テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ある休日の夜のこと
母がいつものように お風呂を沸かそうと していたが──
母
蛇口をひねっても、 出てくるのは冷たい水だけ
母
母
母
母
花
母
母
母
花
花
母
母
花
母
母
花
お母さんは脱衣所から お風呂セットを持ってくる
母
母
花
夜の空気は、ひんやりしていた
街灯がぽつぽつと灯るだけの道
昼間はなんでもない道なのに、 夜になると、やけに心細い
花
花
バッグの紐を、 無意識に握りしめる
その時
後ろから足音が聞こえた
──コツ、コツ
心臓が跳ねた
花
思わず振り返ろうとした、その時
「花?」
花
聞き覚えのある声がして、 思わず肩が跳ねた
振り返ると、そこにいたのは──
花
「白崎君?」
後ろにいたのはなんと 白崎君だった
蓮
蓮
蓮
花
花
蓮
蓮
花
蓮
蓮
花
花
花
蓮
蓮
そんな偶然ある? と思いながらも、 胸の奥が、少しだけ軽くなる
蓮
蓮
白崎君の言い方は、 いつも通り控えめで、 押しつけがましくない
私は、少し間を置いて答えた
花
さっきまで怖かった夜道が、 不思議と静かになる
蓮
花
花
蓮
花
蓮
蓮
歩く速さも、私に 合わせてくれている
街灯の下、 二人の影が、並んで伸びた
花
落ち着く
そう思ってしまった自分に、 少し驚きながら
私は、湯気の立つ銭湯の 看板を見上げた
銭湯
私達は番台のおばあさんに 並んでお金を払う
番台のおばあちゃん
蓮
花
番台のおばあちゃん
番台のおばあちゃん
蓮
蓮
花
それだけ言って、白崎君は 青い暖簾の向こうへ消えていった
脱衣所に入ると、 ふわっと石鹸と 湯気の匂いが広がる
服を脱ぎ、体を洗い、 そっと湯船に足を入れる
じんわりと、体の芯まで温かい
肩まで浸かると、 今日一日の疲れが、 少しずつ溶けていく
その時だった
蓮
壁の向こうから、声がした
一瞬、心臓が跳ねる
男湯と女湯を隔てる壁越し。 確かに、白崎君の声だった
返事をしたいのに、 喉がきゅっと縮こまる
花
私は、湯船の縁を ぎゅっと掴んで、 勇気を振り絞った
花
自分でも驚くほど、か細い声
蓮
壁の向こうから、 安心したような声が返ってきた
蓮
花
蓮
それ以上、 会話は続かなかったけれど、 不思議と心は落ち着いていた
……聞こえる距離に、いるんだ
そう思うだけで
湯船から上がり、 髪を乾かしたあと 番台の前に戻るともう 白崎君がいた
畳ベンチに腰掛けて、 片手に二本の牛乳瓶
蓮
花
白崎君は、牛乳瓶一本を差し出す
蓮
花
私は受け取ると、 牛乳瓶はひんやりと冷たい
栓を開けて、口をつける
ごくっと飲むと、 さっきまでの湯の熱が、 すっと引いていく
花
思わず言うと、 白崎君は目を逸らした
蓮
そしてまた、並んで牛乳を飲む
夜の銭湯。 湯気と、街灯と、静かな空気
花
そう思いながら、 私は瓶を両手で抱えた
銭湯を出て、 私たちは来た道とは 反対方向へ歩き出した
花
蓮
私は、それ以上 何も言わずに歩いた
靴音だけが、夜道に響く
白崎君は、何度か ちらりと私を見る
私は足を止めた
蓮
立ち止まった私に、 白崎君も足を止めた
街灯の下で、私は顔を上げる
自分でも驚くほど、 真剣な目をしていたと思う
花
花
白崎君は一瞬だけ目を見開いて、 すぐにゆっくりうなずいた
蓮
蓮
その言葉に、 胸の奥が少しだけ緩んだ
花
花
花
白崎君は何も言わない。 ただ、真剣な眼差しで 聞いている。
小さな園庭
「なんかムカつくんだよ」
私は何もしていないのに、 押される
それと同時に聞こえてくる笑い声
私はこの声に囲まれて ずっと生きてきた
小学生になると、 今度は「体」のこと
「でっか」「きも」
教室中に響き渡る男子の声
女子は見て見ぬふり
中学では、 それがもっと露骨になった
机に落書き。 廊下で肩をぶつけられる
「調子乗んなよ」
先生も、クラスのみんなも 助けてくれなかった
でも
一番、怖かったのは── 笑いながら近づいてくる “男の声”だった
花
花
花
花
花
花
花
花
言葉を選びながら、 ぽつり、ぽつりと話す
花
「男の人が怖くなった」
花
花
言い切った瞬間、 胸がぎゅっと締めつけられた
花
私は、白崎君を見た
花
花
花
しばらく沈黙。 白崎君は、すぐに何かを 言わなかった
その代わり、 少しだけ距離を取って立った
花
そう思った瞬間
蓮
蓮
私は顔を上げる
白崎君はまっすぐ前を 見たまま言った
蓮
白崎君は拳をぎゅっと握っている
蓮
蓮
その言葉に、 胸の奥が、熱くなった
蓮
蓮
蓮
私は何も言えなくなって、 ただ、うつむいた
しばらく歩いてから、 白崎君がぽつりと聞いた
蓮
蓮
私は、少しだけ考えてから答えた
花
蓮
夜風が、スカートの裾を揺らす
花
白崎君は、 何も言わずに聞いている
花
花
花
私は、苦笑いした
花
花
花
数秒の沈黙。 そして次の瞬間
蓮
白崎君が、 声を出して笑った
蓮
花
蓮
笑いながらも、 すぐに真面目な顔に戻る
蓮
花
花
花
花
花
街灯の下で、私は足を止める
花
私は顔を上げて、白崎君を見る
花
花
花
花
花
白崎君は何も言わずに聞いていた
花
花
花
花
私は白崎君を見る
花
花
花
言い終えたあと、 胸がどきどきした
白崎君は、 少しだけ視線を 逸らしてから言った
蓮
それから、真っ直ぐ私を見た
蓮
蓮
蓮
蓮
蓮
蓮
その言葉に、 胸の奥がじんわり温かくなった
花
花
蓮
花
私たちはまた歩き出す
遠回りの道。 でも不思議と、近く感じた