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ナチュラルに飴を上司への嫌がらせに使う妄想をする、女性遍歴から窺える人間性、女性を前にしても散らかし女が気になって仕方ない姿など、心情描写が沢山で読んでて面白いです!
今のこの時代にあんなヤツもいるんだな。
階段を下りながら、胸が少し痛んだ。
アメ…受け取れば良かったか。
でも、何年前のかわかんねぇようなアメ、食うわけねぇだろ。
ベトベトしてそうだし、腹、こわすよ。
俺にとって、未知との遭遇だった。
俺は今まであんなタイプの女性とは出会わなかった。
というか、出会わないようにしていた。
潔癖な俺にとって、あんな女は敵でしかない。
体がかゆくなってきた。
俺はトイレで手を洗い、顔も洗って
嫌な記憶を消そうとした。
会社に着いても忘れることができなかったのは
彼女が大事そうに拾っていたペン。
黒猫のマスコットがついたペンをとても大事そうに拾っていた。
またクロスケのせいだ。
それと共に脳裏に焼き付いているのは
俺がアメを断った時の寂しそうなあの子の笑顔。
笑ったんだよな、あいつ。
悲しかったくせにさ。
受け取ってやれば良かった。
受け取って
大嫌いな坂本部長の机にでも置いてやれば良かった。
坂本部長
坂本部長の嫌味な声が聞こえる。
五十嵐 爽太
坂本部長
心の中で舌打ちをし、俺はサラリーマンらしく
言われた通りにコピー機へと向かう。
コピー機の前に立ち、深呼吸。
俺は、『五十嵐爽太』 25歳のまだまだ新人。
先輩や上司からは無理な頼み事をされることも多く
それがストレスにならないように、俺なりに編み出した術。
自分よりもっと大変であろう人のことを考えることにしている。
今朝のあの子、仕事もできねぇんだろうな。
上司とか同僚からも、白い目で見られたりしてるんだろう。
怒鳴られてもニコニコ笑ってそうだし
同僚からもバカにされてそう…
字も汚そうだし
デスクとかぐちゃぐちゃなんだろうな。
部屋も間違いなくゴミだらけだろうし。
シーツとか1年くらい洗ってなさそうだし
あんなんじゃ結婚とか100%無理そ…
料理も掃除もできない女って、誰が好きになるんだよ。
って、俺はどこまで考えてんだよ。
でも、そのおかげで、上司へのイラ立ちは消えていた。
池田 清亜
声をかけてきたのは、 池田清亜だ。
今年で2年目になる営業補佐の子。
俺の仕事のサポートもしてくれている。
五十嵐 爽太
馴れ馴れしく『いがぴょん』なんて呼んでくる。
時々こうしてランチに誘ってきたり
飲みにも行く関係だけど
俺としてはそこに特別な感情はない。
俺の周りによくいるタイプの子で
俺に惚れていることは明白で。
最低だなって思うけど
そろそろ大人の関係に持ち込めそうだなと思っている。
そこに『好き』って感情は全然なくて。
自分でもこんな自分が嫌になるけど。
山口 櫂
隣の席の同期のぐっちーが俺の肩に手を乗せた。
山口櫂 (やまぐちかい)
肉の好きなぐっちーとは、近くの美味しい肉屋巡りをしている。
五十嵐 爽太
山口 櫂
五十嵐 爽太
山口 櫂
2人の間での、清亜のあだ名はピンキー。
ピンクの服
ピンクの小物
ピンクのネイル。
男が好きそうなもんばっか持ってる。
クルクル巻いた髪、香水
男受け意識してるのがバレバレ過ぎて
女子社員からは浮いている存在。
山口 櫂
五十嵐 爽太
誘えばすぐにでもホテルに行けそうだけど
その後のことを考えると…
俺は今誰とも付き合う気がないってこと
この先も君とは付き合わない…
ってちゃんとわかってもらった上で。
山口 櫂
五十嵐 爽太
ぐっちーが俺の背中を叩きながら笑う。
山口 櫂
山口 櫂
五十嵐 爽太
こんなバカな会話をしながらも
仕事はきっちりとこなす優等生な俺とぐっちーは
社内でも期待されている。
ぐっちーに言われなくても
俺は自分の最低さに気付いているのに
止めることができずにいた。
また、思い出してしまった。
今朝の子。
あの子の純粋さをほんのちょっとでも俺にくれないかな。
いつから俺はこんな風になってしまったんだろう。
池田 清亜
上目遣いで俺を見る清亜。
この辺りでは人気の
イタリアンレストランでランチ。
五十嵐 爽太
池田 清亜
って何がどう絶妙なんだ。
池田 清亜
五十嵐 爽太
池田 清亜
ただのペンネでこんなにも感激できる清亜も
それはそれで純粋なのかもしれない。
俺は、好きな相手には好かれない。
どーでもいい女から好かれるんだけど
その理由はぐっちーと検証済みだ。
女ってのは
こーゆー風にツンツンされんのが好きなんだ。
ツンツンしているおかげでちょっと優しくした時に
すげー優しいって思われる、らしい。
俺は気に入った女の子にはツンツンできないらしい。
自覚はないけど。
じゃあ、俺は一生本当に好きな人には愛されないのだろうか。
ぐっちーに言われたっけ。
そんな心配する前に、自分がまず誰かを本気で好きになってみろって。
池田 清亜
五十嵐 爽太
池田 清亜
五十嵐 爽太
池田 清亜
唇についたトマトソースをペロリとなめる清亜。
エロい。
『男心を掴む仕草100』とかいう本を読んでるな、これ。
悪い子じゃないけど
こーゆータイプには飽き飽きしている。
20歳からの俺の彼女はだいたいこんな感じだった。
五十嵐 爽太
清亜は一瞬嬉しそうな顔をして
自分のカバンの中を覗き込む。
池田 清亜
そう言いながら、メイク道具、財布
ハンカチ、手帳を出す。
池田 清亜
出た!
ハンドクリーム。
清亜が持ってると、まあ納得なんだよな。
五十嵐 爽太
池田 清亜
五十嵐 爽太
池田 清亜
薄く、整った財布。
これが基本だ。
でも、面白くねぇな。
今日の散らかり女の財布の中、見てみたい。
面白いもんがゴロゴロ出てくるんだろうな。
レシートとポイントカードだけで膨れ上がってそうだし、
そのほかにも絶対変なもん入ってる。
五十嵐 爽太
池田 清亜
時々馴れ馴れしくなるこの口調に
若干イラっとする。
それなのに、俺はこの先に期待していて。
クズだな、俺。
五十嵐 爽太
五十嵐 爽太
池田 清亜
五十嵐 爽太
五十嵐 爽太
池田 清亜
池田 清亜
五十嵐 爽太
池田 清亜
五十嵐 爽太
池田 清亜
池田 清亜
池田 清亜
初めて清亜に興味を持った。
ようやく見つけた共通点。
五十嵐 爽太
池田 清亜
五十嵐 爽太
清亜は、あはははと笑った後に、真剣な顔をした。
池田 清亜
近いうちに、俺は清亜とホテルに行くことになるだろう、と思った。
同じような女性にばかり近づいてしまう俺だけど…
いつかちゃんとした恋ができるんだろうか。
その相手は、この子なのか?
アイスコーヒーを飲む清亜を見つめながら俺は言った。
五十嵐 爽太
池田 清亜
五十嵐 爽太
清亜は、嬉しそうにニコニコ笑って
コーヒーを飲み干した。
胸の奥がチクンと痛む。
夢を見た。
帰りの電車の中で。
あの散らかり女の夢。
みんなが散らかり女に向かって
『汚ねーな』『あっちいけ』って言ってて
俺はそれをただ見ていた。
散らかり女が悲しそうに俺を見て微笑んだ。
それから数日が経ったが
散らかり女には遭遇しなかった。
ホッとしている反面
怖いもの見たさみたいな興味もあった。