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好きだ 瀬戸山
息が止まるかと思った。
そのくらい”これ”は衝撃的なものだった。
黒田希美
首を傾げてそっと呟いてみるけれど、
誰かが答えてくれるはずもない。
手紙を見ては教室を見渡して、
また手紙に視線を戻す。
文字は当然、一文字も変わらない。
周りに座っている生徒たちも、
教卓で授業を行っている先生も、
今、わたしがラブレターらしきものを受け取ったなんて思ってもいないだろう。
わたしだって、こんなもの貰うとは思ってもいなかった。
信じられない現状に、頭がついていかない。
頬に手を当てて目を瞑り心を落ち着かせる。
とりあえず冷静に考えよう。
すうっと息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。
そして、再び手紙に目をやる
『好きだ 瀬戸山』。
書かれているのはこれだけ。
黒田希美、というわたしの名前は記されていない。
高鳴る胸を抑えながら、頭を降って心を落ち着かせる。
生まれて初めてラブレターを貰ったからといって、安易に喜んでは駄目だ。
だって、差出人は”あの”瀬戸山くんなのだから。
瀬戸山くんは、わたしと同じ学年の理系コースの男の子だ。
ちなみに、わたしは文系コース。
理系コースと文系コースは校舎が分かれていて、一階の渡り廊下でだけつながっている。
わたしがこの校舎に足を踏み入れるのは、水曜日の四時間目、数Bの選択授業の週に一度だけだ。
つまり、今いるこの教室は理系コースの二年E組だ。
確か瀬戸山くんのクラス。
しかも、理系と文系は授業も全く違うので、ほとんど接点がない。
そんな彼がわたしを知っているはずがない。
ましてや好きになるなんて考えられない。
そう考えると、この手紙はわたし宛てではない可能性が高いだろう。
たまたま、今の時間、この席に座っているわたしが見つけてしまっただけなのかもしれない。
うん、そのほうがしっくりくる。
きっと、普段この席に座っている女の子に宛てた手紙だ。
と、思ったけれど。
それもどうだろう。