—23:45—
充
おいデブ
茉莉
はあ?いきなりウザいんですけどー
充
デブはデブだろ
充
日曜登山行くけどお前も来る?
茉莉
むりむりー
茉莉
充歩くの早いんだもん!
充
少しならデブに合わせてやってもいいぜ
茉莉
どうせ口だけでしょー
茉莉
あと、デブデブ言うな!
充
事実だろ
茉莉
日曜は合コンで知り合ったカズ君とデートだからパスー
充
ノリ悪ぃな
充
つまんねーの
茉莉
今度ケントたちと飲みいこー
茉莉
それで埋め合わせするわ
充
はいはいー
デート当日
カズ
茉莉ちゃん仕事どう?
茉莉
そうですね…うーん
カズ
いやー実はさ会社の売上に一番貢献してんの俺なのよね
カズ
この間の商談も俺の手柄っていうか
カズ
俺の会社俺居ないと成り立たないんだよね~
カズ
話変わるけど、茉莉ちゃん週末何してるの?
茉莉
そうですね…ええっと
カズ
俺さ、フットサルやるんだけど
カズ
この間の大会もMVPだったんだよね~
カズ
俺のチーム俺居ないと成り立たないんだよね~
—18:30—
茉莉
選択肢誤ったー
茉莉
自分の話しかしないナルシスト男ほんと無理ー
茉莉
私も充と山行けばよかったな…
帰宅後
—22:45—
充
俺は茉莉のことがずっと好きだった。付き合ってほしい
茉莉
えっ!?
茉莉
唐突すぎでしょ!?
茉莉
充…そんなこと思ってたの?
茉莉
びっくりしたけど…
茉莉
いつも気にかけてくれる充のこと…別に嫌いじゃない…
茉莉
うれしい
茉莉
今から話せない?
茉莉
既読ついた
—22:50—
充
すみません…実は私はこのスマホの持ち主ではありません
茉莉
え?乗っ取り?
茉莉
どういうこと?
茉莉
あなた、充じゃないんですか?
充
はい
充
乗っ取りではありません
充
私、都内の会社員、鈴木勝と申します
充
このスマホを拾ったのですが、電池が切れていたので
充
今、宿で充電をしてようやく電源がついたところです
充
チャットの一番上位に出てくる方に発信すれば
充
この持ち主の方につながるかと思い確認したところ
充
内容だけ入力して
充
未送信のメッセージがあったようで
充
誤って僕が送ってしまいました
茉莉
そうでしたか
茉莉
それで、充のメッセージが送られたってこと…?
充
なんだかすみません…
茉莉
いいえ
茉莉
充のスマホ拾ってくださってありがとうございます
茉莉
彼の実家は近所なので、所在を確認してみます
充
ありがとうございます
充の実家前
茉莉
おばちゃん、ちょうどいいところに!充は?
茉莉
山からもう帰ってきた?
充の母
茉莉ちゃん…
茉莉
今、充のスマホ拾ったって人から連絡があったのよ
充の母
今、警察から連絡があって…
充の母
充が高尾岳の登山の途中、滑落して亡くなったって…
茉莉
えっ……
—23:10—
茉莉
鈴木さん
茉莉
あなたが昇った山って高尾岳?
充
ええ。そうです
充
スマホは川べりで偶然拾ったんです
茉莉
実は今充の所在を確認したら…
茉莉
今日高尾岳で滑落して亡くなったって…
—0:30—
充
すみません
充
どんな言葉をおかけしたらいいのかわかりませんが
充
高尾岳山中は電波がありません
充
あのメッセージは充さんが
充
最後にどうしても伝えたかった言葉なのかもしれません
水曜日
葬儀の帰り道
茉莉
葬儀も全部終わっちゃった
茉莉
あっけない
茉莉
こんなに簡単に別れがくるなんて…
茉莉
両想いなのに、もうこの恋が叶わないなんて辛い
茉莉
私、恋はしばらくお休みしよう
茉莉
あれ?
勝
すみません
勝
高尾岳で充さんのスマホを拾った鈴木勝と申します
勝
充さんのご家族の方でしょうか?
茉莉
鈴木さんですか
茉莉
私、チャットをいただいた広瀬茉莉です
茉莉
充とは隣人なんです
茉莉
わざわざ、持ってきてくださったんですね
勝
あなたが茉莉さん、でしたか
茉莉
家族はしばらくは戻ってこないと思います
茉莉
スマホと、お花、私が預かっておきましょうか?
勝
すみません
勝
次も商談の予定があり、助かります
茉莉
では、お預かりしますね
勝
あの…
勝
このスマホを持ち主にきちんと届けようと思ったのは親切心からでした
勝
ですが、とんでもないお節介で
勝
あなたを余計に悲しませてしまったのかもしれません
茉莉
いいえ。そんなことは…
茉莉
もしかしたら誰にも拾われず、雨に濡れて壊れて
茉莉
充の思いなんて永遠に知ることなく終わったかもしれません
茉莉
だから、私はこの偶然とあなたに感謝してもしきれません
勝
茉莉さん…
茉莉
まあ…しばらく恋はお休みしようかな、と思っていますが
勝
……
勝
充さんのメッセージを読んだ後
勝
あなたは、嬉しいとおっしゃった
茉莉
ええ…本音でしたから…
勝
あなたの埋まらない気持ちはきっと永遠に埋まらないと思います
勝
しかし、僕にできることがあったら頼ってくれませんか
茉莉
えっ?
勝
思いの媒酌人になってしまった以上
勝
あなたの思いを癒す役目も僕にはあるのかと
勝
これ、僕の電話番号です
数年後
茉莉
勝は私の夫になった
茉莉
この幸せを運んでくれた充は
茉莉
私にとって一生大切な人であることに変わりはない







