テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
シーン1 ―― 新宿御苑、東門前
曇り空の下、新宿御苑の東門は静かだった。
平日の昼前、観光客の姿はまばらで、枯れかけた木々が風に揺れていた。凛は門の前に立ち、スマホの画面を確認した。
悠からのメッセージが三十七件届いていた。
全部無視した。
定刻の二分前、足音がした。
橘
振り返ると、黒いコートを纏った女性が立っていた。髪を後ろでまとめ、眼鏡の奥の目は鋭い。しかしその目の下には、凛と同じように、濃い疲労の色があった。
凛
橘
シーン2 ―― 御苑内、人気のない並木道
二人は並んで歩いた。橘は前を向いたまま、低い声で話し始めた。
橘
凛
橘
凛
橘
凛
橘
凛は足を止めた。
凛
橘
風が吹いた。枯れ葉が二人の間を転がっていった。
凛
橘
凛
橘
シーン3 ―― ベンチ、池のほとり
橘が足を止め、池のほとりのベンチに座った。凛も隣に座る。
橘はコートの内側から、薄い封筒を取り出した。
橘
凛
橘
凛は封筒を受け取った。中には数枚の資料と、一枚の古い写真が入っていた。
写真には、見覚えのある場所が写っていた。
凛
橘
凛の手が止まった。
凛
橘
凛はゆっくりと写真を見つめた。
見慣れた商店街。見慣れた公園。見慣れた——何もなくなった、故郷。
凛
橘
シーン4 ―― 凛の動揺
沈黙が続いた。
池の水面が、風でさざ波を立てていた。
凛
橘
凛
橘
凛は橘の顔を見た。
凛
橘
凛
橘
凛は答えられなかった。
凛
橘
橘の声に、わずかな痛みが混じった。
橘
シーン5 ―― 監視
その時、橘がはっと顔を上げた。
橘
凛
橘
橘はすでに立ち上がり、歩き始めていた。凛も立ち上がり、さりげなく後を追った。
遠くの並木道に、黒いスーツの人影が二つ見えた。
橘
凛
橘
凛
橘
橘が一瞬だけ、立ち止まった。振り返らないまま言った。
橘
それだけ言って、橘は左の道へ曲がっていった。
凛はまっすぐ東門へ向かった。
シーン6 ―― 帰り道、スマホの画面
東門を出た瞬間、スマホが震えた。
悠だった。
悠
凛
悠
凛
悠
凛
悠
凛
悠
凛
電話を切った。
封筒の中の写真を、もう一度だけ見た。
七歳の凛が走り回っていた商店街。もう存在しない、あの場所。
母に「どうして急に引っ越すの」と聞いたとき、父は笑って言った。
いい場所を見つけたんだよ
あれは、嘘だったのか。
それとも——自分たちだけを、逃がすための——
凛
空の歪みが、今日は少し、大きくなった気がした。
シーン7 ―― 情報管理局、局長室
同じ頃。
窓の外に東京の街を見下ろす男がいた。
黒瀬司。情報管理局局長。
部下が静かに報告する。
部下
黒瀬
部下
黒瀬
黒瀬は振り返らなかった。
部下
長い沈黙。
黒瀬
部下
黒瀬
男は静かに笑った。
窓の外、東の空に、うっすらと歪みが見えていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!