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午後の授業
窓から差し込む陽射しと、 チョークの音だけが 教室を満たしていた
──その時
「おい!!」 「止まれって言ってんだろ!!」
廊下から、 先生の怒鳴り声が響いた
クラスメイトA
クラスメイトB
次の瞬間
(ドンッ! ) (ガンッ!)
丸山元
花
何かがぶつかる鈍い音が 連続して、教室の空気が 一変する
ざわ、とクラスが揺れた直後、 勢いよく教室のドアが開いた
立っていたのは──
鋭い目つき、だらしなく 羽織った制服
金髪のリーゼントで
周囲を威圧するような 空気を纏った、いかつい男
漫画で出てくるような 昭和ヤンキーだ
クラスメイトA
クラスメイトB
クラスの人達が 震え上がった
蓮
花
クラスメイトB
クラスメイトB
「鬼塚龍次郎!!」
クラスメイトB
「鬼の龍!!」
花
担任の先生が顔をしかめ、 強い口調で叱る
先生A
先生A
龍次郎
短く吐き捨てると、 彼は話を遮り、 踵を返した
龍次郎
先生A
そのまま出ていこうとした その瞬間
彼と私の視線が合う
ほんの一瞬だけ
私は心臓が跳ね上がり、 反射的に視線を逸らした
花
彼は何も言わない
ただ、意味ありげに 口の端をわずかに上げると、 教室を後にした
ドアが閉まったあとも、 教室には、嫌な静けさが 残っていた
教室のざわめきが、 ようやく落ち着いた頃
私は小さく身を乗り出して、 隣の白崎君に囁いた
花
蓮
蓮は一瞬だけ目を伏せてから、 短く答える
蓮
蓮
その名前に、 周囲の空気が少しだけ張りつめる
蓮
花
蓮
蓮
蓮
蓮
花
あの目つき、あの雰囲気。 納得してしまう自分がいた
昼休み
蓮
花
白崎君に誘われ、 私は小さく頷いた
屋上へ続く扉を開けると、 夏風がふわりと吹き抜ける
そして、フェンス際
コンクリートに 背を預けるように、 誰かが横になっていた
花
鬼塚君だ
制服を着たまま、両腕を後頭部に置き完全に寝ている
足音に気づいたのか、 鬼塚君はゆっくりと目を開けた
龍次郎
だるそうに起き上がり、 次の瞬間、視線が私に向く
龍次郎
龍次郎
低く、無愛想な声。 心臓が、どくんと鳴る
白崎君は気にした様子もなく、 笑いながら答えた
蓮
蓮
鬼塚君は一瞬だけ私を見たあと、 興味なさそうに視線を逸らした
龍次郎
龍次郎
それだけ言うと、 再びコンクリートに寝転ぶ
さっきまでの威圧感が 嘘みたいに、 鬼塚君は目を閉じた
蓮
龍次郎
それきり、完全に無視
私はほっとしたような、 それでいて少しだけ 引っかかるような気持ちで 息を吐いた
白崎君は私の方を向いて、 小声で言う
蓮
蓮
白崎君は苦笑しながら、 屋上の空を見上げた
花
それを聞いて、 なぜか胸の奥が、ちくりとした
眠る鬼塚君と、夏の空。
その間に挟まれた私は、 まだこの町で知らないことが、 たくさんあるのだと実感した
私は小さく息を吐いて、 白崎君の横でお弁当の包みを 膝に置いた
花
蓮
花
私の問いに、 白崎君は一瞬だけ言葉を 探すように黙った
蓮
視線を遠くに向けたまま、 白崎君はゆっくり口を開く
幼稚園の頃から、 俺たちはずっと一緒だった
鬼塚、瀬戸 それから俺
鬼塚は、 とびっきり喧嘩早かった
本当に、理由なんてなかった
誰かがぶつかった、 睨んだ、それだけで拳が飛ぶ
俺も瀬戸も、 まあまあ喧嘩は 強い方だったと思う
クラスで負けることは、 ほとんどなかった
でも── 鬼塚には、敵わなかった
幼稚園の園庭は、 いつも騒がしかった
ブランコ、砂場、鉄棒。 その真ん中で、また怒鳴り声が 上がる
男の子
女の子
年上の男の子が、 女の子の腕を乱暴につかんだ
女の子は、今にも泣きそうな顔で 唇を噛んでいる
その瞬間だった
「やめろおおおお!!」
鬼塚は男の子に飛び蹴り
ドン、という鈍い音
女の子は驚いて後ずさり、 それでも鬼塚の背中に隠れる
龍次郎
龍次郎
その言い方は、まるで 当たり前のルールみたいだった
先生B
先生が駆け寄ってくる
鬼塚は振り返らず、 女の子を庇ったまま言った
龍次郎
先生は困った顔でため息をついた
守ったとはいえ
結局、怒られたのは 暴力を振るった鬼塚だけだった
そのあと
園舎の裏で俺と瀬戸と鬼塚は 並んで座っていた
蓮
俺が言うと、 鬼塚は砂をいじりながら答える
龍次郎
陽斗
瀬戸はそう言って笑う
陽斗
蓮
陽斗
蓮
瀬戸は、さっき泣いてた 女の子の方を見る
女の子はもう泣き止んで、 友だちとお絵かきをしていた
陽斗
鬼塚が、ものすごい顔で 瀬戸を睨んだ
龍次郎
陽斗
龍次郎
龍次郎
瀬戸は一瞬きょとんとして、 それから肩をすくめた
陽斗
龍次郎
蓮
鬼塚はふいっと顔を背けた
龍次郎
白崎君は屋上に 寝転ぶ鬼塚君を見て、 苦笑した
蓮
蓮
蓮
花
蓮
私は、胸の奥が少しだけ 温かくなるのを感じた
怖い人じゃない
ただ──
ずっと、線を越えない人なんだ
白崎君が話し終えると屋上に、 ぱたぱたと軽い足音が響いた
陽斗
振り向くと、 瀬戸君が屋上の階段から 顔を出していた
陽斗
蓮
陽斗
瀬戸君はちらっと私を見ると、 いつもの調子で肩をすくめた
陽斗
花
陽斗
陽斗
陽斗
そう言って瀬戸君は 当たり前のように 白崎君の隣に腰を下ろした
鬼塚君は寝転んだまま、 片目だけ開ける
龍次郎
陽斗
白崎君は笑いながら、 鬼塚君の足を軽く蹴る
蓮
龍次郎
鬼塚君はそう言って、 ゆっくり体を起こした
四人で、屋上に円ができる
風が吹いて、 フェンス越しに 街の音が流れ込む
蓮
陽斗
陽斗
龍次郎
陽斗
蓮
私は、三人のやりとりを 黙って見ていた
会話は荒っぽいのに、 不思議と空気は穏やかで
誰も無理に入ってこいとは 言わない
でも自然とその輪の中に いる気がした
鬼塚君が、ふと私を見る
龍次郎
龍次郎
一瞬、体がこわばる
でも鬼塚君はそれ以上 何も言わず、 ただ一言だけ付け足した
龍次郎
それだけ
私は少し驚いて、 小さくうなずいた
花
陽斗
龍次郎
白崎君はそんな二人を見て、 静かに笑った
その日のお昼休みは、 特別なことは何も起きなかった
ただ、幼馴染三人と私
屋上で一緒にご飯を食べただけ
なのに、なぜか
ここにいてもいいんだ
初めてそう思えた