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その日は、蓮君が学校に 来なかった
親戚の法事があるから休む、 と前日に聞いていたけれど
いざ一日中姿を見ないと、 教室が少し広く感じた
放課後
特に誰かと約束が あるわけでもなく、 私は一人で下校することにした
学校前のバス停
いつもと変わらない風景、 いつもと変わらない時間
制服姿の生徒が数人、 無言で並んでいる
バスが来て、私は乗り込む
ICカードをかざし、 自然といつもの席へ向かう
窓側、一番後ろ寄りの席
座ると、肩の力が少し抜けた
窓の外を流れていく景色を、 ぼんやりと眺める
夕方の光が、 アスファルトを淡く照らしていた
花
花
そう思った、その時
バスが交差点の手前で減速した。 視界の端に、人だかりが映る
花
だらしなく羽織った制服
金髪のリーゼントで
周囲を威圧するような 空気を纏った、いかつい男
鬼塚君だ
彼は、見知らぬ他校の男子と 向かい合っていた
肩がぶつかったのか、 何か言い合っているのか
相手の男が、 鬼塚君の胸ぐらを掴んだ
周囲の空気が、一気に張り詰める
私の喉がひゅっと鳴った
花
頭より先に、体が動いた
私は座席から身を乗り出し、 迷いなく降車ボタンを押した
バスはそのまま、次の停留所に 向かって減速していく
私はぎゅっと手を握りしめた。 心臓がうるさくて、 呼吸が少し浅くなる
それでも、 目は外から逸らさなかった
──行かなきゃ
バス停から現場までは、 思った以上に距離があった
私は息を切らしながら走った
制服のスカートが 足にまとわりつき、 肺がひりつく
花
電柱の影に身を寄せ、 そっと覗いた瞬間
目の前の光景に息が止まった
鬼塚君と、他校の不良たち。 すでに言い合いの段階は 終わっていた
殴り合いが始まっていたのだ
拳が振るわれ、鈍い音が響く。 鬼塚君も応戦しているが、 多勢に無勢だった
次の瞬間だった
相手の拳が、鬼塚君の頬に 叩き込まれた
重たい音とともに、 鬼塚君の体がよろけ
──そのまま地面に倒れた
花
花
見ていられなかった
気づいた時には、 もう足が動いていた
電柱の影から飛び出し、 倒れた鬼塚君の前に、 庇うように立ち塞がる
龍次郎
鬼塚君が顔を上げる
龍次郎
低く、必死に止める声
けれど、私の足は動かなかった
全身が震えている。 膝も、指先も、歯も
でも、“あの時”の…… “あの人たち”みたいには なりたくなかった
花
頭が妙に静かだった
怖いはずなのに、 感情が追いついてこないのだ
まるで、自分が自分じゃない みたいだった
他校の不良たちが鼻で笑う
花
不良A
不良B
不良C
嘲る声が、容赦なく降り注ぐ
さらに、その視線が 私に向けられる
だんだんと視界が潤み出す
不良A
不良B
不良C
その言葉が、胸に刺さる
中学時代の記憶が、鮮明に蘇った
廊下、囲まれる視線、笑い声、 逃げ場のない空気
体がぴたりと固まる
花
喉が締め付けられる。 でも……
私は、ぎゅっと唇を噛みしめた
足に力を込める。 視線を、下げない
震えた声で、 それでも──前に出る
花
不良B
龍次郎
花
「私を殴って ください!!」
龍次郎
その瞬間
遠くから、 サイレンの音が聞こえてきた
不良たちが舌打ちする
不良A
不良B
不良C
彼らは一斉に背を向け、 走り去っていった
その場に残されたのは、 立ち尽くす私と、 地面に座り込む鬼塚君だけだった
私は息を整える暇もなく、 鬼塚君の腕を肩に回した
自分より一回りも大きい体は、 正直重い
それでも足は止まらなかった
花
鬼塚君は返事をしない
私は唇をきゅっと噛み、 ベンチに座らせる
鞄を開き、奥から 絆創膏を取り出す
震える手を抑えながら、 できる限りの手当てをする
花
花
鬼塚君は目を見開いた
花
花
花
鬼塚君は、何も言えなかった
龍次郎は 胸の奥がじわっと熱くなる
龍次郎
龍次郎
無意識に、そう口にしていた
私は驚いて顔を上げるが、 何も言わない
龍次郎
(こいつのこと……)
翌朝
法事を終えた蓮君と私は、 いつも通り並んで登校する
蓮
花
教室に入った瞬間、 空気が変わった
「姐さん!!!」
一斉に向けられる視線と声
花
クラスメイトA
クラスメイトB
クラスメイトC
私は固まった
そして蓮君も立ち止まる
蓮
そこへ、堂々と現れる鬼塚君
龍次郎
肩を組もうとして、 私の体はピシッと硬直する
蓮
龍次郎
龍次郎
龍次郎
花
鬼塚君は得意げに言い放つ
蓮
龍次郎
教室がどよめく。 私は完全にフリーズ。 蓮君は呆然としながら、 鬼塚君を見る
蓮
蓮
鬼塚君はニヤッと笑う
龍次郎
その日から私は、 クラスのみんなから 「姐さん」 と呼ばれることになった