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コメント
1件
ああ、この回すごく良かったです……!「お前呼び」をやめてほしいっていうお願い、ただのわがままじゃなくて日奈子さんの過去がちゃんと背景にあるのが効いてる。陸も押し付けるんじゃなくて、じゃあ呼び捨てで、敬語なしでって誠実に歩み寄ってくる感じがたまらないです。最後の「なんか、楽しいかも」で思わずにやけました。心の距離が縮まる瞬間の描き方が絶妙です〜!
管野アリオ
847
#大人ロマンス
桃下結衣
320
#ロマンスファンタジー
Jasmine
1,008
唐突な申し出に、思考が一瞬停止した。
驚きで大きく見開かれた日奈子の瞳を、彼は逸らすことなく、真っ直ぐに見つめている。
掴まれた手首からは、彼の大きくて温かい体温がじんわりと伝わってきて、胸のざわめきがさらに激しくなった。
陸
陸
静かに、けれど誠実に紡がれる柔らかな低音。
俺様のように強引に奪うわけでもない、どこか不器用な懇願。
真っ直ぐな瞳に射貫かれてしまえば、内気な日奈子に拒絶する言葉など見つけられるはずもなかった。
日奈子
慌ててスマートフォンを取り出す。
画面を確認した彼が、小さく頷いた。
これで正式に繋がったという事実が、不思議な現実味を伴って、日奈子の胸に沁み渡っていく。
日奈子
初めて触れた名前に、そっと唇だけで呟いた。
そしてようやく、自分がこの人の名前すら知らなかったことに気づく。
陸
陸
ぽつりと零れた陸の声に、日奈子は小さく俯いた。
名前すら忘れてしまう自分がひどく情けなくなる。
陸
陸
陸
日奈子
簡潔な自己紹介だ。
飾り気のない言葉選びが、逆に彼の誠実さを感じさせた。
陸
微かに緩んだ口元。
一瞬だけ垣間見えた少年のような素顔に、日奈子の鼓動が甘く跳ねた。
陸
スマートフォンをポケットに仕舞いながら、陸が静かにそう言った。
日奈子は戸惑いながらも小さく頷く。
日奈子
彼は口数が少ない。
けれど、最初に抱いた冷たい印象は薄れかけていた。
むしろ、不器用ながらも懸命に歩み寄ろうとする誠実さが、少しずつ日奈子の心を溶かしていく。
日奈子
日奈子
つまり、いずれまた会うことになるのだろうか。
想像すると、胸の奥で何かがざわめいた。
そんな自分に気づいて、日奈子はそっと息を吸い込んだ。
そして、意を決して切り出す。
日奈子
日奈子
陸
即座に返ってくる承諾の声。
彼の真っ直ぐな瞳が、逃げ場を与えないとでも言うように向けられている。
日奈子
日奈子
陸
無言。
けれど視線が逸れない。
むしろ増した圧に、日奈子は慌てて弁解を重ねた。
日奈子
日奈子
日奈子
初対面でそんな風に呼ばれて喜ぶ女性の方が少数派だろう。
でも日奈子の場合、理由はもっと根深かった。
幼い頃、毎夜のように響いた両親の怒声。
罵り合う母と父の声の中で、幾度となく耳にした「お前」という言葉の棘。
あの恐怖と屈辱の記憶が、呼び覚まされるように蘇る。
陸
短い返答。
けれど、納得していないわけではない。
そのことが、抑揚のない声音から不思議と伝わってくる。
日奈子
陸
陸
申し訳なさそうに言われ、日奈子は慌てるしかない。
自分が勝手に傷ついただけなのに、この人はこんなにも真摯に受け止めてくれる。
日奈子
陸
じっと見下ろされると、もう反論できなかった。
日奈子は静かに頷いた。
陸
陸
日奈子
思わず声が上擦った。
年上の、しかも初対面の男性の名前を呼び捨てで呼ぶなんて、日奈子にとってはハードルが高すぎる。
日奈子
陸
畳みかけるような提案に、日奈子は完全に混乱した。
距離感が一気に縮められてしまう感覚。
日奈子
陸がじっと日奈子を見やる。
言葉だけでなく、その眼差しがすべてを物語っている。これ以上の譲歩はあり得ない、と。
圧倒されそうになりながらも、日奈子は必死に視線を逸らさないように努めた。
日奈子
陸
鋭い指摘。
ここまで来たら逃げ場はない。
日奈子
日奈子
最後の一言を絞り出すように発すると、全身の力が抜けた気がした。
これでよかったのだろうか。
おそるおそる陸の表情を窺う。
特に表情は変わっていない、ように見える。
けれど、微かな満足の色が浮かんでいるように見えたのは、きっと気のせいではないだろう。
日奈子
日奈子
咄嗟に名字を提案する。
けれど。
陸
日奈子
日奈子
陸
日奈子
陸
日奈子
聞く耳を持たない。
頑として譲らないその態度に、日奈子はついに観念した。
日奈子
陸
日奈子
陸
短く返された肯定の声に、日奈子はがっくりと肩を落とした。
どうやら一癖も二癖もある男に、ひどく好かれてしまったようだ。
それでも、最初に感じた凍てつくような冷たさは、今はもうどこにも見当たらなかった。
むしろ――
日奈子
日奈子
そんな不謹慎な感情が微かに芽生え始めていることに、日奈子自身が一番驚いていた。