはっきりしています。
これが、事件の背景にあった事実です。この話は、貴恵さんと新居さんが話してくれたことですが、お二人はここまでに何か訂正したいことなどはありますか?
新城秋穂
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
新城秋穂
新城秋穂
加賀春樹
そしてそれぞれ、"聡太郎さんの警戒心" は不可能犯罪へ、"財宝" は動機へと繋がります。
新城賢太郎
加賀春樹
だから、聡太郎さんに用がある家人は、必ず一定の離れた距離で話すことを求められるし、近付けば大騒ぎされてしまう。
この事実が、額に突き立てられたナイフと矛盾するんです。防御創が一つもないのに、素直に"椅子に座ったまま"聡太郎さんは殺された。
ちなみに、死体が動かされたということや、聡太郎さんが寝ていたということはあり得ません。聡太郎さんはかなりの出血をしていて、もし動かしたのなら確実にその痕跡が残るはずです。しかし、その痕跡はなく、痕跡を隠したような道具も見つかっていません。何より、わざわざ殺してから椅子に座らせる必要がないのですからね。この点については、新城さんの推理と同意見です。
そして、新居さんの証言では、午前1時頃に部屋から薄明かりが漏れていたとありますし、新城さんの証言でも、聡太郎さんは寝る際には必ず鍵をかけるそうですね。見た限り、無理矢理に壊された痕跡もなかった。更には、死体の驚愕した表情を見るに、明らかに犯人を目撃しているが抵抗できずに殺されたというような状況だと推測できます。
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
そんな不安から、犯人は確実に自身の懐に入れるため、聡太郎さんを殺害した。と同時に、犯人は私欲が抑えきれなかった。もしくは焦りが生じたのかもしれません。それが、第二の事件へと繋がります。
新城秋穂
加賀春樹
「ちょっと待った」
新城賢太郎の声だった
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
新城賢太郎
新城賢太郎
なんだこの余裕は?
僕は少し動揺した
新城賢太郎が指摘することは 事件の核心のはずである
それは この男もわかっているはずだ
実際に 初めて突きつけた時はパニックを起こしていたではないか
それに 僕と秋穂の前でも口を滑らせていた
それなのに なぜ、堂々としていられる?
訝しみながら しかし、負けじと突きつけた
加賀春樹
加賀春樹
新城賢太郎
新城秋穂
加賀春樹
マインドコントロールとは、ある人の思考や行動を操作することです。しかも、マインドコントロールされている人というのは、普通は自身が操作されていることに気付くことはありませんから、自分の考えや行動は自分の意思で選んだものだと錯覚します。
加賀春樹
新城秋穂
新城賢太郎
新城秋穂
加賀春樹
加賀春樹
内容としては、新城さんがマインドコントロールというものを研究していて、実際にそれが可能であることを証明したこと。マインドコントロールを使って、巷で話題になった新城さんの実験は、人の心を操って統計操作が行われた不正であったことが記されています。
僕は例の新城賢太郎博士による マインドコントロールについての実証記録及び統計操作の不正資料を見せた
加賀春樹
新城賢太郎
新城秋穂
新城賢太郎
新城秋穂
新城秋穂
新城賢太郎
新城秋穂
新城賢太郎は妻を無視して 僕に向き直った
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
新城秋穂
新城秋穂
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
事実、あれは資料室に厳重に管理されていたものだと言いますし、周囲の人間を同じようにマインドコントロールしてしまえば良かったんですから。
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
新城さんの誤算は、あの資料が僕の手に渡るとは思わなかったこと。そしてそれがきっかけとなり、マインドコントロールを解かれてしまったこと。
この流れを予想できず、証言者全員を操作する自信があったから、堂々と犯行手段に用いたんです。
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
新城秋穂
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
まず、これは資料の端にメモされていることです。乱れた筆跡を見るに、よほど興奮していたのでしょう。そこには「私の名は、歴史に名を刻み広く知れ渡るであろう」と書かれていました。
また、著書の「心は解かれている」には、「私という存在は、歴史上類を見ない最も優れた教育者ということになるだろう」とあります。これは不正な研究を讃えた上での発言です。
以上のことを踏まえた上で、お二人の会話からも知れたことですが、日常的に先程までの態度を一貫していたのならば、厳しいことを言いますが、新城賢太郎、貴方は金と名誉に溺れた全くもって自己中心的な人間と言わざるおえないのです。そして今回の犯人のトリックや動機は、貴方とあまりにも一致しています。状況証拠だろうが、言い逃れは厳しいのではないですか。
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
加賀春樹
新城秋穂
新城賢太郎
加賀春樹
そして、第二の事件で貴恵さんはポケットに入れて肌身離さず持っていたようなのですが、それが"無くなっていた"んです。これは不思議なことです。
新城秋穂
新城秋穂
加賀春樹
しかし、唯一聞き取れる場所があった。
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
新城秋穂
新城秋穂
新城賢太郎
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
新城秋穂
新城賢太郎
新城秋穂
新城賢太郎
それに、犯人は皆が寝静まった間に父の部屋へと忍び込み、父が身につけているはずの鍵がなくなっていることに気づいた。鍵は自然に妻の貴恵へと渡ることを予測し、殺害して奪った……というシチュエーションだって考えられる。
加賀春樹
ここにきて 初めてまともに反論を受けた
もうすっかり いつもの新城賢太郎に戻っていた
冷静さを欠いていない
不安になってくる
新城賢太郎
新城賢太郎
新城秋穂
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
新城秋穂
加賀春樹
こんなことをした理由として、僕が発見した謎の穴で説明することができるんですよ。
新城秋穂
新城秋穂
加賀春樹
この穴の意味……それこそが、犯人が密室を作る意味ともつながります。まず、この穴は"成人男性では通れない"という事実が非常に重要です。そして、"密室殺人"という要素を合わせて考えてみてください。その時点で、"犯人は成人男性ではあり得ない"という結論に至ります。
新城秋穂
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
つまり、"脱出のためではなく、自身が犯人から除外されるための穴"だったんですよ。
新城秋穂
新城賢太郎
冷徹な声音だった
暫く黙っていたかと思えば 唐突に口を開く
音もなく現れ、音もなく去る
飄々とした男
いつしか この男のことをそう形容した
まさに いつもの新城賢太郎であった
巨悪の俗物であったものは いつしか1人の賢人となっていた
……いや、騙されるな
仮面をかぶっているだけだ
僕も冷徹に言い返した
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
新城賢太郎
マインドコントロールとは、"長期間にわたって暗示をかけ続けなければ効果は見込めない"んだよ。
加賀春樹
新城賢太郎
短時間でマインドコントロールをするとしても、"相手と至近距離で対話をして" あらゆる操作手段を用いれば、"瞬間的で単純な行動や感情を創り出す" ことは可能だよ。だから、例の実験は上手く行ったんだ。
しかし、僕の技量では "長期間の対話と暗示をかけた" 上で、事件のような複雑な心理操作が可能となる。この意味がわかるかな?
加賀春樹
新城賢太郎
しかし、君が前述してくれた通り、これは無理な話だ。いいかい。犯人は騒がれないために、そして確実に殺すため、額にナイフを突き立てる必要があるね。だから、君はマインドコントロールを使ったと仮定した。
でも実際は、僕が使うマインドコントロールを使おうと思えば、その時点で父に騒がれ、抵抗しようとするだろうね。いや、父以外も僕の不審な様子に警戒して暗示なんかかけさせてくれないだろう。
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
新城賢太郎
そう言って 新城賢太郎はデスクワークの上にある 山積みの資料を持ってきた
小さな文字で 試行の数値や考察が記されていた
先ほど新城賢太郎が語った マインドコントロールの詳細な情報は 赤いペンで傍線が引かれていた
難解な用語が多数出てくるが 内容は話と一致していた
つまり、嘘ではなかった
「それにね」
男……いや 人形は話を続けた
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
新城秋穂
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
新城秋穂
新城賢太郎
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
新城賢太郎
しかし、断じて言えることは……
にやにやしながら 意地悪そうに溜めてから言った
新城賢太郎
絶望の轟だった
聞きたくなかった
新城賢太郎は犯人ではない?
それこそ、あり得ない
あらゆる符合が 新城賢太郎こそ犯人だと示している
……しかし
新城賢太郎のマインドコントロールは 万能ではないということが分かった
それは 事件の根底を覆してしまう証拠だ
全てが白紙になってしまうのだ
僕は焦っていた
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
新城秋穂
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
僕が犯人だと?
そんなわけが……
加賀春樹
ずきり
頭が急激に痛くなった
何かで刺されたような痛みだ
声が……声が聞こえる……
殺せ
犯人だとバレたなら
殺せ
操作者以外を殺せ
全員殺してしまえ
さあ
額にナイフを
穿て
加賀春樹
新城秋穂
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
本当に
加賀春樹
殺して
加賀春樹
殺してしまう!!
加賀春樹
僕は2人に走り寄った
警戒して2人は身構える
だめだ
もう終わってしまう
僕は殺人鬼なのか
殺せ
分かったよ
本当に殺すのですか?
誰だ
殺せ
いま、殺ってやる
踏み留まりなさい
どっちに従えばいい
加賀春樹
苦しい
苦しいよ
加賀春樹
その時
「いやああああああああ!!」
プツッと糸が切れた感覚
僕は
加賀春樹
加賀春樹
なんとか気を取り直した
新城賢太郎
新城賢太郎
新城秋穂
新城秋穂は走り出した
賢太郎も妻の後を追おうとしたが 僕に肩を貸してくれた
そして 急いで悲鳴の聞こえた方へと走っていく
長い口論であった
僕と賢太郎が到着した頃には 秋穂は佇んでいた
その後ろ姿は 日光を受けて神秘的に映っている
しかし スポットライトは別の人に灯されていた
その人物は、椅子に座っていた
椅子の傍らには 悲鳴を上げたであろう本人がいる
口元を押さえて 椅子に座る人物を見ている
皆が注目する主役に、僕も目を奪われた
その、一脚の椅子には
少女が1人 "首を刺されて" 死んでいた