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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

ここで終わらせる

僕はそう誓った

犯人は明らかになったのだ

……あとは

あとは 目の前の男に証明するだけである

頭の中で情報を整理し 僕は口を開いた

加賀春樹

貴方に犯行を認めさせるには、なかなか骨が折れそうですね。新城さん。

新城賢太郎

ああ。当然だ。

新城賢太郎

僕は断じて犯人ではないのだから、認めるも何もないからね。

加賀春樹

……まだ、そう言いますか。

新城賢太郎

何度でも言って見せよう。

加賀春樹

だったら、貴方の大好きな論理で証明して見せます。

新城賢太郎

ほう。期待してみようか。

加賀春樹

そのためにも、まずは事件を初めから追ってみたいと思います。

新城秋穂

ち、ちょっと待って。

加賀春樹

はい?

新城秋穂

確かにこの人は、いま私を殺そうとしたし、とんでもないことを口走ってたけど、本当にこれまでの殺人事件の犯人が、この人だって言うの?

加賀春樹

ええ。秋穂さん。酷な話ですが僕の推理ではこの人しかあり得ません。

新城秋穂

そんな……。

新城賢太郎

ふっ。馬鹿な。

加賀春樹

先程までの取り乱しようは無かったことにはなりませんよ。

新城賢太郎

だ、黙れ。

新城賢太郎

良いから証明してみろ。無理に決まっているけどね。

加賀春樹

ええ。いいでしょう。

加賀春樹

仕切り直して、事件の時系列を追って考えていきましょう。

加賀春樹

つまり、第一の殺人事件です。時刻は簡単な検死の結果から、午前2時〜3時の間に、貴方の父親、新城聡太郎さんは自室で何者かに殺害されていることが分かりました。

死因はナイフを額に突き立てられたことによる失血死…つまり即死です。

凶器となったナイフは、柄にある「K・S」というイニシャルからも分かる通り、新城賢太郎さんのものです。この事実については、"新城さん自身が証言"しましたね?

新城秋穂

よく見ていなかったけど、あのナイフは貴方のものだったのね…。

新城賢太郎

ああ。その通り。あれは僕がキャンプ用としてこの部屋に保管しておいたものだ。

加賀春樹

そしてそのナイフは、いつでも、誰でも持ち出せる状況にあった。これは秋穂さんも間違いのないところですか?

新城秋穂

そう……ね。確かにこの部屋にあったものだし、鍵は常に掛けていないことを加賀さんも聞いているのね?

加賀春樹

ええ。その理由は、例の娘さん達のことであったり、仕事上のことから便宜的に解放していると聞きました。

新城秋穂

ええ、そうね。その通りです。

加賀春樹

では、話を続けます。この事件はある一つの要素が不可能犯罪へと変えていたんです。

新城秋穂

ある一つの要素?

新城賢太郎

父の"警戒心"の話かな。

加賀春樹

そうです。僕としてもおさらいをしておきたいですし、重大な事実にも繋がるので、不快に聞こえるかもしれませんが話しておきます。

新城家は元々、裕福な家系であったらしいですが、聡太郎さんは家柄に甘えることなく土方の仕事に就いていました。しかし、聡太郎さんの祖父が亡くなると、自身の手元に先祖代々伝わる財宝の数々が舞い込んできた。それも国宝級の陶器類が数百点です。

その頃から、聡太郎さんの人柄も変わってしまった。財宝に執着し、他者を異常なまでに警戒するようになってしまった。しかし、それもそのはずで、財宝の価値は1000億円以上にのぼると、聡太郎さんは自称していたんです。それなら、誰もが人間不信に陥ってしまうほど警戒してもおかしくはない。

加賀春樹

さて、財宝に執着するようになった聡太郎さんですが、その財宝について、聡太郎さん以外の家人はどうかと言うと、不透明なことでもあった。なぜなら、あまりの警戒心から、聡太郎さんは家族であろうと財宝に一切近づけようとしないため、具体的な価値は何も分からなかったからです。しかし、実際にこの新城邸が建てられたことで、財産の莫大な価値は実証された。

……が、やはり現在も具体的な価値は家人ですら把握できていません。それは、僕が初めてこの邸宅に来た時点で、遺産についての話し合いを家族総出でしていたことからもはっきりしています。

これが、事件の背景にあった事実です。この話は、貴恵さんと新居さんが話してくれたことですが、お二人はここまでに何か訂正したいことなどはありますか?

新城秋穂

いえ、特にないわ。怖いほどに正確です。

新城賢太郎

ない。しかし、母さんも新居も余計なことを話したな。

新城賢太郎

そんなことは、事件となんの関係もないところだね。加賀くんは人の家庭問題を詮索した上に干渉しようとする人間なのかな?

加賀春樹

関係あるから、お話ししているんですよ。

新城賢太郎

では、どう関係する?

加賀春樹

僕は、さっき話したことについてキーワードは二つあると考えています。

新城秋穂

キーワード?

新城秋穂

何かしら。

加賀春樹

それは、"聡太郎さんの警戒心" と "財宝"です。

そしてそれぞれ、"聡太郎さんの警戒心" は不可能犯罪へ、"財宝" は動機へと繋がります。

新城賢太郎

具体的にどういうことか、君は説明できるのか?

加賀春樹

第一の事件を複雑化している、ある一つの要素が聡太郎さんの警戒心だとお話ししました。その警戒心の根源は財宝にあります。そして、財宝は聡太郎さんの自室の鍵付きの机の中の金庫にある。鍵は聡太郎さん自身が持ち、シリアルナンバーは聡太郎さん自身しか知らない。いずれにしても、聡太郎さんとしては自室から離れたくもないし、鍵を持っているために人と関わりたくないんです。

だから、聡太郎さんに用がある家人は、必ず一定の離れた距離で話すことを求められるし、近付けば大騒ぎされてしまう。

この事実が、額に突き立てられたナイフと矛盾するんです。防御創が一つもないのに、素直に"椅子に座ったまま"聡太郎さんは殺された。

ちなみに、死体が動かされたということや、聡太郎さんが寝ていたということはあり得ません。聡太郎さんはかなりの出血をしていて、もし動かしたのなら確実にその痕跡が残るはずです。しかし、その痕跡はなく、痕跡を隠したような道具も見つかっていません。何より、わざわざ殺してから椅子に座らせる必要がないのですからね。この点については、新城さんの推理と同意見です。

そして、新居さんの証言では、午前1時頃に部屋から薄明かりが漏れていたとありますし、新城さんの証言でも、聡太郎さんは寝る際には必ず鍵をかけるそうですね。見た限り、無理矢理に壊された痕跡もなかった。更には、死体の驚愕した表情を見るに、明らかに犯人を目撃しているが抵抗できずに殺されたというような状況だと推測できます。

加賀春樹

これが、不可能犯罪たる所以です。

新城賢太郎

よくまとめられているよ。それで動機については?

加賀春樹

動機は明白です。誰もが財宝による遺産を意識してしまいます。それなのに、聡太郎さんは健在で、あの様子だと誰にも渡さないという意志が伝わってきていました。もしかすると、永久に家人達に渡ることがないのかもしれない。

そんな不安から、犯人は確実に自身の懐に入れるため、聡太郎さんを殺害した。と同時に、犯人は私欲が抑えきれなかった。もしくは焦りが生じたのかもしれません。それが、第二の事件へと繋がります。

新城秋穂

第二の事件って、お義母様が誰かに殺された事件のことよね……。

加賀春樹

ええ。辛い話かもしれませんが、その件についても触れなくてはなりません。

「ちょっと待った」

新城賢太郎の声だった

新城賢太郎

その前に、犯人はどうやって父を殺したのか説明しないのかい。

加賀春樹

……え?

新城賢太郎

君が何を言おうとしているのか大体見当がつく。だから、先に言ってしまったらどうかと思ってね。

加賀春樹

……いいのですか?

加賀春樹

それが、貴方の身を滅ぼすことになるかもしれませんよ。

新城賢太郎

ああ。いいさ。

新城賢太郎

僕からの提案だ。

なんだこの余裕は?

僕は少し動揺した

新城賢太郎が指摘することは 事件の核心のはずである

それは この男もわかっているはずだ

実際に 初めて突きつけた時はパニックを起こしていたではないか

それに 僕と秋穂の前でも口を滑らせていた

それなのに なぜ、堂々としていられる?

訝しみながら しかし、負けじと突きつけた

加賀春樹

いいですよ。その提案に乗りましょう。犯人が一連の事件のトリックとして使ったのが……

加賀春樹

"マインドコントロール" ですよ。

新城賢太郎

やはり、そうきたか。

新城秋穂

マインドコントロール……。

加賀春樹

秋穂さんも居ますから、簡単にマインドコントロールについて話します。

マインドコントロールとは、ある人の思考や行動を操作することです。しかも、マインドコントロールされている人というのは、普通は自身が操作されていることに気付くことはありませんから、自分の考えや行動は自分の意思で選んだものだと錯覚します。

加賀春樹

僕はこの一種の心理操作が事件に使われたのではないかと疑っているんです。

新城秋穂

そんな恐ろしいものが、本当に使われたのですか……?

新城賢太郎

加賀くんの推理ではそうらしいな。馬鹿馬鹿しいと言わざるおえないが。

新城秋穂

あのう、夫の肩を持つようで悪いけれど本当にこの人がそんなこと出来るのかしら?

加賀春樹

それについては、これが証明してくれます。

加賀春樹

これは、この邸宅の資料室にあったもののコピーです。

内容としては、新城さんがマインドコントロールというものを研究していて、実際にそれが可能であることを証明したこと。マインドコントロールを使って、巷で話題になった新城さんの実験は、人の心を操って統計操作が行われた不正であったことが記されています。

僕は例の新城賢太郎博士による マインドコントロールについての実証記録及び統計操作の不正資料を見せた

加賀春樹

聞いた話によると、新城邸は外から施錠できる部屋というのが資料室に限定されているらしいですね。こんな山奥にある邸宅で、心理学に通じている人にしか分からないような資料をわざわざ厳重に管理していた理由……それは、貴方がマインドコントロールを使えるということを知られたくなかったからに他ならない。

新城賢太郎

……。

新城秋穂

そんな!!

新城賢太郎

話に流されるな。秋穂。

新城秋穂

信用できないわよ!!

新城秋穂

貴方は本当に、本当に……。

新城賢太郎

ちっ。うるさいな。

新城秋穂

何ですって!?

新城賢太郎は妻を無視して 僕に向き直った

新城賢太郎

加賀くん。まず、根拠はそれだけかい?

新城賢太郎

確かに、マインドコントロールを使えるということは認めよう。しかし、君の推理は状況証拠に頼りすぎだし、実際、僕が犯人であると結びつけるものは何もない。

加賀春樹

しかし、新城さんは先ほど秋穂さんに対して「お前もマインドコントロールして殺してやるよ」と仰いましたよね?

加賀春樹

聞き逃せない発言です。

新城秋穂

そ、そうよ。

新城秋穂

あれは明らかに人を殺したことがあるような言い振りだったわ!!

新城賢太郎

加賀くん。

新城賢太郎

君は愚かだね。

加賀春樹

何だって?

新城賢太郎

あれは僕の好きな"比喩"だよ。本当に殺してやろうとなんて思っていない。

新城賢太郎

ただ、時にマインドコントロールは人の心を壊してしまうことがあるから、それを"殺す"というふうに喩えた。

新城賢太郎

君も聞いていたんだって?秋穂もつい、カッとなって僕に強い言葉で当たっていたじゃないか。僕もそれと同じように、「殺してやる」なんて物騒な言葉を使ってしまったんだよ。

加賀春樹

苦しい言い訳ですね。

新城賢太郎

君も苦しい推理だ。

新城賢太郎

そこでまず聞きたいのだが、犯人がマインドコントロールを使ったというのなら、なぜわざわざ特定されるような手段を使ったんだ?

加賀春樹

それは、"バレない自信"があったからでしょう?

新城賢太郎

バレない自信だと?

加賀春樹

不正資料を見せた時、貴方は今までに見せたことがないほど動揺した。いや、あれはパニックになっていたと言っていいでしょう。あのパニックは、絶対に見つかってはいけないものが、絶対に見つからないと思い込んでいたのに見つかってしまったような反応でした。

事実、あれは資料室に厳重に管理されていたものだと言いますし、周囲の人間を同じようにマインドコントロールしてしまえば良かったんですから。

新城賢太郎

君の感想を交えて、あたかも真実のように話さないでもらいたいな。

新城賢太郎

それに、周囲の人間をマインドコントロールするとはどういうことかな。

加賀春樹

僕は自分もマインドコントロールされているのではないかと、不安になりました。だから、自力で色々と試してみると、気持ちが軽くなったような気がしました。貴方への疑念も正常に働き、実際に貴方が犯人であると確信に至るまで思えることができたんです。

新城さんの誤算は、あの資料が僕の手に渡るとは思わなかったこと。そしてそれがきっかけとなり、マインドコントロールを解かれてしまったこと。

この流れを予想できず、証言者全員を操作する自信があったから、堂々と犯行手段に用いたんです。

新城賢太郎

一つ正しいのは、資料が君の手に渡るのは誤算だったね。

加賀春樹

認めるのですか?

新城賢太郎

君が思っている意味とは違うよ。あの資料、どうやって見つけたんだ?

新城賢太郎

それに鍵は、新居が持っているはずだが。

加賀春樹

綾乃ちゃんが渡してくれたんですよ。

新城賢太郎

綾乃……?

新城秋穂

綾乃が……?

加賀春樹

ええ。

新城賢太郎

何故だ……しかし、本当にそれは……。

加賀春樹

続けてもよろしいですか?

新城賢太郎

……まあ、良いだろう。

加賀春樹

では。

加賀春樹

他にも、聡太郎さんに騒がれる前にマインドコントロールをして、他の家人に気付かれることなく殺せるというメリットがあります。

加賀春樹

これが、犯人が特定されるリスクを冒してまで、なぜ事件内でマインドコントロールを使ったのかという質問に対する答えです。

新城賢太郎

良いだろう。確かに、犯人としてはメリットがあるね。

新城賢太郎

……ただし、その犯人が僕だと証明するものは依然としてない。

加賀春樹

手がかりはまだあります。

新城秋穂

手がかりなんてあるの?

加賀春樹

例えば、新城さん自身の人間性についてです。

新城秋穂

人間性が、手がかりに…。

加賀春樹

犯人の動機と新城さんの人間性は酷似しています。それがよく現れているものに、メモと著書の内容があります。

まず、これは資料の端にメモされていることです。乱れた筆跡を見るに、よほど興奮していたのでしょう。そこには「私の名は、歴史に名を刻み広く知れ渡るであろう」と書かれていました。

また、著書の「心は解かれている」には、「私という存在は、歴史上類を見ない最も優れた教育者ということになるだろう」とあります。これは不正な研究を讃えた上での発言です。

以上のことを踏まえた上で、お二人の会話からも知れたことですが、日常的に先程までの態度を一貫していたのならば、厳しいことを言いますが、新城賢太郎、貴方は金と名誉に溺れた全くもって自己中心的な人間と言わざるおえないのです。そして今回の犯人のトリックや動機は、貴方とあまりにも一致しています。状況証拠だろうが、言い逃れは厳しいのではないですか。

新城賢太郎

いいや、厳しくないね。

新城賢太郎

本気で警察に君の憶測を伝えるつもりなのかな。だとすれば、迷惑がられて終わりだし、君の言葉で表すなら、言い逃れはいくらでも出来るよ。

加賀春樹

しかし、貴方が犯人で実際にマインドコントロールが使われたと考えると、全てが合理的に説明できます。

加賀春樹

ここまでは、第一の事件、聡太郎さん殺しについてでしたよね。

新城秋穂

そうね。それで、第二の事件というのがお義母様が関わる事件ね。

加賀春樹

はい。そうです。

加賀春樹

ところで、聡太郎さんの机の鍵が貴恵さんの手に渡っていたことはご存知ですか?

新城秋穂

えっ?知らないわ。

新城賢太郎

知らないね。

加賀春樹

これは新居さんの計らいで揉め事が起こらないように、事前に鍵を貴恵さんに渡していたようです。

そして、第二の事件で貴恵さんはポケットに入れて肌身離さず持っていたようなのですが、それが"無くなっていた"んです。これは不思議なことです。

新城秋穂

どうして?

新城秋穂

犯人は財宝に執着しているのよね。だったら、鍵を持っていくのは自然な流れなんじゃないかしら。

加賀春樹

聡太郎さんから貴恵さんに鍵が渡ったという話は、僕と貴恵さんと新居さんの"3人しか知らなかった"ことなんです。ホールから盗み聞きするにしても、廊下とは少し距離がありますし、事情を汲み取って小声で話していましたから、何を話しているか分からなかったはずです。

しかし、唯一聞き取れる場所があった。

新城賢太郎

それはどこだい?

加賀春樹

さっき、初めて知って思いついたんです。

加賀春樹

廊下突き当たりの"掃除用具置き場"ですよ。

新城秋穂

あー、あそこね!

新城秋穂

確かに、あそこなら人が隠れるのに適してると思うわ。

新城賢太郎

待て。君と母さんと新居くんだったな。3人で話していたのはいつだ?

加賀春樹

聡太郎さんが殺されたと分かってから、しばらく経った頃です。確か、午後12時を少しすぎたくらいでした。

新城秋穂

あっ!!

加賀春樹

どうされました?

新城秋穂

そう言えば、その頃、私はかなりショックを受けて食堂で休んでいたの。この人は付き添っていたのだけれど、大分落ち着いたから「もう大丈夫」と答えたわ。

新城秋穂

そうしたら、「トイレに行ってくる」と言って30分くらい帰ってこなかったのよ。だから、時刻はぴったり辻褄が合うわ!!

新城賢太郎

いや、おかしいだろう。

新城秋穂

何がよ?

新城賢太郎

なぜ、僕は3人が話す場所を予期して潜伏することができたんだ。

それに、犯人は皆が寝静まった間に父の部屋へと忍び込み、父が身につけているはずの鍵がなくなっていることに気づいた。鍵は自然に妻の貴恵へと渡ることを予測し、殺害して奪った……というシチュエーションだって考えられる。

加賀春樹

それは……そうですね。

ここにきて 初めてまともに反論を受けた

もうすっかり いつもの新城賢太郎に戻っていた

冷静さを欠いていない

不安になってくる

新城賢太郎

あと言いたいことがある。

新城賢太郎

第二の事件に関しては、"僕と秋穂はアリバイがある"はずだ。2人して夜更けまでずっと起きていたんだからね。

新城秋穂

あ!そ、そうだわ。すっかり忘れていたけれど、この人と雨が降り止んだのを見て、お義母様の部屋へ向かったんだったわ!!

新城秋穂

だとしたら、この人が犯人なんて有り得ないんじゃ……。

加賀春樹

いえ、犯人です。

新城秋穂

どうして?

加賀春樹

それについても、ずっと疑っていることがありました。第二の事件の重要なキーワードは "密室" ですよ。

新城秋穂

密室……そうね。お義母様の部屋は鍵がかかっていたわ。それなのに、あんな酷いことになってて。

加賀春樹

その密室を確認したのは、新城さんと秋穂さんだけです。

新城秋穂

え?

新城秋穂

そうだけど、それが何か?

加賀春樹

先ほども言いましたが、この事件は証言者全員がマインドコントロールにかかっている可能性があります。秋穂さんもそうです。密室を確認したという時点で、賢太郎さんにかけられていた可能性が高い。

新城秋穂

そんな!!

新城秋穂

私は確かに見たし、自分の手でも開けようとしたわ。でも開かなかった!!

加賀春樹

それがトリックです。密室であると誤認をさせて、あたかも初めからない密室殺人を作り上げた。もちろん、マインドコントロールして意識がない時に殺人も済ませていたはずです。

こんなことをした理由として、僕が発見した謎の穴で説明することができるんですよ。

新城秋穂

謎の穴?

新城秋穂

何でしょう?それ?

加賀春樹

貴恵さんのクローゼットと聡太郎さんのテレビスタンドの引き出しに通じる20センチ四方の穴がありました。これは、新居さんと僕で実験をしてみましたが、成人男性では通り抜けることはできない大きさです。女性だとぎりぎり通れるか、通れないかという大きさです。

この穴の意味……それこそが、犯人が密室を作る意味ともつながります。まず、この穴は"成人男性では通れない"という事実が非常に重要です。そして、"密室殺人"という要素を合わせて考えてみてください。その時点で、"犯人は成人男性ではあり得ない"という結論に至ります。

新城秋穂

ちょ、ちょっと!!

新城秋穂

それって私が犯人だと、加賀さんは言いたいんですか!?

加賀春樹

いえ、だから秋穂さんはマインドコントロールされていたと言えるんですよ。

新城秋穂

つまり、どういうこと?

加賀春樹

秋穂さんにマインドコントロールをして、密室があると誤認をさせる。その上で殺人を犯し、貴恵さんが不在の間に着々と作っておいた穴を用意する。そうすれば、新城さんは犯人ではあり得ないという状況を都合よく作り出せる。

つまり、"脱出のためではなく、自身が犯人から除外されるための穴"だったんですよ。

新城秋穂

そんなことが!!

新城賢太郎

"ありえないね"

冷徹な声音だった

暫く黙っていたかと思えば 唐突に口を開く

音もなく現れ、音もなく去る

飄々とした男

いつしか この男のことをそう形容した

まさに いつもの新城賢太郎であった

巨悪の俗物であったものは いつしか1人の賢人となっていた

……いや、騙されるな

仮面をかぶっているだけだ

僕も冷徹に言い返した

加賀春樹

……なぜですか?

新城賢太郎

加賀くん、君はマインドコントロールこそ事件の中核だと考えているね?

加賀春樹

はい。そうですが……。

新城賢太郎

君の推理は筋が通っている。それは僕も認めよう。しかし、主観に基づいた意見が目立つし、何よりマインドコントロールに対する認識が "間違っている" んだよ。

加賀春樹

……間違っている?

新城賢太郎

そうだ。僕は不正が明らかになったことでかなり動揺した。それも本当だし、一時的なマインドコントロールをしたのだから、どちらにせよ犯罪者だね。しかし、"人は殺していない"。

加賀春樹

そんなはずはありません。

加賀春樹

貴方は人を殺した!!

新城賢太郎

では、肝心のマインドコントロールについて説明しようか。

マインドコントロールとは、"長期間にわたって暗示をかけ続けなければ効果は見込めない"んだよ。

加賀春樹

嘘をつかないでください。資料にあった実験は大規模な統計調査でした。サンプル数は数万人に及ぶはずです。サンプル達……つまり、統計に参加した人たち数万人と長期間関わり続けたということになります。それはありえません。

新城賢太郎

言い方が悪かったね。

短時間でマインドコントロールをするとしても、"相手と至近距離で対話をして" あらゆる操作手段を用いれば、"瞬間的で単純な行動や感情を創り出す" ことは可能だよ。だから、例の実験は上手く行ったんだ。

しかし、僕の技量では "長期間の対話と暗示をかけた" 上で、事件のような複雑な心理操作が可能となる。この意味がわかるかな?

加賀春樹

……。

新城賢太郎

分かりやすく言えば、父と長期間対話をし、様々な暗示をかけ……これも、至近距離で行わなければならないのだが……その上で、ようやく椅子から動けず声も出せないという状況が作り出せるかもしれない。

しかし、君が前述してくれた通り、これは無理な話だ。いいかい。犯人は騒がれないために、そして確実に殺すため、額にナイフを突き立てる必要があるね。だから、君はマインドコントロールを使ったと仮定した。

でも実際は、僕が使うマインドコントロールを使おうと思えば、その時点で父に騒がれ、抵抗しようとするだろうね。いや、父以外も僕の不審な様子に警戒して暗示なんかかけさせてくれないだろう。

新城賢太郎

これでは本末転倒だ。

加賀春樹

う、嘘だ……。

新城賢太郎

嘘じゃない。

新城賢太郎

もうバレてしまったから見せても良いだろう。これが、そのマインドコントロールについてのより詳細な資料だ。

そう言って 新城賢太郎はデスクワークの上にある 山積みの資料を持ってきた

小さな文字で 試行の数値や考察が記されていた

先ほど新城賢太郎が語った マインドコントロールの詳細な情報は 赤いペンで傍線が引かれていた

難解な用語が多数出てくるが 内容は話と一致していた

つまり、嘘ではなかった

「それにね」

男……いや 人形は話を続けた

新城賢太郎

この研究はもちろん、単独研究というわけにはいかない。心の専門家が何人も関わってマインドコントロールを型にできたんだ。資料自体が偽造だなんて言わせないよ。

新城賢太郎

……まあ、それはここを出た後でも容易に調べがつくから証明も何もないのだけどね。

加賀春樹

そ、んな。

新城賢太郎

ああ、そうだ。秋穂にトイレと言って30分ほど席を外していた時があったという話をしていたね。

新城秋穂

え、ええ。

新城賢太郎

その間、僕は資料室でこの資料を隠蔽しようと思って探していたんだ。加賀くんのような人間が、僕を疑いだすとマインドコントロールがどうのと面倒なことを言い出しかねないと思ってね。もちろん、物陰に隠れて盗み聞き……なんて、加賀くんのような事はしていない。

加賀春樹

それは!!

新城賢太郎

仕方がなかった…かな?

新城賢太郎

じゃあ、"人の部屋に入ってこそこそと何かを調べる" のも仕方がなかった事なのかな?

加賀春樹

え!?

加賀春樹

なぜ、それを……。

新城秋穂

か、加賀さん……?

新城賢太郎

僕が急いで重い資料を持って寝室へ運ぼうとした。その時、僕たち夫婦の巣穴から出てきたのは、なんと我らが探偵の加賀春樹くんだったんだよ。

新城秋穂

本当なのですか?

加賀春樹

それは……本当です。

新城秋穂

ど、どうしてそんなこと。

新城賢太郎

いや、責めないでやってくれ。加賀くんは恐らく既に僕を疑っていたのだろう?

加賀春樹

……。

新城賢太郎

そしてその後、階段を上がってきた新居に鍵を渡して食堂へと戻ったというわけだよ。

新城賢太郎

さあ、もう一度考え直そう。どうやらこの探偵くんの話では、僕はマインドコントロールを使って父を殺し、物陰に潜んで聞いていた情報をもとに、母も殺して秋穂に密室というまやかしを見せて、事前に部屋に穴まで作っておいたらしい。

しかし、断じて言えることは……

にやにやしながら 意地悪そうに溜めてから言った

新城賢太郎

"僕が犯人ではあり得ない"ということだよ!!

絶望の轟だった

聞きたくなかった

新城賢太郎は犯人ではない?

それこそ、あり得ない

あらゆる符合が 新城賢太郎こそ犯人だと示している

……しかし

新城賢太郎のマインドコントロールは 万能ではないということが分かった

それは 事件の根底を覆してしまう証拠だ

全てが白紙になってしまうのだ

僕は焦っていた

新城賢太郎

……加賀くん、どうする?

新城賢太郎

犯人をもう一度探さなければならないね。

加賀春樹

……。

新城賢太郎

でも安心しなさい。僕は犯人の見当がついている。

新城秋穂

貴方、誰なの?

新城賢太郎

それはね……。

新城賢太郎

"加賀春樹"くん。君こそ、この事件の犯人なのではないかな?

加賀春樹

な、何を……。

加賀春樹

本当に何を言ってるんだ!?

僕が犯人だと?

そんなわけが……

加賀春樹

ぐぁっ!!

ずきり

頭が急激に痛くなった

何かで刺されたような痛みだ

声が……声が聞こえる……

殺せ

犯人だとバレたなら

殺せ

操作者以外を殺せ

全員殺してしまえ

さあ

額にナイフを

穿て

加賀春樹

うわあああああああ!!

新城秋穂

か、加賀さん!?

新城賢太郎

な、何だ?

加賀春樹

だめだ……。

加賀春樹

このままでは。

本当に

加賀春樹

本当に。

殺して

加賀春樹

……して。

殺してしまう!!

加賀春樹

うわあああああああ!!

僕は2人に走り寄った

警戒して2人は身構える

だめだ

もう終わってしまう

僕は殺人鬼なのか

殺せ

分かったよ

本当に殺すのですか?

誰だ

殺せ

いま、殺ってやる

踏み留まりなさい

どっちに従えばいい

加賀春樹

うぐぁぁぁっ!!

苦しい

苦しいよ

加賀春樹

うわあああああああああ!!

その時

「いやああああああああ!!」

プツッと糸が切れた感覚

僕は

加賀春樹

……はぁ。はぁ。

加賀春樹

ぼ、僕だ……。

なんとか気を取り直した

新城賢太郎

加賀くん…?

新城賢太郎

いや、ちょっと待て。君の様子も気にかかるが、それよりも……。

新城秋穂

今の声は……!!

新城秋穂は走り出した

賢太郎も妻の後を追おうとしたが 僕に肩を貸してくれた

そして 急いで悲鳴の聞こえた方へと走っていく

長い口論であった

僕と賢太郎が到着した頃には 秋穂は佇んでいた

その後ろ姿は 日光を受けて神秘的に映っている

しかし スポットライトは別の人に灯されていた

その人物は、椅子に座っていた

椅子の傍らには 悲鳴を上げたであろう本人がいる

口元を押さえて 椅子に座る人物を見ている

皆が注目する主役に、僕も目を奪われた

その、一脚の椅子には

少女が1人 "首を刺されて" 死んでいた

マーダーゲームZERO

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