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小僧

そこに目がある

小僧が指したのは天井の梁であった

見たところでなにもない

飲むような暗闇があるばかりだ

どれ、こうもりでもおったか

小僧

おらん

小僧

そこに、でっかい目があるだけじゃ

小僧

おじさんには見えんのか

ふむ

やはり見えぬ

さてはからかっておるのかと思い

小僧を見返った

しかし、そのような目付きでもない

いかほどの目だ

小僧

一尺(約30cm)はある

なに、一尺

小僧

それに、蜘蛛のような足が生えておる

小僧

こちらを見ながら動いているのに

小僧

おじさんには見えんのか

再度問われ、困窮する

一尺もあれば、さすがに 見えてしかるべきだ

その上、動いているという

これはいよいよおかしな話だった

お前、そういうものはよく見るのか

小僧は知人の連れてきた子であった

もともと、諸用で訪ねてきたのだが

少しばかり出てくると言ったまま

この小僧を置いていってしまった

そんな折、 見えぬものが見えると言う

さしもの私も困ってしまった

すると、小僧はきょとんと首を傾ぐ

小僧

見るし、聞こえる

小僧

先ほど通った川の橋

小僧

あそこにはずぶと濡れたおなごがおった

小僧

手前の寺は、墓こそあるが供養なんぞしとらんぞ

小僧

寺の中は恨み言を垂れる亡者がわいておる

小僧

おじさんの刀は、誰か先祖が犬を斬ったろう

小僧

柄が湿気っておるのは、その犬が噛んでおるからだ

なにっ

確かに、私の刀はいつも柄が湿気っている

天日に干そうと、風に晒そうと いっこうに乾かぬので

もはやそういう糸なのだと 思い込んでいた

しかし犬が憑いているという

するととたんに、 気味の悪い妖刀に思えた

は、祓えんのか

小僧

おらには祓えん

それでは役に立たんではないか

小僧

役に立つ、立たんはおじさんが決めることでない

小僧

祓うことしか考えんのがいかんのじゃ

確かに、一理ある

先祖が犬を斬ったといい、 その犬が憑いている

ならば謝罪か、慰安が適切か

小僧、犬に謝罪は通じるか

小僧

うん

小僧

刀に水と飯でも捧げて、謝ってやればいい

小僧

懐かんモノではないはずだ

そうか、ならばそうしよう

ほうと、安堵の息が出る

刀の件はまぁよしとする

しかし問題は、 聞くだに気味の悪い目玉の件だった

その……天井の目とやらはなぜ憑いておる

小僧

わからん

わからんのか

小僧

口のないモノの言葉なんぞわからん

なるほど、道理だ

しかし、それではこの居心地の 悪さをなんとしようか

そう思ったときだった

小僧

小僧が声をあげた

小僧

あ、あ、あぁ

なんだ、どうした

小僧

目が、目が

なに、あの目のことか

訪ねても、小僧は天井を見上げ 答えもしない

これはなにか起こったかと 身構えたとき

大きな音をたてて引き戸が開いた

知人

おぉ、すまなんだな

知人

何事もなかったか

お前か!

いったい今までどこに……

いや、それより今はこの小僧だ

なにやら、目がどうとかと

知人

知人

あの目玉なら、今は血を噴いて潰れたろう

なんだと

知人

お前、やっかいなおなごに好かれたろう

知人

家に入ったとたん、お前を見続ける目に気づいてな

知人

根元を絶たんと出掛けたのだ

知人

先のおなごは寝ついておったが

知人

家の中を目玉だけがぐるぐると飛んでおってな

知人

とにかくそれを斬って捨てたのだ

なぜおなごの目が私の家にあったのだ

知人

四六時中お前を見ておりたいとな

知人

業の深い想いだな

知人

しかし、これにて用が済んでしまった

知人

さて、そろそろ次に行くぞ

ま、まてまて

これはどういうことなのだ

この小僧は

お前たちは、何をしているのだ

狼狽し、問い詰める私の言葉に

知人は静かに笑んだだけだった

だが我が家を出て歩きだした 二人を見送る

私の目に映ったのは

斬って捨てたと言った 血まみれの目玉を

手のひらに開いた 大きな口から食らう

得体の知れない小僧

そしてそれをにこやかに見る

額に角のある男の姿だった

短編ホラー詰め合わせ

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コメント

16

ユーザー
ユーザー

知人なのに、二人の正体が分からない。謎の残る所が良いですね!おもしろかったです😆

ユーザー

人ならざる者が人に紛れて活動するのめちゃくちゃ好きです( ´ ཫ ` )

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