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#怪異
×××
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菊田千尋は
スカートの右ポケットから
リングで束ねられた鍵を取り出し
そのうちの金色の鍵を
穴にさし込んだ
鍵をひねりドアを開けると
むっとするような熱気が出迎えてくれた
千尋
ローファーを脱ぎ捨て
玄関横の窓のロックを外し網戸にする
そしてそそくさとリビングへ向かう
千尋は部活動には所属していないから
学校が終わったら
すぐに家に帰ることができる
成績は可もないが不可もなく
追試や補習の対象になることもなかった
来年になれば受験生になる
千尋には自信があった
レベル低めの大学を狙えば
合格は容易である、という自信
鯉城高校は幸いにも
進学率100%
現役合格率は95%だ
来るべき時期になれば
その時また色々教えられるらしい
そういう話を聞いていた
今日はというと
やらなければならない課題がほとんどない
だから十分寝ることができる
目の前のことだけ考えても
なんとかなるだろう
そういう考えが
彼女の理性を支配していた
最近の一番の楽しみ
それは惰眠だった
千尋
もう一度誰もいない部屋に声をかけ
ドアを開く
父は会社で
母はパートだから
夕方になるまで家にいるのは
千尋ひとりである
それでも
彼女の気分はゴムボールのように弾んでいた
先ほど教室で感じていた
不穏な空気感のことなど
すっかり忘れてしまっていた
千尋
自分の席の上に
荷物をどさりと落とし
テレビのリモコンの電源ボタンを押す
テレビの
一定かつ無機質な音声
それを聞いていると
なぜか気持ちが妙に落ち着くのだった
続いて 食器棚の下のラックに入っている
ポテトチップスを取り出す
そこには母が買ってくる
スナック菓子が常備されている
いつもその中から
好みの菓子が入った袋をとり
優雅なティータイムを楽しんでいる
千尋
袋の上部のつまみ部分を引っ張り
袋を裂かないようにゆっくり開く
ポテトチップス特有の
馬鈴薯と油とが合わさった香ばしい空気
それだけで思わず
生唾が出てしまう
テーブルの上に置いて
先ほど荷物を置いた椅子の隣に腰掛け
袋の中に手を差し入れる
千尋
テレビを眺めながら
ポテトチップスを数枚重ねて
口の中に放り込む
少し噛みきれないぐらいが
彼女を充足させるのに必要な量だった
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
テレビは白い太陽と
蜃気楼で滲む街並みを交互に映した
千尋
千尋
千尋
千尋
立ちあがろうとして椅子を動かした瞬間
鞄が椅子から落ちた
側に入っていたものが
フローリングに散乱する
千尋
ひとつひとつ拾い上げる手が
「それ」を持った瞬間
ぴたりと止まる
千尋
一通の茶封筒
千尋は封がしてある部分を
たどたどしくちぎると
中から一枚の「手紙」を取り出した
広げてみる
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
千尋はとっつきにくい文章を眺めながら
鼻でふっと笑った
千尋
千尋
印字された紙を折りたたむと
封筒と共にゴミ箱に叩き込んだ
再び椅子に座り
ポテトチップスを口に運ぶ
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
千尋
千尋
粗雑に扱われた紙切れは
ゴミ箱の中で
窓から射抜くような光を浴びていた
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
千尋
千尋は椅子を立って
先ほど捨てたばかりの手紙を拾い上げる
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
指先で文字を追う
アナウンサーが喋っている内容と
一言一句違わぬ文章が
そこに書かれていた
千尋
千尋
アナウンサー
アナウンサー
千尋が手にしている手紙を読み上げるかのように
アナウンサーは淡々と喋り続けた
手紙を読んでいるのは自分だけではない
アナウンサー そして
顔も知らない死者が読んでいるのだ
コメント
4件
うわあ、この第4話、じわじわ来ますね…。千尋ののんびりした日常が、テレビのニュースと手紙の内容がシンクロした瞬間に一気に不気味な空気に変わる感じ、すごく好きです。「惰眠が一番の楽しみ」って呑気な女の子が、まさか自分宛ての手紙とテレビの内容が一致するなんて思ってないですよね。最後の「顔も知らない死者が読んでいる」で背筋がひんやりしました。続きがすごく気になります!