テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あの年の春は、やけに風が強かった。
レンは新しい家の玄関先で立ち止まっていた。 段ボールはまだ片付いていない。
レン
ドアを開けた時、隣の家のドアも同時に開いた。
音に引き寄せられるように顔を上げる。
同じ制服を着た女の子が無表情のまま靴を履いていた。
目が合う。
一瞬だけ。
その一瞬で、レンの何かが、音もなく崩れた。
レン
理由はなかった
特別な仕草があったわけでもない。 ただ、、
レン
そう思ってしまった。 だけだった
アオイ
女の子の声は低くて、感情が見えなかった。
レン
レンは無駄に明るく答えた。 沈黙が怖かったから。
アオイ
それだけ言って行った。
歩き出した背中がなぜか遠く見えた。
レン
そう思ったはずなのに、目は自然と追っていた。 焦ったように追いかける
レン
アオイ
女の子は立ち止まらずそう言った。
レン
返事はなかった。 でも、完全に拒絶された気もしなかった。
学校までの道は、同じだった。 二人の間に会話はほとんどない。
レン
アオイ
レン
アオイ
短い返事。 でも、返してくれた。
レン
それだけで、少し救われる。 校門が見えた時。アオイが足を止めた。
アオイ
レン
それだけ言って人混みに消えて行く。 胸の奥が少しざわついた。
昼休み。 クラスの騒音の中でレンはふと廊下を見る。 遠くにアオイがいた。
レン
近づきたいのにどうしていいかわからない。
放課後。 家の前で、また隣のドアが開いた。
アオイ
レン
アオイ
レン
たったそれだけだったけど。
その日が一番嬉しかった。
この時のレンとアオイはまだ知らない。 このなんでもない夕方も、朝も。 どうしようもなく恋しくなること。 この静かな始まりが、2人を引き裂くほどの時間になることも。 あの時は、ただ隣にいるだけで幸せだったことも。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!