倉林真風
修也

藤林修也
何だ?

私の車椅子を押してくれているのは、幼馴染の藤林修也。
ひとことも文句を言わず、私の車椅子を押してくれた。
倉林真風
クラス替え、どうなったんだろう?

倉林真風
見に行きたいな

藤林修也
おう

藤林修也
分かった

倉林真風
あ、修也と同じだ

藤林修也
今年もよろしくな

倉林真風
それ私のセリフだよ

藤林修也
そうか?

倉林真風
だって、いつも修也が車椅子押してくれてるからさ

藤林修也
ああ、そうだったな笑

藤林修也
でも、お前だったらいつでも押してやるぞ?

倉林真風
ありがとう!

加藤明奈
まーちゃん!

倉林真風
明奈!

加藤明奈
また同じクラスだー!

倉林真風
ああちょっと!

倉林真風
苦しい!

宮下雫
私にもさせてよ!

倉林真風
雫!加勢しないでー!!

藤林修也
まったく、学習能力ねえのかお前らは…

加藤明奈
あるよ!

宮下雫
バカにしないでよね!

藤林修也
…はいはい

渡辺楓
修也ー!

藤林修也
何だ、楓か

渡辺楓
お前また真風と同じクラス?

藤林修也
そうだけど?

渡辺楓
良かったなー?

藤林修也
う、うるせぇ!

倉林真風
?

佐藤颯
真風さん

倉林真風
どうしたの?

佐藤颯
同じクラス、ですよね?

倉林真風
うん!

佐藤颯
また1年間、よろしくお願いします

倉林真風
よろしく!!

藤林修也
真風、そろそろ教室に行くぞ

倉林真風
うん、お願い!

藤林修也
ああ

ホームルームが終わったあと、すぐに5月のスポーツ大会の種目決めが行われた。
先生
これから、スポーツ大会の種目決めをします

先生
その前に、倉林さん

倉林真風
はい

先生
あなたに、出てもらいたい種目があるんだけど…

倉林真風
私に出て欲しい種目?

先生
そうよ

先生
実行委員の子達が、あなたのために新しく作ってくれた種目よ

先生
障害物80メートル走って言うんだけれど…

先生
どうかしら?

倉林真風
えっと…ルールはどんな感じのものですか?

先生
宮下さん、説明してくれるかしら?

宮下雫
はい

宮下雫
まず、走者の人たちには、80メートルの距離を何かを運びながらゴールしてもらう

宮下雫
例えば、重いタイヤ二つとかね

宮下雫
真風はいらないよ

倉林真風
なるほど…

宮下雫
真風、ずっと何の種目も出られなかったでしょ?

宮下雫
だから、せめて高校最後のスポーツ大会は、何が出してあげたいなって思ったの

佐藤颯
宮下さん、この種目を却下したら、実行委員長を辞退するとか言い出したんですよ

加藤明奈
それ半分脅しじゃん…

宮下雫
とにかく、真風を出させてあげたかったの!

倉林真風
ありがとう、雫

倉林真風
出てもいいかな?

宮下雫
!

宮下雫
もちろん!

先生
じゃあ、決定ね?

先生
みなさん、よろしいですか?

全員
はい!

先生
では、倉林さんね

渡辺楓
真風、頑張れ!

藤林修也
俺も応援するから

倉林真風
うん!

倉林真風
頑張る!

それから、私はみんなにバレないように密かに練習していた。
みんな、重いタイヤ二つや、大量の段ボールなど、みんなは沢山の荷物を抱えていた。
倉林真風
っ…!

藤林修也
真風?

宮下雫
真風、どうしたの?

加藤明奈
まーちゃん!

佐藤颯
どうやら、力が抜けて、走れなくなってしまったようですね

渡辺楓
そうみたいだな

藤林修也
…!

藤林修也
真風!

先生
あっ、藤林くん!

倉林真風
(どうしよう)

倉林真風
(体に力が入らない…)

倉林真風
(このまま惨めに終わるだなんて、嫌!)

藤林修也
真風!

倉林真風
修也!?

藤林修也
肩貸してやる

藤林修也
行くぞ

倉林真風
いや、大丈夫

藤林修也
走れるのか

倉林真風
今なら、できる気がする

倉林真風
修也の顔見たら、元気出ちゃった!

藤林修也
!

藤林修也
(そんな可愛いこと言うなよ…)

倉林真風
さあ、修也は戻って

倉林真風
大丈夫だから

藤林修也
ああ

藤林修也
お前を信じてる

倉林真風
うん

倉林真風
信じて!

倉林真風
(えっ?)

倉林真風
(ふらつかない?)

倉林真風
(どうして?)

倉林真風
(いや、そんなことはいい)

倉林真風
(今が、一位を取るチャンスなんだから!)

倉林真風
はぁぁっ!!

藤林修也
真風!

宮下雫
普通に…

加藤明奈
走ってる…?

加藤明奈
どうして?

藤林修也
あいつ、病院の診断書を学校に提出してた

藤林修也
だから、病気だってことに嘘はない

渡辺楓
じゃあ、なんであんなに速く走れたんだ?

佐藤颯
みんなを喜ばせたいと言う、真風さんの気持ちが、叶ったのではないですか?

藤林修也
きっと、そうかもな

実行委員
第1レーン

実行委員
1着

実行委員
倉林真風さん

倉林真風
えっ?

倉林真風
私が、1位?

実行委員
そうですよ

実行委員
よく、頑張りました

倉林真風
!

倉林真風
ありがとう!

倉林真風
修也!

倉林真風
1位取れたよ!

藤林修也
良かったな!

藤林修也
真風!?

佐藤颯
失礼します

佐藤颯
ただ眠っているだけのようですね

佐藤颯
少し、安静にさせましょうか

藤林修也
分かった

倉林真風
ん?

藤林修也
真風、大丈夫か?

倉林真風
うん

倉林真風
私、ゴールしてから…

藤林修也
倒れたんだよ

藤林修也
きっと、疲れたんだ

藤林修也
車椅子まで運んでやる

倉林真風
ちょっと待って

倉林真風
その前に、試したいことがある

藤林修也
何だ?

倉林真風
私、普通に走れた

倉林真風
だから、今も足が動くか、見てみたい

藤林修也
分かった

倉林真風
ちょっと、歩いてみてもいい?

藤林修也
いいぞ

藤林修也
お前…!

藤林修也
どうして…

倉林真風
分からないよ…

倉林真風
でも、もう足が不自由ってことはないと思うよ!

そう言って私は修也の目の前で飛んだり跳ねたり、歩いたりする。
藤林修也
治った…のか?

倉林真風
うん、きっとそうだよ

倉林真風
今日、病院行くから、修也も来る?

藤林修也
行ってもいいなら、行きたい

倉林真風
うん、分かった

医師
…

医師
倉林さん

倉林真風
はい

医師
おめでとうございます

医師
検査の結果、完治していることがわかりました

医師
再発の可能性も、ほぼないでしょう

倉林真風
!

藤林修也
本当ですか!?

医師
ええ

医師
一つ質問があるのですが、よろしいですか?

倉林真風
はい

医師
なぜ、治ったのか、お聞きしたいのです

倉林真風
なぜ治ったか…

倉林真風
難しい質問ですね…

倉林真風
自分の足で歩きたいという意思を強く持ったことでしょうか

医師
意思…

医師
ありがとうございます

医師
もしかしたら、あなたと同じ病気を発症している方々も

医師
薬を使わずに完治させられるかもしれないと思いました

医師
私はなるべく、薬を使いたくありませんので

医師
今まで、お疲れ様でした

倉林真風
いままで、お世話になりました

藤林修也
ありがとうございました

医師
ええ

医師
お大事に

倉林真風
ごめんね、わざわざ部屋まで来てもらっちゃって

藤林修也
いいんだよ

藤林修也
一応様子見ねえとな

倉林真風
うん!

藤林修也
真風

藤林修也
足、出してくれ

倉林真風
ん?はい

倉林真風
な、何してるの?

藤林修也
え?キス?

倉林真風
それは分かってる!

倉林真風
何でこんなことするの?

倉林真風
こういうのは、好きな人とやらないと…

藤林修也
それがお前なんだよ

倉林真風
!?

藤林修也
ったく、さっさと気づけっての

倉林真風
何で私なんかに?

藤林修也
お前をみてて惚れねえ男達なんて逆にいねえと思うぞ

倉林真風
そ、そんなことは…

藤林修也
で、返事は?5秒以内に答えないと、強制的にYesと見なすよ

藤林修也
どうする?

藤林修也
5

藤林修也
4

藤林修也
3

藤林修也
2

藤林修也
1…

倉林真風
ああっ!

倉林真風
大好き!

藤林修也
!!

倉林真風
私は修也が大好き!

倉林真風
男の子として!

藤林修也
そんなストレートに言うなよ

藤林修也
可愛すぎるだろって…

藤林修也
真風

藤林修也
俺以外の男にベタベタ触るなよ?

倉林真風
喋るのもダメ?

藤林修也
喋るのはいい

藤林修也
ただ、必要以上に触るなってことだけだ

藤林修也
他の邪魔者が寄り付かないためにな

倉林真風
…分かった!

倉林真風
私、修也にもっとふさわしい彼女になれるように頑張るね!

藤林修也
…おう

加藤明奈
まーちゃん!?

宮下雫
真風!!

渡辺楓
真風!

佐藤颯
真風さん…!

倉林真風
みんな、私の病気、治ったよ?

加藤明奈
まーちゃんー

倉林真風
ちょっと、泣かないでよ!

宮下雫
いやいや

宮下雫
泣かずにはいられないでしょう!

渡辺楓
そうだな

佐藤颯
まさに、奇跡ですね

藤林修也
ああ、そうだ

藤林修也
病気が治っても

藤林修也
真風の隣は俺だ

藤林修也
な?

倉林真風
うん!

加藤明奈
まーちゃん、どういうこと?

倉林真風
私たち、付き合ってるの!

佐藤颯
!

渡辺楓
えっ!

宮下雫
うそっ!?

加藤明奈
マジで??

倉林真風
うん、マジ!

佐藤颯
楓くん、かわいそうに

渡辺楓
気持ちが全然こもってないよな、今の言葉

佐藤颯
気のせいでしょう、きっと

渡辺楓
(ぜったいざまあみろとか思ってそう…)

藤林修也
まあ、そういうわけだから、狙いに来るなよ?

渡辺楓
颯、あとでカフェ行くぞ

佐藤颯
いつも通りの愚痴ですね

渡辺楓
愚痴で悪かったな…

渡辺楓
でも今回は、とっておきの愚痴を用意してるから覚悟しとけ

佐藤颯
(今夜は帰りが遅くなりそうだな…)

藤林修也
真風

倉林真風
何?

藤林修也
愛してる

倉林真風
私も!

渡辺楓
お前ら…他の所でやれぇぇぇぇぇ!!!

佐藤颯
はいはい、楓くん、まずはここを離れましょう

渡辺楓
うわぁぁん!!

宮下雫
あいつらほんと馬鹿よねー

加藤明奈
馬鹿なのは楓だけでしょ

宮下雫
そうだけどさ…

宮下雫
颯も馬鹿だと思うでしょ、真風?

加藤明奈
あれ?

宮下雫
どこに行ったんだろう?

倉林真風
抜け出して来て良かったのかな?

藤林修也
たまにはいいだろ

藤林修也
どうせ自習なんだし

藤林修也
暇だろ

倉林真風
うん

藤林修也
真風

倉林真風
何?

藤林修也
目、瞑れ

倉林真風
うん…?

倉林真風
んんっ!

倉林真風
(まさかこれ、修也の唇?)

そっと目を開けると、キスをしている修也の顔がある。
倉林真風
(今の私は、とても幸せだなあ)

たった今しかない濃厚な時間を味わいながら、私は再び目を閉じた。