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この日も優真さんは病院に行っていた
梶原さんに付き添われてあすみさんの元へ行き
彼女の手をずっと握っていた
梶原さんに促されなければ食事もしないほど
彼女のそばを離れたくなかったのだろう
優しく語りかける優真さんに
少しずつ話せるようになった彼女が答える
特に何かを話したわけではなかった
他愛のない会話が続く中で
あすみさんは突然、涙を流し
井川あすみ
井川あすみ
井川あすみ
優真さんに訴えかけてきたと言う
井川あすみ
井川あすみ
三村優真
まだ弱々しい彼女の言葉が優真さんの心に響く
溢れ出る彼女の想いに
優真さんはなんとしても答えたかったが
やはり病院の規則を破ることはできず
ここに戻ってくるしかなかった
戻ってきたところに龍一さんが乗り込んできて
さっきのような状況になったのだが
そばにいたいと思う気持ちは優真さんも同じ
でも彼女は退院したら養護施設に入る可能性が高い
全く血縁関係がなく親戚でもない優真さんが
まだ未成年の彼女と一緒にいることはできない
そんな状況で龍三さんが発した”里親”と言う言葉に
優真さんは驚き動揺している様子だった
私もその言葉には驚いたが
この問題には大きな壁があり
龍三さんはその事を知らなかったようだ
高城寛貴(所長)
高城寛貴(所長)
三村龍三
龍三さんは優真さんのために色々と調べていた
里親となり一定期間を共に過ごせば
養子縁組をすることが可能になる
"里親"や"養子縁組"で検索するとこれらの情報は出てくる
しかしそれは同じ県内での場合で
山梨に住んでいる龍三さん達が里親になることはできない
里親ではなく養子縁組をすると言う選択肢もあるが
親権者の同意と家裁の許可が必要であり
親権者の方はどうにかできても家裁の方は難しく
あすみさんと全く面識のない龍三さんに対して
家裁の許可が下りる確率はかなり低い
しかも優真さんは一度は警察に捕まり勾留されていた
そんな優真さんの身内に対し許可が下りるとは考えにくい
所長の説明を聞いた龍三さんは黙ってしまった
電話越しで顔は見えない状態だが
龍三さんの思いが伝わってくる
大切な孫のために
必死に調べてくれていたのだろう
優真さんは泣きながら
三村優真
三村優真
何度もそう呟いた
こうなるともう
あすみさんに残された道は一つしかない
高校卒業までの期間を児童養護施設で過ごす
その間に
カウンセリングを受けて心身の傷を癒し
養護施設を出てから自立できるようにする
あすみさんにはもう頼れる家族や親戚はいない
やっと見つけた親戚からも受け入れを拒否されてしまい
あすみさんの実の祖父も服役中で会うことすらできない
三年後、二十歳になった静(じん)さんが申し出たとしても
きっと彼女は拒絶するだろう
母親の命令とは言え
自分に身体的、精神的、性的な虐待をした張本人なのだから
私は静さんも被害者だと思う
それだけかすみさんの存在は恐ろしいものだった
全ての元凶は今は亡きトキ子さんなのだが
トキ子さんが亡くなってからかすみさんの虐待は激化し
静さんはかすみさんの命令に従うしかなかった
あすみさんにとっては地獄のような五年と言う期間
そこからやっと解放されつつある今
彼女は優真さんのそばにいたいと願い続けている
どうすれば彼女の望む通りにすることができるのだろうか